空爆の拠点アル・ウデイド空軍基地からのレポート

2015.2.2


 military.comによれば、カタールのアル・ウデイド空軍基地(Al Udeid Air Base・kmzファイルはこちら)で、米軍と同盟軍はモスル(Mosul)奪還に向けた準備をしています。

 基地の将校はここ2週間の集中的な空襲がシリア国境からモスルへの重要な2つの補給路を切断させたと言います。

 米主導の同盟国の軍用機は8月以来、イスラム国の陣地に6,000発の爆弾を落としてきました。

 モスルは6月に陥落し、カリフが宣言されました。政府軍とシーア派民兵が彼らを止める前に、民兵は約250マイル南のバグダッドの端へ攻撃を出発させるためにモスルを用いました。

 シーア派が支配する中央政府と軍からの差別に直面した大半のモスル住民は、最初はスンニ派の侵略者を歓迎しました。民兵たちはアメリカが供給した大量の武器と弾薬と逃げる政府軍から装甲車両多数を奪いました。

 クルド当局は、イスラム国民兵が防除を強化するために、戦闘員を増強し、道路を封鎖し、市の西端の主要な端を爆破したと言います。彼らは元イラク軍将校と、2003年の侵攻で倒される前にサダム・フセインを支援した地元スンニ派当局との同盟も作り出しました。「我々は彼らが要塞を造り、街の周辺に塹壕を掘っているという情報を得ています」と、イルビル(Irbil)のクルド軍広報官、ジャバル・ヤワル(Jabar Yawar)は言いました。「彼らが支配するすべての地域に、爆弾とブービートラップを設置するのは、彼らの習慣です」。

 攻撃軍は武装勢力の位置と防御に関する情報のために市内に支援者や情報提供者を必要とします。モスルの住民多数派過激派が強制する厳しい命令と基本的な必需品の欠乏に不満を言うものの、不満は反乱には遠いようです。

 今のところ、イラク軍はバグダッド(Baghdad)とその周辺の防衛に集中しています。12月に、アンバル州(Anbar)ラマディ(Ramadi)の西方で激戦がありました。民兵がネットに投稿した写真は、戦闘員が捕獲した兵員輸送車を使い、RPGを発射するのを示しました。

 ペシュ・メルガ(peshmerga)として知られるイラクのクルド軍はモスルのずっと近くにいます。1月21日に彼らは街の北部でチグリス川両側から攻勢を開始し、キスケ(Kiske)でモスルとタル・アファル(Tall Afar)、シンジャル(Sinjar)、シリア国境をつなぐ幹線道路をつなぐ戦略的な交差点を占領しました。

 クルド人は米軍とその他の軍戦略家と、空爆の指揮所であるアル・ウデイド空軍基地で活動しました。攻撃計画を練った後、ペシュ・メルガは市の30マイル北西にあるモスルダム近くの武装勢力陣地多数を攻撃し、多くの戦闘員をあぶり出しました。「それは文字通りアリ塚を蹴飛ばすみたいでした」とアル・ウデイド作戦センターの副指揮官リン・パイツ空軍大佐(Col. Lynn "Woody" Peitz)は言いました。「そこから動的な目標が生まれました」。

 同盟国の軍用機は精密誘導爆弾を民兵の陣地、武器貯蔵庫、装甲車両に投下しました。クルド戦闘員は太守的に約300平方マイルの領域を取り戻し、補給路を切断しました。

 alarabiya.netによれば、対イスラム国同盟国は土曜日、イスラム国の目標76ヶ所に対して、27回の空爆を行いました。

 攻撃目標には民兵がタル・アファルで自動車爆弾を造るとされる工場に加え、キルクーク(Kirkuk)近くのイスラム国の大部隊が含まれたと、対イスラム国国際的同盟の副特使、ベレット・マクグルーク(Brett McGurk)は言いました。


 長い記事ですが、必要なところだけを紹介しました。

 キスケの正確な位置は分からないものの、モスル北西部の1号線の交差点のことと思われます。これはとても重要です。すでにモスルに対する補給路は切れていると考えられますが、市内に備蓄された物資が当面はあるはずです。

 しかし、モスルのスンニ派がイスラム国を支持しているのは問題です。クルド人に協力するスンニ派がその一部でも説得してくれるとよいのですが、市民が協力する以上、市街戦は激戦となる恐れがあります。大変な死傷者が出ると予測されます。

 イスラム国が行政サービスを地元に提供しているのは周知の事実です。その重要なインフラが発電所と油田です。これについて、下の本「イスラム国 テロリストが国家をつくる時」が解説しています。

 本としては、この本は私には物足りませんでした。研究者が研究対象に惚れ込んでしまうことはよくあります。蜘蛛の専門家は誰が何と言おうと蜘蛛を美しい生物だと言い張ります。それと同じく、イスラム国の専門家はイスラム国の攻勢を過大に評価することがあるのです。これまで何度も指摘してきたように、イスラム国の戦略は一貫性がなく、矛盾しています。

 当然、水力発電ダムや油田は米主導の同盟国にとって、重要な攻撃目標となります。すでにかなりの部分が空爆により破壊されており、原油価格の下落によっても、彼らは打撃を受けています。これらのインフラが破壊されると、イスラム国は住民に増税して反発を買うか、撤退して、シリアへ撤退するしかありません。最終的にはラッカ周辺に籠城することになります。多分、それが米軍が描いているイスラム国掃討のシナリオです。

 さらにモスル奪還が着々と進んでいます。すでにクルド軍はモスル北西部に到達し、ユーフラテス川の両方から攻めています。空爆の回数も急増していて、作戦はうまく行くという予兆が出始めています。問題はモスル住民に大量の犠牲が出そうだということだけです。イスラム国を支持するスンニ派の男たちはジハードの論理で自衛のために戦い、女性や子供を疎開させようとは思わないでしょう。犠牲を防ぐためには、攻撃の前に、投稿するよう呼びかけを行うしかありません。

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