イラク増派は本格的増派につながらない

2014.7.3


 military.comによれば、米国防総省はイラクへの派遣が本来の目的を越えた任務であることを否定しました。

 国防総省広報官、ジョン・カービー海軍少将(Rear Adm. John Kirby)は、承認された770人の内、650人はすでにイラクにいると言いました。彼はさらなる兵士と資産がある時点で派遣される可能性を否定しません。

 元海軍将校で、『the Institute for the Study of War』の中東アナリストのクリストファー・ハーマー(Christopher Harmer)は、米軍が現場での状況を返るために、もっと多くをする必要があると言いました。「(軍事顧問は)インパクトを与えられるが、重大だとか、決定的なものにはなりません」「治安状況が米軍が現在関与しているより多くの支援が必要になるのは、ほぼ必然的です。アメリカが治安の支援を与えると決断するかどうかは、別の問題です」。

 ハーマーは、イラク軍はアメリカから受けられる近接航空支援すべてを必要としていると言いましたが、アパッチ攻撃ヘリコプターは低空を飛ぶと、ISISの対空兵器には脆弱だと認めました。

 今なぜ300人と航空機の増派かと訪ねられ、カービー中将は「(最初に米軍が派遣された)6月16日以降、状況は変わりました」「状況は動的で、毎日変わります。そして、ISISはバグダッドと空港を含むその周辺へ本当の脅威を与え続けています」と言いました。

 しかし、カービーはISISが首都を占領しようとしているようには見えないと言いました。「彼らは、単に北部と西部に圧力を加え続けています。しかし、我々は大きな前進やその種のものは見ておらず、彼らの意図が何かを言うのは困難です。明らかに、彼らはその完全な存在と活動、彼らがイラクのあちこちで成し遂げた利益を強固にしようとしているという事実により、バグダッドに脅威を与えています。しかし、我々は首都に入るための、あからさまな動きは何も見ていません」。カービー中将は、シーア派民兵に支援されたイラク軍は、 ISISが大攻勢をかけても、首都を守るために戦うと国防総省が考えていると言いました。


 記事は一部を紹介しました。

 目的を越えた任務について、記事は「Mission Creep」という表現を用いています。正式な軍事用語ではなく、メディアが創った言葉です。

 これは米国内で、イラクへの増派が「悪夢再び」と受け取られていることの表れです。しかし、私が前から指摘しているように、これが本格的な派遣につながることはありません。

 ハーマ氏の見解は、無人攻撃機や空軍力などを使った支援という形で現実化する可能性は十分にあると思います。しかし、地上軍の派遣にはつながりません。アパッチ攻撃ヘリの弱点も大した問題ではありません。近接航空支援はアパッチだけではないからです。

 カービー中将が、ISISの動きはバグダッド侵攻を目指していないと言ったのは重要です。これは偵察衛星や無人・有人偵察機による偵察に基づいた分析は、それを示唆していないということを意味します。意図が分からない行動を繰り返すのも、イスラム武装勢力の特徴でもあります。ISISはシリアとイラクの手薄な部分を自分の領域に置き、その地固めをしたいのです。それをイラク軍がうまく挫いてくれれば、ISISは再びシリアに戻るでしょう。

 イラク軍が首都を防衛するのは、それほど難しくはありません。空対地ミサイル多数が貸与されていますから、イラク軍だけでも、かなりの航空支援力があるのです。

 しかし、反西欧という形でのイスラム武装勢力は、アルカイダに限定されず、その種の看板を掲げれば、支持を得られるという構造が現実化しつつあります。アルカイダが衰退しても、ISISが居残るという形です。あるいは、まったく別の組織が誕生するかも知れません。まったく違った時代が来ようとしています。

 


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