コバネの戦況で矛盾する情報が続く

2014.10.11


 イスラム国が攻撃しているシリアのコバネに関して、矛盾する情報が出ています。

 alarabiya.netによれば、イスラム国は金曜日にコバネで新しい成果をあげ、街の40%を支配しました。

 「彼らは少なくとも(街の)40%を手にしました」と人権団体「the Syrian Observatory for Human Rights」を運営するラミ・アブドル・ラーマン(Rami Abdulrahman)は言いました。イスラム国戦闘員は現在、治安地区の大半を完全に支配したと、彼は言いました。そこには地元政府が使う行政ビルがあります。

 米国家安全保障担当副補佐官、トニー・ブリンケン(National Security Adviser Tony Blinken)は以下のように言いました。「今回も現地に地上軍がいないために、何が起きているかは分かりません。空軍力だけでイスラム国が街を奪取する可能性を防ぐのは難しくなりつつあります」。彼はアメリカの行動が効果的かどうか分からないコバネに似た他の状況があると言いました。「日々、別のコバネがイラクにあります。別のコバネがシリアにあります」。

 国連のスタファン・デ・ミストラ(U.N. envoy Staffan de Mistura)は、コバネは、国連平和維持軍が守れずに、第2次大戦以降、欧州で最悪の残虐行為となった、1995年にイスラム教徒8,000人が殺されたボスニアの町、スレブレニツァ(Srebrenica)と同じ運命で苦しむことになるかも知れないと言いました。「街が陥落すれば、700人に加えて、戦闘員から離れた12,000人がほとんど大虐殺されるでしょう」と、デ・ミストラは言いました。国連は老人を中心とした民間人700人が街に閉じ込められており、12,000人が中心部を去りましたが、トルコ国境を越えていないと考えています。「スレブレニツァを覚えていますか?。我々は覚えています。我々は決して忘れていませんし、おそらく、我々は我々自身を許しません」とシリア担当国連特使は言いました。「民間人へ差し迫った脅威があるときに、我々は沈黙できませんし、そうすべきではありません」。

 BBCによれば、デ・ミストラ特使はコバネに閉じ込められた700人を救うために、トルコはイスラム国から街を守るために志願者をシリアに入国させるよう迫りました。

 イスラム国が市内のクルド人司令部を占領したという情報がありますが、これは地元のクルド人当局者によって否定されました。

 米主導の空爆に支援されているクルド軍は、イスラム国を押し戻すために、緊急に追加の武器と弾薬を必要としていると言います。米中央軍は、アラブ首長国連邦とサウジアラビア、アメリカの軍用機が木曜日と金曜日にコバネとデリゾール(Deir al-Zour)新しい空爆を行い、イスラム国の車両と訓練施設を破壊したと言いました。コバネ市内のクルド筋は、30分間で4回の空爆が街の西側に行われたと言いました。

 イスラム国民兵と戦うクルド軍を武装させることを懸念することもあり、トルコは軍事的に関係することを嫌います。トルコはクルド人少数派と長きにわたる内戦を戦いました。

 コバネ市内のクルド人筋は、イスラム国が治安地区をほとんど支配したという報告を否定しました。消息筋は、クルド人戦闘員は街の東部にある行政ビル2つを支配したままで、「激戦が治安地区に達したものの、まだ陥落していない」と言いました。

 先に、人権団体は、過激派がクルド人の軍民当局の司令部を占領し、街の40%を支配したと言いました。また、イスラム国民兵が司令部の西側に自爆攻撃を行ったとも言いましたが、詳細や犠牲者は言いませんでした。


 記事は一部を紹介しました。

 「the Syrian Observatory for Human Rights」はシリア各地に情報源を持っています。コバネの情報も地元筋から得たものでしょう。クルド当局の情報も、当然、地元筋から得たものです。なのに、再三異なる戦況が報告され、現地がどうなっているのかを不透明にしています。 多分、同じ状況を別の方向から見た結果、異なる報告があがったのだと想像します。いずれにしても、コバネが危険な状態にあることは間違いがありません。

 トルコに逃げたクルド人がコバネに戻れなくなっていることが、デ・ミストラ特使の発言で分かりました。これで、コバネへの増援がなぜ編成されないのかが理解できました。アメリカなどからもトルコに圧力をかけ、少なくとも、志願者が街へ戻ることを許可させなければなりません。さらに、武器と弾薬、できれば装甲車も提供すべきです。装甲車の上部には上空から識別するマークを描いておくことも欠かせません。

 これまでの経緯から、イスラム国がシリアとイラクのクルド人を標的にしていることが分かります。イラクではイラク政府とクルド人の連合ができあがりました。そのために、イラクでの攻勢は空爆の効果もあって頓挫しました。しかし、シリアではシリア政府とトルコ政府の両方からクルド人は憎まれています。イラクで失敗したイスラム国は、シリアでクルド人を攻めることで失敗を取り戻そうとしているのです。

 このイスラム国の戦略をトルコが阻止することは、トルコにとっても有益のはずです。下手すると、クルド人とイスラム国の両方がトルコの脅威になることも考えられるからです。

 


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