五輪表彰式で国歌を歌え?

2014.2.14


 軍事問題とは直接関係が薄いのですが、J-CASTニュースの2月9日付けの記事(下記のタイトル)について、少し書きます。

「負けたのにヘラヘラと『楽しかった』はあり得ない」 竹田恒泰氏の五輪選手への「注文」が賛否両論

(前略)
 そうした中、明治天皇の玄孫で日本オリンピック委員会(JOC)会長・竹田恆和氏の息子でもある竹田恒泰氏が8日、ツイッターで口を開いた。

 そこでは、「メダルを取る可能性がある日本選手」へ宛てて、2点の注文をつけている。(中略)2点目は、国歌が流れる際には「聴くのではなく歌え」というもの。また「日本には国歌斉唱時に胸に手を当てる文化はない」とした上で「直立不動で歌うこと」と追加で注文をつけた。(後略)


 軍事問題の中で、国旗や国歌はほとんど論じられることがないほど、些末なテーマです。

 武田氏の主張の1点目は、ここでは述べる必要がないので省略しました。

 まず、竹田氏は基本的な術語の意味を誤っています。

 「斉唱」は同じ旋律を複数の人が歌うことを指します。異なるメロディーを複数の人が歌うのは「合唱」。歌う人が独りの場合は「独唱」です。合唱と斉唱はよく意味を取り違えられます。私たちが「国歌斉唱」という言葉をより多く耳にするのは、学校などの儀式で大勢で歌う時に使われる言葉だからですが、常に組み合わせて使う言葉ではありません。

 五輪表彰式では、通常、金メダリストだけが「国旗掲揚」と「国歌演奏」の名誉を受けます。金メダリストが一人なら独唱、チームなら斉唱ということになります。

 言葉の問題はさておくとしても、いま書いたように、五輪表彰式で国歌を歌う儀式は存在しません。よって、受賞者に国歌を歌えということはできないのです。

 受賞者が望むなら歌うこともできますが、口ずさむ程度が望ましいマナーでしょう。なぜなら、「国旗掲揚」「国歌演奏」は金メダルの受賞者だけに対して行われるので、銀、銅の受賞者の隣で大声で歌うのは、敗者に対する礼儀を欠くからです。

 「胸に手を当てる文化」については、意見が分かれる部分だと思われます。元々、日本にはない作法だという見解は分かりますが、まったく存在しないわけではありません。明治時代に、西欧式の習慣を取り入れた時、警察官や軍人などの敬礼は採用しましたが、民間人が胸を手にあてる作法は取り入れませんでした。しかし、文民の高官が観閲式などで帽子を胸に当てる作法は使ってきました。和洋折衷の儀礼が現代日本の儀礼です。もともと、明治時代に西欧の作法を取り入れて、日本人の習慣は大きく変わりました。もともと、武士は敬礼はしませんでした。また、胸に手をあてる作法は、多くの国が採用していることもあり、国際試合で日本人が行っても、何ら違和感はないものです。新しい習慣として定着させるという選択肢もあって構わないでしょう。

 竹田氏が言う「直立不動」がどんな姿勢を指すのかは、私には分かりません。表彰式では花束ももらいます。「気をつけ」のことだとすると、花束は逆さまになり、見苦しくなります。もらった花束は胸の前に掲げ持つのが、主催国に対して失礼のない、相応しいマナーと言えるのではないでしょうか。

 軍事の中では、国歌はほとんど意味を持ちません。国旗は海軍や空軍が領域に侵入した船や航空機に対する際、必ず示さなければならないものなので重要です。海事の場合、国旗を示さないで停船を命じることは海賊行為とみなされるからです。竹田氏の主張は、私には言い過ぎとしか思えません。


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