ネットに流れる不正確な情報にご注意

2015.10.12

 今朝、たまたま見かけたメールマガジンの「ISの黒幕はアメリカ?シリア騒乱で炙りだされた『米国の戦争屋』」という高城剛氏の記事は驚くほど誤りが多い内容でした。

 詳細部分も主論部分もあまりにずれていて納得いきません。こうした情報に惑わされる人たちもいると考えて、ここで指摘することにしました。

現在、共和党のマケイン議員とISISのトップといわれるバグダディの会議写真が出回り、真偽も含め大問題になっています。

 ジョン・マケイン上院議員がイスラム国の指導者バグダッディと一緒にいる写真があるという主張です。しかし、この写真を根拠にして、イスラム国をアメリカが作ったと主張するのは無理です(yahoo掲載の写真はこちら)。まず、バグダッディに似た男が写っているのは間違いありませんが、本当に本人かは分かりません。写真は2013年4月に撮影されたようですが、CNNでも放送された映像には、画面に「Syrian Emergency Task Force」との文字が見えます。記念撮影らしい写真には自由シリア軍の参謀長サリム・イドリス准将も写っています。つまり、これはマケイン議員が自由シリア軍を訪問した時の写真なのです。そこにバグダッディがいたことが確認する必要があります。CNNが取材に入っていたくらいですから、これは公式の訪問です。秘密の会議なら取材は行われなかったでしょう。また、写真が本物だったとしても、アメリカがイスラム国に資金援助した証拠にはなりません。イスラム国がアメリカ製の武器を使っている写真があるといいますが、自由シリア軍に貸与した武器が過激派に流れた事件もありました。イラク軍に与えた武器が大量になくなった事件もあり、それらを買って使っている可能性もあります。

 冒頭、編集部が書いたと思われる文にも「拒否権」に関しておかしな点があります。

ロシアによる空爆により、ますます混迷を極めてきたシリア情勢。国連総会で参戦を表明したロシアに対し、常任理事国であるアメリカは、なぜ拒否権を発動しなかったのでしょうか? 『高城未来研究所「Future Report」』では、そこにはオバマ大統領の「暗黙の了解」があったと言います。

 上の文は著者が書いた本文中の下記を反映したものと思われます。

この数ヶ月、米国民主党穏健派でオバマ大統領の名代であるケリー国務長官が何度もロシアとシリアに出向き、中東の混乱を収める策を講じてきました。そし て、先月の国連総会でプーチンが「テロの一掃」を掲げ、シリアに空爆を行うことをついに明言しました。もし、オバマ大統領がこの案に本気で反対していると したら拒否権発動できたはずですが、実際にはそのようなことはありませんでした。ここに暗黙の了解があることがわかります。その上、欧州諸国がや中東の多くの国もロシアの空爆や進駐に賛同しているのです。

 拒否権は安全保障理事会における権利です。国連憲章第27条は次のように定めています。

【表決】
第27条
安全保障理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって行われる。
その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。但し、第6章及び第52条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。

 「常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票」の部分がいわゆる「拒否権」を定めています。しかし、それは安保理の中に限られた権利です。従って、国連総会でロシアが何を言おうと、アメリカが拒否権を発動することができないのは当然です。また、地域的な集団的自衛権は国連憲章で肯定されていますから、ロシアは批判を退けることができるのです。

しかもロシアは、中距離弾道ミサイルを発射しています(しかもプーチンの誕生日にお祝いのように)。軌道をみると、問題あるトルコを見事に迂回して着弾し、これによりロシア軍のミサイル性能が明らかになり、その精度は驚くべきものです。

形状をみると有翼ミサイルSSN27に見えますが、SSN27は射程距離300km程度ですので、1,500km近くを飛んだこのミサイルは、ロシアの最新型中距離弾道ミサイルと見られます(新型カリブルであれば射程距離2500kmです=イスラエルも射程距離)。

 まず、プーチンは誕生日祝いにミサイルを撃つような馬鹿者ではないと書いておきましょう。

 このミサイルは先日、ロシアがシリアに向けて発射した巡航ミサイルのことです。なぜか著者は中距離弾道ミサイルだとしています。巡航ミサイルは航空機に似た構造で、低速度で大気圏内を長距離を飛びます。弾道ミサイルは高速度で大気圏外まで上昇し、長距離を飛びます。まったく構造が違うミサイルで、使われ方も違うのに、両者を混同しているのです。

 精度が驚くべきものだったとしていますが、26発撃って4発が途中で墜落したことには触れていません。

 SSN27(通常はSS-N-27と書かれます)が有翼ミサイルだということですが、宇宙ロケットと同じ構造の弾道ミサイルには翼は必要がありません。

 「射程距離」と書いていますが、これは普通「射程」と書きます。

 その射程ですが、以前はSS-N-27はバリエーションによって、射程40〜300kmでした。しかし、今回使われたカリブルは新型の3M-14Tで、射程が一気に2,500kmに伸びています。著者は「新型カリブルであれば射程距離2500kmです」と書いているにも関わらず、その可能性を考えようとしません。

 テレビで報じられたミサイル飛翔コースを見ると、ミサイルは何度か旋回しており、ほとんど直線に飛ぶ弾道ミサイルのコースの特徴とは明確に異なっています。著者はミサイルがトルコを迂回したと書いていますが、弾道ミサイルは途中にある国を迂回するのではなく、領空の上を飛び越えていくのです。

 ロシアはアメリカなどに何の通告もなくミサイルを発射しました。弾道ミサイルを警告なしに発射すれば世界が大騒ぎになり、第3次世界大戦になりかねません。

 著者は軍事の基本的な事柄を分かっているのでしょうか?。私には大変に疑問です。そうした人が書いた文章により、誤解を持つ人が増えないことを願います。

 


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