アナリストがイスラム国の戦略ミスを指摘

2014.10.20


 alarabiya.netによると、アナリストはイスラム国の軍隊はコバネ(Kobane)を支配するための戦いにおいて、戦略的ミスを犯したと言いました。

 市内の情報源と監視団体は、ここ4週間、コバネの戦いは、イスラム国戦闘員が迫撃砲と自動車爆弾でクルド軍を攻撃し、数日間夜通しの激戦を目撃したと日曜日に言いました。イスラム国は土曜日に街のクルド人支配地域に44発の迫撃砲を撃ち、その一部は近くのトルコ領に落ちたと、人権団体「the Syrian Observatory for Human Rights」は言いました。日曜日にさらに4発が撃たれました。

 ロンドンの英国王立統合軍防衛安全保障問題研究所(the Royal United Services Institute)の軍事科学プログラムでリサーチアナリストを務める、ジャスティン・ブロンク(Justin Bronk)は、イスラム国の戦略は、クルド人戦闘員が過激派民兵を市街戦に誘い込んだコバネの異なる状況に直面する上で、いまや時代遅れであり、アメリカやアラブの軍用機にとって、彼らを攻撃しやすい目標にしたと言いました。

 イスラム国は斬首と拷問の評判が先行したために、シリアとイラクで小規模な抵抗にしか遭いませんでした。しかし、コバネでは、クルド人戦闘員は近くのトルコ国境と周囲を囲む広大な砂漠に遮られて、どこにも逃げる場所がなく、コバネを支配し続ける努力の中で、街の中心部で激戦を強いられました。「コバネが包囲されていて、攻撃的で複数の方向からの巧みに調整された侵入を試みたにも関わらず、通りから通りが肉挽き器であるコバネは、イスラム国の力を発揮させなくなりました」とブロンクは言いました。「撤退する場所と航空支援がない敵に直面し、イスラム国のような、通常、土地を占領するために、火力として心理的効果に依存する数的に制限された軍隊は難しい問題に直面します」「これは現場で好都合で、それはイスラム国と街の支配の間に立ちはだかる軽装備のクルド人戦闘員の勇気だけなのです。空爆は欠かせませんが、それだけでイスラム国を街の外に置き続けることはできないでしょう」。


 記事は一部を紹介しました。

 ブロンク氏が指摘するのは2点です。

 包囲戦を行うために、コバネの周辺に展開したイスラム国部隊は空から目立つ存在となり、空爆の標的となりやすくなったこと。

 コバネ市内に入ったイスラム国部隊は、市街戦に巻き込まれ、大きな出血を強いられたこと。

 ゲリラ戦では、1ヶ所に留まらないことが肝心です。2003年に米軍がイラクに侵攻した時、最初はイラク人武装勢力は集結して米軍を攻撃しました。豊富な航空支援力を持つ米軍は、1ヶ所に留まる武装勢力に対して、航空戦力で地上軍を支援して撃退しました。失敗から学んだイラク人は戦術を変え、組織的攻撃からIED (簡易爆弾)を使う方法へ切り替えたのです。これによって、米軍は大きな被害を受けました。

 包囲戦が長期化することは、古代中国で孫子が指摘したことです。市内に突入した友軍に補給を続ける必要がありますから、市外に物資の集積地を設ける必要があります。輸送トラックが集まれば、それは空から探知され、攻撃の対象となるのです。砲兵陣地も同様に攻撃を受けます。だから、ゲリラ戦は基本的にはヒット・アンド・ランなのです。

 市内に入ると、建物によって照準線、兵器の射程が限定されます。建物は防御側が身を守るのに使え、攻撃側の戦力を集中することが困難になります。侵入したイスラム国民兵は、まずIEDによる攻撃を受けます。人が通れる下水や地下道の場所は地元民しか知りません。クルド人が、こうした市街戦特有の抵抗を行ったのかも知れません。また、このことは、イスラム国が市街戦の特徴を知らなかったことも示唆します。しかし、街の大きさが数キロ程度の場所で、これだけ抵抗するクルド兵は大したものです。

 斬首や拷問がプロパガンダとして活用されたという、ブロンク氏がいう見解は興味深く感じます。まるで、チンギス・ハーンが広大な土地を征服するときに用いた計略そのものです。モンゴル族は抵抗する相手は徹底的に攻撃しましたが、必ず、先に降伏を問う使者を敵へ送りました。敵が降伏すれば、領地にして、安全を保障しました。敵対すれば、徹底的に攻撃し、それを噂として広めさせたのです。イスラム国は恐怖を演出することで、戦闘を有利に進めたのかも知れません。

 しかし、その化けの皮は剥がれたのかも知れません。地上軍が抵抗し、支援国が空爆を行うと、イスラム国は撃退できることが、いま証明されつつあります。彼らの不敗神話を崩せば、イラク軍の敗退も止まるかも知れません。

 また、イスラム国がやっていることは、テロ組織を大きくすれば軍隊になれるという発想です。役に立つと思えないジェット戦闘機に手を出したのは、その典型です。まるで、オウム真理教が武装ヘリコプターを輸入したり、自動小銃を製造しようとしたのに似ています。いずれも失敗に終わりました。

 もしかすると、国家らしく形を整えたがるイスラム国の性質は、彼らの弱点になるかも知れません。

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.