ソチ五輪の警備を専門家はどう見る?

2014.2.3


 military.comによれば、ソチ・オリンピック大会は世界で最も厳重に警備された施設の中にありますが、その他の黒海リゾート地はさらに脆弱です。

 約100,000人の警官、治安エージェント、軍兵士がソチに集まり、ロシアは史上最も安全なオリンピックを保証すると確約しました。しかし、最近の自爆攻撃で煽られたテロの恐れは、世界中のアスリート、観客、当局者を、潜在的脅威で神経質のままにしました。

 インターネットニュースサイト「the Caucasian Knot」の編集長、グリゴリー・シュヴェドフ(Grigory Shvedov)は「最も気がかりな脅威は自爆攻撃です」と言います。過去13年間に124人の自爆攻撃がロシアを叩いた、と彼は言いました。

 防空ミサイル、無人偵察機、高速パトロール艇、潜水艦を探知できる最新型ソナーなど、派遣された大量のハイテク装置がソチを空と海からの敵の侵入に備えているように見せかけます。しかし、ロシアの治安当局が最もありそうな脅威、体に原始的な爆弾を結びつけた自爆攻撃犯についてどれだけ応じる用意ができているかについて、オブザーバーたちは疑います。

 ソチの東、約640kmのボルゴグラードの鉄道駅とバスで起きた11月の自爆攻撃は34人を殺し、武装勢力がいとも簡単に攻撃を行う能力を示しました。ダゲスタンの武装勢力はボルゴグラードの事件で犯行声明を出し、ソチを攻撃すると脅しています。ダゲスタンはソチから数百キロにあります。

 ソチ警察は、3人の爆弾犯容疑者のリーフレットを配布しました。うち1人は、22歳のイスラム武装勢力の未亡人で、市中で逃亡中といわれます。この通知はソチの警備手法(数千人の季節労働者の追放、住民に対する無差別な警察のチェック)の有効性に疑問を投じました。

 地元活動家を弁護するソチの弁護士、アレキサンダー・ポプコフ(Alexander Popkov)は、ソチで戸別捜索が二回行われたと言いました。9月と10月の最初の捜索の間、警察と連邦移民局は、すべての家を捜索しようとして、60チームで、ぶっ通しで地区から地区へと広範な捜索を行いました。

 大規模は捜索活動にも関わらず、ソチの捜索者たちは小手先だけで、犯罪者と違法移民を何人か見つけただけでしたと、ポプコフは言いました。「私は彼らがテロリストの細胞を見つけたとは思いません」。

 家宅捜索をする特別な権力を持たないロシア警察は、頑固な住民が戸を開けるのを拒否すると、引き返したものでした。「私には権利があることを知っていましたから、拒否の仕方を知っていました。彼らが我が家に来た時、私は即座に拒否しました」と、しは言いました。

 警官が入ることを許した人たちは、ローンの申し込みみたいな緻密な用紙に記入するよう求められました。

 11月と12月の二番目の捜索は、ほとんどが活動家を狙い撃ちました。彼らは大会中に不法行為に関与しないと誓う書面に署名させられました。何人かの活動家は警官が要注意人物(薬物中毒者、アルコール中毒者、前科者、活動家)の長いリストを持っていると言ったと言いましたが、誰がそのカテゴリーに合致するのか分かっていませんでした。ポプコフは、ある女性は警察署に来るように命じられたが、「あとで、あなたが過激派でないことが分かっているから、来なくてよいと言われた」といいます。

 モスクワに拠点を置く、独立系警備アナリスト、アンドレイ・ソルダトフ(Andrei Soldatov)は、警察の家宅捜索はソ連時代の遺物だと言いました。「保安を確保するために働き、活動家と反対派を統制しようとして、彼らはソ連のやり方を踏襲しています」「統制は彼らにとってキーワードですが、それは保安と同意語ではありません」。ソルダコフは、コーカサスでイスラム国家の独立のために戦うイスラム過激派は、何年も前にソチにスリーパー・エージェントを置けたと言いました。「その可能性はとても高いです。彼らには長い準備期間がありました」。「the Caucasian Knot」のシュヴェドフはこれに同意します。「彼らがソチに爆弾を置きたければ、ボルゴグラードの攻撃のずっと前、大規模な建設作業が進行中で、街の中に溢れる人たちへの支配が弱いときにできたでしょう」。

 自爆テロの脅威を最小限にするために、オリンピック組織は、チケットを入手するためにパスポートの内容を共有させ、全訪問者に包括的な検査を導入しました。当局はソチに登記されていないとか、特別な許可のない車での訪問も遮断し、警備員はすべての電車通勤者を調べました。保安ルールは一部が不統一で、ジャーナリストは食べ物と水を列車に持ち込めますが、オリンピックのボランティアは持ち込めません。

