親ロシア民兵が対空兵器を使用

2014.5.30


 BBCによれば、ウクライナ東部の親ロシア反政府派がスラビャンスク近郊(Sloviansk)でウクライナ軍ヘリコプターを撃墜し、12人を殺害したと、ウクライナ軍が言いました。

 同軍は反政府派がロシア製の対空システムを使い、死者の中にウクライナ軍将官が含まれていたと言います。

 ペトロ・ポロシェンコ次期大統領(Petro Poroshenko)は東部の「盗賊たち」に対処すると誓約しました。

 ロシア外務省はアメリカと欧州連合に、ウクライナが国家的カタストロフに入るのを防ぐために、すべての影響力を用いるように迫りました。

ドネツク州のロシア人ジャーナリスト アルカディ・バブチェンコ(Arkady Babchenko)の言

 ヘリコプターがスラビャンスク近くのカラチュン(Karachun)に、遠征を終えて、立ち去ろうとするグループを乗降させるために到着しました。彼らは離陸した後で撃墜されました。私はパイロットとセルゲイ・クルチトスキー中将(Maj Gen Serhiy Kulchytskiy)とも話をしました。パイロットはとてもよい人物で、礼儀正しく、的確で、親切でした。クルチトスキー中将も有能で、話しやすい人物でした。兵士がいる検問所へ飛ぶ有能な指揮官でした。彼は彼らに食糧と水を個人的に持っていきます。彼はすべてに気を配っていました。ここでの戦いは最近より頻繁になりました。ここ数日は、戦闘は日中にも起こりました。かつては、戦いは夜に起きるだけでした。しかし、ここ2日間は比較的静かでした。軍は検問所に人を配置して、ドネツク人民共和国の軍隊が自由に移動することを防ぎます。兵士の間のムードは良好です。脱走や降参の話はありません。人々は良好な敢闘精神でいます。

 現地にいるBBCのマーク・ローウェン(Mark Lowen)は、この事件はウクライナ軍への大きな打撃だったと言いました。ヘリコプターはスラビャンスクとクラマトルスク(Kramatorsk)の間の激戦の中、基地に兵士を降ろした後で攻撃されました。戦闘と特殊訓練担当のクルチトスキー中将を含む国境警備隊員6人と内務省特殊部隊6人が死亡したと国境警備隊は声明で言いました。同隊は、ヘリコプターを攻撃した犯罪者たちは、対テロ作戦に関係するウクライナ軍により滅ぼされたと後に付け加えました。

 反政府派は月曜日にドネツク空港を占領しようとして最大で100人の戦闘員を失ったと言います。ドネツク人民共和国の分離主義者指導者アレキサンダー・ボロダイ(Alexander Borodai)はロシア国籍の人33人が空港の衝突での死者に含まれていると言いました。自身はロシア国民のボロダイは死体の身元は特定され、ロシアへ運ばれたと言いました。特派員は、このニュースがロシアが紛争で、現在認めているよりも大きな役割を果たしているという非難を煽ったと言います。

 月曜日には、親ロシア民兵がOSCEの監視員4人を拘束しました。自称スラビャンスク市長、ビアチェスラフ・ポノマリョフ(Vyacheslav Ponomaryov)は、ロシアのインタファクス通信に、彼らは無事で、健康であり、すぐに解放できると言いました。OSCEは監視員の居場所を知らないと言いましたが、ポノマリョフは別のロシア通信社に彼らがマキェイブカ村(Makeyevka)に置かれていると言いました。

 

死者が出た衝突の一覧

4月24日 ウクライナ軍がスロビャンスク攻勢で反政府派5人を殺害。
5月2日 オデッサの市街戦の後に起きた建物火災で40人以上が死亡。
5月9日 マウリポリで親ロシア活動家20人とウクライナ治安当局者が殺される。
5月13日 スラビャンスクとクラマトルスクの間での待ち伏せ攻撃でウクライナ兵7人が殺される。
5月22日 ボルノヴァクハの検問所への反政府派による攻撃で少なくとも兵士14人が死亡。
5月27日 ドネツク空港を占領する分離主義者への対テロリスト作戦で少なくとも40人が殺される。
5月29日 ウクライナ軍ヘリコプターがスロビャンスク近くで撃墜され、12人が殺される。

 記事は一部を紹介しました。

 ヘリコプターを撃墜するために親ロシア民兵がどんな武器を使ったのかが気になります。ロシア製対空システムと書かれているので、RPGのような小火器ではなかったはずです。離陸後直後に撃墜されたのなら、民兵は基地の近くにいて、そこから発射したことになります。すると、携帯型対空ミサイルだったという推測ができます。これはハイテク兵器になるので、簡単には手に入りません。ロシア軍の介在を臭わせる話です。さらに、クルチトスキー中将を狙った攻撃だったのなら、事態は深刻です。ウクライナ軍の活動が外に漏れている証拠だからです。

 ドネツク空港で死んだロシア人33人が何者かも気になります。親ロシア派が占拠した建物の中にいたのなら、ロシア軍の隊員かも知れません。ドネツク空港が占領された後、ここへ着陸した航空機があるとは聞いていません。それはウクライナ空軍が最も気にする部分でもあります。かつて、ロシア政府は、ロシア国民やその利益が侵害されるなら行動を起こすと言いました。民間人が33人も殺されたのなら、行動を起こしてもおかしくはありません。その気配がないことは33人が軍関係者だったことを連想させます。ウクライナ東部へのロシアの関心の度合いは未だに計り切れていません。直接的な軍事介入はせず、軍事顧問などを送り込む形で、自然発生的な介入を考えているのか、いずれ軍事力を本格的に用いるのか、単に親ロシア住民に対してポーズを取っているだけなのか。

 人数が分からない事件を除いても、すでに139人が死亡していることになります。戦闘による負荷が比較的小さいウクライナ内紛ですが、それでも百人以上の死亡が確認されました。未確認の数を加えると200人は越えるでしょう。大きな戦闘でなくても、この程度の犠牲が出ることは、理解しておいて損はありません。いま、日本では与党政治家たちが、簡単な手続きで戦争ができるようにしようとしています。あまりにも平和なため、少しくらいの犠牲は構わない、それで国際的信頼が得られるのなら有益だと考える人が増えているのではないかと心配になります。

 ウクライナ内戦のように、低負荷の内戦は小規模の被害を継続的に出し、最終的にはかなりの犠牲者へと増えていくことが多いものです。現在の集団的自衛権の議論のように「戦争をするわけではない」といった発想で安直に紛争に足を突っ込むと、あとで大きな被害を受ける可能性もあることを、我々は知るべきです。南スーダンに自衛隊を派遣するという悪手をすでに打っていることすら、日本が認識していないのは、この問題を象徴しています。さらに、日本政府内で安全保障を考えている人が、戦争にまったく疎いらしいということは、本当の危機が目の前に来た時に何もできないことも示しています。日本のマスコミが外国のマスコミほど戦争や紛争について報じないので、日本国民もその危険性や特質に気がつくこともないだろうと思います。


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