イギリスが犠牲者の身体からサリンを検出か

2013.9.9


 alarabiya.netによれば、8月21日の化学兵器攻撃の犠牲者が秘密のテストのためにイギリスへ連れて行かれたと、シリア反政府派指導者が今週言ったと「The Sunday Times」が報じました。

 ダマスカス郊外のゴウタで負傷した3人が化学兵器使用の評価のためにイギリスでテストを受けます。シリア連立代表、アフマド・アル・ジャブラ(Ahmad al-Jarba)は少数の犠牲者が治療のためにイギリスへ空輸されたことを理解していると言いました。「大統領は(木曜日に)会議の間に、試験の結果はこれらの個人にサリンガスの痕跡が確認されたと言われました」と同盟の政治委員会書記、ハーディ・アルバラ(Hadi Albahra)は言いました。「彼らは安定した状態にありますが、彼らの身体内部にサリンの痕跡があるのが見つかりました」。

 外務・英連邦省は、連立の声明を確認できないと言いました。

 バラク・オバマ大統領(President Barack Obama)は、国防総省にシリアの拡張された目標リストを作成するように命じました。別の費用がかかる紛争を避けたがっているオバマは、先週の演説の中で、地上部隊は派遣しないことを認めています。「我々が議論しているのは、際限のない介入ではありません……こうれはもうひとつのイラクやアフガニスタンではありません」と彼は言いました。

 alarabiya.netによれば、ジョン・ケリー国務長官(Secretary of State John Kerry)は日曜日、国連査察官の報告が完成したら、アメリカはシリアに対して行動を行う前に、国連安保理事会に戻ってくる可能性を検討するといいました。パリでの記者会見で、ケリー長官はオバマ大統領は未だ、この問題で決断をしていないといいました。そして、アラブ諸国はアサド大統領に対する厳しい対応を模索していると示唆しました。

 主要なアラブ諸国の大臣との会談の後、ケリー長官は彼らが8月21日の化学攻撃への強力な国際的対応を求めるG-20声明を支持する方向へ傾いていたと言いました。会合は、軍事行動の支持を拒否したヨーロッパ諸国の外務大臣とのリトアニアでの会談に続き、サウジアラビア、エジプト、カタール、アラブ首長国連合の大臣が参加しました。「アサドが嘆かわしくも化学兵器を使ったことを我々すべてが認め、一人の反対者もいません。これが大勢の無辜の民を殺したことを我々は知っています。これは国際的、世界的なレッドラインを越えます」とカタールのカリド・アル・アティヤ外務大臣(Khaled al-Attiya)は言いました。アティヤ大臣はカタールは同盟国と国連と共に、何がシリア国民を守るかを研究していると言いましたが、詳細は明らかにしませんでした。


 記事は一部を紹介しました。

 サリンは熱や水で分解され、フッ化水素とメチルホスホン酸イソプロピルに変化します。メチルホスホン酸イソプロピルはさらにメチルホスホン酸とイソプロピルアルコールになります。これらがセットで被害者の人体や衣類から検出されると、サリンそのものは検出できなくても、サリンが存在したことの証明になります。イギリスが主張したのは、多分、こういうことでしょう。数日前からイギリスは証拠があると言い出しましたから、この検査の結果を受けてのことと思われます。

 オバマ大統領が言うとおり、地上戦は最初から検討されていないのだと思われます。これは妥当な判断です。さらに、ケリー長官の発言からは、米政府が少し後退したことが分かります。もう一度、国連に戻り、安保理の承認を得る努力をすることで、オバマ政権はブッシュ政権とは違うということを態度で示せるわけです。

 国連査察官の報告も、サリン攻撃の事実は認定するものと思われます。問題は、それを政府軍と反政府軍のいずれかが使用したと断定できるかです。シリア政府は反政府軍が政府軍から奪ったり、自分で製造した化学兵器を使ったと主張するでしょう。それに対して、国連査察チームが有効な証拠を提示できるとは思えません。内戦では、味方に対しても時として、容赦ない攻撃が行われることを考えると、紛争の片方を必ず敵が攻撃するとは言い切れないのです。ロシアが提出した報告書も否定できる内容である必要もあるでしょう。

 ここまでの経緯を見ると、米仏の攻撃目標は化学兵器の倉庫ではなく、それを発射する大砲と航空機、空軍基地施設ということになりそうです。大砲は住宅地に隠して空爆から逃れられても、航空機は空港以外には移動できません。地下掩蔽壕に隠すしかありませんが、そこはバンカーバスターで破壊できます。滑走路やレーダー、無線施設、燃料タンクに対する爆撃は当然行われるでしょう。この他、軍中枢の指揮施設、弾圧の主役である情報部施設がリストにあがりそうです。

 これを見て、多分、米仏がシリア軍と直接戦争を行っていると批判する人が出るでしょうが、それは的外れであるのは言を待ちません。

 ざっと、このような事柄が浮かんできますが、問題の核心はここにはありません。内戦を終わらせ、2百万人といわれる莫大なシリア難民をできるだけ早くに帰国させることです。それが国連の中立的立場による動きの鈍さ、ロシアと中国の駆け引き、ブッシュ政権時の嘘に対する国際世論の批判が加わって、人道とはかけ離れたところで話が進行しています。日本国内でも、空爆反対の論調が強まっていますが、そこから先のことを考えようとする人はいません。G-20で安倍総理は、自分と距離を置くオバマ大統領に、少し冷淡な対応をしたようです。誰もシリア難民のことなど考えようともしません。


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