 ソチ空港の外の駐車場は自動車爆弾の脅威を最小限にするために空にされ、訪問者はタクシーやバスにたどり着くために長い道を歩かなければなりません。

 シュヴェドフは、ソチの輸送インフラは潜在的な脅威に脆弱なままだと言いました。彼は、一部の鉄道線路には防護のためのフェンスがなく、容易に近づけると言い、空港に向かって洋上を低く飛ぶ航空機は狙われやすいと警告しました。

 警察に協力することに対する住民の抵抗は、脅威を特定することを、さらに難しくしかねないと言いました。「人々は、治安当局を信頼していません」とシュヴェドフは言いました。「警戒したことで賞賛されるかわりに、容疑者に転じ得ることを理解しているために、彼らは当局に接触することを恐れています」。

 2004年、テロリストががチェチェンの州都、グロズヌイ(Grozny)の建設中のスタジアムに爆弾を仕掛け、政府が支援する地域の大統領で、現役の地域の指導者ラムザン・カドロフ(Ramzan Kadyrov)の父、を殺しました。多くのアナリストは、それでも、厳しい統制が、こうしたソチの脅威を防いだだろうということに同意します。

 「オリンピック会場に爆弾が設置されるという推測はありそうにありません」と、IHSジェーンズ・インテリジェンス・レビューの編集者、マシュー・クレメンツ(Matthew Clements)は言いました。「建設労働者は作業が始まる前に綿密に調べられ、シンパシーを感じる者が爆弾を置けたとしても、彼らは様々なセキュリティ調査に見逃される必要があります」。クレメンツは、武装勢力がオリンピック会場の厳しい警備を抜けるのは難しいと言いました。

 「我々は依然として、大会前と期間中に、ソチの保安地域の外側、ボルゴグラード、ロストフ・ナ・ドヌ(Rostov-on-Don)、クロスノダール(Krasnodar)、スタヴロポリ(Stavropol)、アストラハン(Astrakhan)のような街、モスクワのような大都市でのイベントを狙う攻撃の高いリスクがあると評価します」。

 カドロフは今月早く、7月に仲間にオリンピックを攻撃するよう訴えたチェチェンの反政府指導者、ドク・ウマロフ(Doku Umarov)が死亡した証拠はまったくないと主張しました。しかし専門家は、ウマロフはコーカサス首長国(独立して活動する武装細胞の参加グループ)の長としての巨大な象徴的役割を果たしていると言います。「ウマロフは彼らを前進させ、重要なことを行ってきました」とソルダトフは言いました。「彼らはウマロフの生死に関係なく活動します」。


 記事の大半を紹介しました。

 オリンピックが近づくにつれて、国内マスコミは、ソチ・オリンピックがテロ攻撃の対象であることを報じなくなりました。あるのは金メダルへの期待だけです。いつもの妙な自主規制が働いているようです。

 どんなテロ攻撃が起きるかは、テロ組織の準備次第です。 何年も前にソチに爆薬を持ち込んで、隠していたら、簡単には見つけられません。サスペンス映画なら、身元を完全に隠した者をソチに潜入させ、オリンピックに関連した仕事をさせて、爆弾を持ち込む隙を窺うところです。このように、敵地に潜入させた工作員が「スリーパー」です。彼らがその時が来るまで、現地で眠っているように静かにしています。映画と違い、実際には、そうしたスリーパーは、現実にはなかなかお目にかかれないのが救いです。専門家は可能性は高いと言いますが、すべてはテロ組織の準備次第です。彼らが何もしていなければ、その心配は皆無なのです。

 テロ組織が小火器以上の武器を手に入れているのかも問題です。先日書いたように、迫撃砲は最も手軽な武器です。対空ミサイルがあれば、指摘されているように、航空機も狙えるでしょうが、簡単には手に入りません。結局、一番簡単なのは、警備が薄い、人が集まる場所での自爆攻撃が一番実行しやすいということになります。

 「22歳のイスラム武装勢力の未亡人」は、ボルゴグラードの鉄道駅での事件の容疑者とされ、その後に取り消された人物です。この取り違えは、現地警備陣の能力の低さを感じさせました。彼女の幻影に警備陣が自ら振り回されているという感じがします。この調子では、住民の信頼も得られないでしょう。そこが心配です。記事にも指摘されるように、硬直化した警備陣が筋違いの警備をすることで、テロ組織に攻撃のチャンスを与えるかも知れません。警備の詳細までは知りようがありません。そこに一抹の不安は残ります。


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