中国が駆逐艦通過に反発も妥協も示す

2015.10.30

 military.comによれば、中国軍は南シナ海の島の領海で米海軍のさらなる侵害に対して、すべての必要な手段をとると、中国部広報官、ヤン・ユージン大佐(Col. Yang Yujun)は木曜日に言いました。

 中国政府が将来、どのように別の対処をするのかについてヤン大佐は言いませんでした。「我々はアメリカが間違った道を進まないよう主張します。しかし、アメリカが止めないなら、我々は必要に従ってすべての必要な措置をとります」。国家の主権と安全を守る中国の決意は岩のように硬いのです、と彼は付け加えました。

 アメリカは領有権に関して公式な態度を示していませんが、航行の自由を主張し、中国に建物と港、滑走路と完備した新しい島を建設する野心的な計画を止めるよう中国に迫ってきました。航行は国際的に認められる無害通航に該当するとみられますが、ヤン大佐はUSSラッセンが中国の主権と国際法を侵害したという中国政府の主張を繰り返しました。大佐は中国政府の主張を詳述しませんでした。大佐は中国艦2隻がラッセンを追跡し、行動を監視して、警告を発したと言いました。彼は中国は航行・飛行の自由を支持するが、アメリカが自国の利益のためにそれらを乱用したと非難しました。「我々は沿岸国の利益と安全を損ないかねない航行の自由に名を借りたいかなる活動にも強く反対します」とヤン大佐は言いました。ヤン大佐は、中国海軍指揮官、呉勝利海軍上将Adm. Wu Shengli)が、木曜日遅くの米海軍作戦部長、ジョン・リチャードソン海軍大将(Adm. John Richardson)とのビデオ会談でこの問題に関する中国の厳粛な姿勢を示すと言いました。

 しかし、彼は今年後半に太平洋艦隊指揮官、ハリー・ハリス・Jr.海軍大将(Adm. Harry Harris Jr.)の訪問は計画が進行中なので、この事件が両者間の公的な交流を中断させないといいました。ハリス大将はメキシコ湾がメキシコのものでないのと同様に、南シナ海は中国のものではないと述べました。


 記事は一部を紹介しました。

 中国が「航行の自由」を公式に認めたことは大きいですね。問題はその先で、「中国の主権と国際法を侵害した」との主張は大いに問題があります。南沙諸島は領有権の主張が南シナ海を取り巻く国が複雑に主張し合っていて、その解決がついていません。ところが中国は南シナ海全体が中国の主権の中にあると主張しています。これをアメリカは「接近阻止・領域拒否」戦略と呼んでいて、多分、これはその内、日本のメディアでもナントカの一つ憶えで繰り返されることになるはずです。中国にとって、海軍力が発揮できるのは南シナ海と東シナ海しかない。ここを押さえておけば、国防上も外交上も有利と考えているようです。

 しかし、南沙諸島の領有権は台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシアがそれぞれに主張していて、事実上支配している国も複雑に入り乱れています。ウィキペディアに載っている一覧表を見ると、その中身が分かります(該当ページはこちら)。公正な立場として考えると、中国の言い分だけ聞けることではありません。また、中国と対立しているのは主にフィリピンとベトナムのように思われていますが、実際には中国と並んで台湾が多くの主張をしていることも分かります。中国が詳細を説明しないのも当然で、言葉にすると矛盾が明らかになってしまいます。

 なお、「無害通航」は国際法上の規定があります。

1958年領海条約第14条第4項
通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約の規定及び国際法の他の規則に従つて行なわなければならない。
1982年国連海洋法条約第19条
  1. 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。
  2. 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。
(a) 武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
(b) 兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
(c) 沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
(d) 沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
(e) 航空機の発着又は積込み
(f) 軍事機器の発着又は積込み
(g) 沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通貨又は人の積込み又は積卸し
(h) この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
(i)漁獲行為
(j) 調査活動又は測量活動の実施
(k) 沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
(l) 通航に直接の関係を有しないその他の活動

 ここで問題なのが日本政府がこの問題を集団的自衛権の観点から歓迎しているらしいことです。自衛隊出身の「ヒゲの隊長」こと佐藤正久衆議院議員は自らのフェイスブックに次のように書いています。

 【いよいよ開始!米ミサイル駆逐艦「ラッセン」南シナ海の中国人工島12海里内へ=米当局者】
現地時間27日早く、南沙諸島の埋め立て前は暗礁だったスビ礁とミスチーフ礁付近を航行
これは、暗礁をいくら埋め立てても島とは認められず、結果、12海里の領海も設定できないことを主張する狙いもある。今後どれ程の期間、米駆逐艦が12海里内に留まるのかも焦点の一つ。
中国の対抗策はまだ、明らかになっていないが、警告や退去要求、中国艦艇の随伴等はありえるだろう

 まず、この作戦は中国が領海と主張する海域だけでなく、ベトナムとフィリピンが支配する島の領海に相当する海域も通過したことを忘れていて、中国だけに対する警告と解釈していることが問題です。埋め立ては中国だけでなく、他の国々もやっており、軍隊を駐留させている国もあります。埋め立てを止めろというのなら、実施するすべての国に対して止めろと言わなければなりません。なのに、佐藤氏は別の発言で次のように書いています。

中国政府は
「強烈な不満と断固たる反対」
を表明していますが、
国際法違反をしているのは中国。

 この中国の行動だけを問題視する態度は、日本のこの問題に対する中立性を損ねるだけです。特に昨今の日本は「中国憎し」の世論が増幅しています。私も中国に対する不満を抱える者ではありますが、問題を冷静に観察し、切り分ける事が重要と考えています。最近のように感情的に中国に反発するごとき風潮は国が進む道を誤らせるだけとみなしています。

 つまりは、佐藤参議は「航行の自由」を理由に、この地域に介入したい、海上自衛隊を派遣したいのでしょう。日本のタンカーが通過する南シナ海を守るために米軍が活動しているのだから、集団的自衛権で米軍を支援するのは当然という主張は、安保法案成立後には簡単に書けます。

 第2次世界大戦で北米大陸からソ連とヨーロッパ諸国など、ドイツと対抗する国に対して、大量の物資が船で送られました。ドイツは潜水艦を大西洋に配置して、この方面へ向かう船を撃沈する作戦に出ました。これは船の国籍と進行方向を見れば攻撃すべき船が判断できるからやれた作戦でした。南シナ海は韓国とかロシアなどへ行く船も通る上、船の国籍だけ判断しても積荷がどこへ行くのかは分からないのですから、容易に撃沈すれば、無関係な第三国と事を構えることになりかねません。また南沙諸島で領海・領空を主張しても、南シナ海上に公海は存在します。中国は南シナ海全体に主権が及ぶと主張していますから、それを言い始めて、はじめてここが通過できなくなることになります。

 海上自衛隊を派遣することは、日本がこの問題に対して、関係国の国際会議を日本で開催するという、国際社会において名誉ある立場を占める選択肢を放棄することに等しいのです。誰も武力を送り込む国で和平会議をしようとは思いません。物事を決めるには、様々な方面から検討して、その利点と欠点を考えなければなりません。安倍政権はそんな考察はせず、自衛隊を派遣することだけを考えるでしょう。いまや自民党の支持者たちはただのカルト信者であり、政権がやることを正しいと信じ込んでいます。誰も反対せず、戦争に足から突っ込んでいくことになります。

 


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