化学兵器破壊に米軍は新型爆弾を使う?

2013.9.4


 BBCによれば、米軍には化学兵器を安全に処理する兵器があるのかも知れません。

 シリアの化学兵器施設の一部は地下に埋設されていますが、大部分は人工衛星の写真で見ることができます。その多くは人口密集地域にかなり近いのです。これは問題です。

 こうした施設を通常の爆薬型爆弾で攻撃すると、かなりの損害を与えますが、化学兵器の貯蔵物を空気中へ分散させることもでき、広い地域の上空へ拡散させ、大勢の民間人に犠牲が出る危険があります。

 アメリカは何年間も、このような損害を与えることなく化学兵器の貯蔵物を破壊するのに使える弾頭を開発しようとしてきました。いわゆる「化学剤無力化兵器(Agent Defeat Weapons)」はおそらく、多くの米軍指揮官が利用できるでしょう。それらは様々な方法で動作しますが、本質的な性能は灼熱です。それは、施設内で化学・生物剤を破壊するスーパー焼夷弾のようなものです。温度は、摂氏1,200〜1,500度の範囲で、劇的に高い必要があります。一部の専門家は生物兵器の材料は最高温度で破壊する必要がありますが、神経剤VXのような化学兵器はこの範囲の下側で破壊されると言います。こうした弾薬が米軍の武器庫における状態は不明確です。1つのシステムは「クラッシュ・パッド(crash pad)」として知られる、高温の焼夷兵器です。もうひとつは「受動的攻撃兵器(the Passive Attack Weapon: PAW)」と呼ばれていて、大量の鋼鉄の運動エネルギーや必要な熱を生むタングステン棒を用います。それでも、シリアの科学施設の規模と民間人に近いことは、米軍の作戦立案者に、化学兵器施設を狙わないことを納得させるかも知れません。

 より安全なオプションは、送達システムのような、シリアの別の能力を狙うことかも知れません。これは対砲やロケット、航空機、ミサイル製造工場を攻撃することを意味します。司令部と、化学兵器計画に関連がある部隊の建物も攻撃されるでしょう。しかし、ここにはオバマ大統領のための別の問題があります。

 大砲や航空機のような潜在的目標の多くは、アサド大統領が反政府軍に優勢を保つ鍵となる要素です。これらの資産にひどい損害を与えることは、反政府側に有利に戦場の軍事バランスを大きく変える危険があります。そして、これはオバマ大統領が明確に除外したことです。

 military.comによれば、シリアは一部の軍隊と装備品を民間人の地域へ移して予防措置をとりました。

 シリア国家評議会は、シリア軍が兵士、ロケットランチャー、大砲、その他の重火器を全国的に住宅地に動かしたと言いました。また、アサド大統領は、アメリカの攻撃に対する人間の盾として使うため、抑留者を軍事目標へ移したと言いました。

 ダマスカスの住民3人は、報復を恐れて匿名を条件に、そうした動きを認めました。ある男性は、共和国防衛隊2人が彼が所有する空き家へ押し入り、シリアは戦時であるためにそうすることを承認されたという公式文書を示しました。彼が兵士に賄賂を渡すと、彼らは立ち去りました。別の地域のある女性は、彼女の家の隣の学校に兵士が移動し、恐いと感じていると言いました。

 潘基文国連事務総長は日曜日、査察チームにサンプルを検査して報告を出すためにできるだけ早くに帰国するよう要請しました。広報官は、サンプルは月曜日にヨーロッパ周辺の研究所に送られると言いましたが、結論がいつになるかは言いませんでした。

 alarabiya.netによれば、55人ほどのシリア軍兵士が離反を発表しました。

 ラッカ州(Raqqa province)の陸軍将校1人が離反者の中に含まれていました。彼はほとんどダマスカス郊外に拠点を置いていました。6月、AFPは6人の将官と22人の大佐を含む70人以上のシリア軍将校がシリア軍を離反し、トルコ国境を越えたと報じました。これは数ヶ月で最大の離反でした。

 alarabiya.netによれば、NATO軍のアンダース・フォー・ラスムッセン事務総長(NATO Secretary-General Anders Fogh Rasmussen)は月曜日、シリアの化学兵器攻撃には国際的な対応が必要だと言い、個人的にシリア政府が化学兵器を使ったことと考えていると言いました。


 記事は一部を紹介しました。

 シリア難民が2百万人を越えたという重要な報道が出ていますが、今日は米仏の空爆宣言に関する軍事情報を見ていきます。

 化学兵器の送達システムの破壊は、シリア軍が民間地域へ部隊を移したことで困難になったといえます。

 貯蔵物そのものへの攻撃は化学剤無力化兵器によって達成できるかも知れませんが、おそらく、シリア軍はかなりの部分を空爆の前に移動するのではないでしょうか。米軍が下手な攻撃をすれば、アサド派の国民に被害が出る危険があると、彼らは考えます。科学施設はすでに米軍の監視下に置かれているはずですから、かなりの部分を追跡することは可能でしょう。イスラエル軍も常に化学兵器施設を監視しています。彼らからの情報提供も期待できます。

 地下に保管されている化学兵器は、受動的攻撃兵器で使用不能にできるでしょう。すべてを燃やせなくても、地下施設が破壊されたことが分かれば、もうそこに誰も入ろうとは思いません。燃え残ったサリンで汚染されている恐れがあるからです。外部への化学剤漏洩はわずかでしょう。

 地上で保管されている化学剤は、ナパーム弾よりも高温のクラッシュ・パッドで焼けるでしょうが、一定程度の漏洩は避けられないかも知れません。それによる民間人への被害は想定されますが、軍事行動の視点からは、これくらいの被害は織り込むべきという判断が優先されます。だから、米軍は追跡できた化学兵器はもれなく攻撃しようとするでしょう。

 私は、それよりも、化学兵器関連部隊の指揮系統への攻撃が功を奏するのではないかと考えています。化学兵器の攻撃成果は未知数ですが、指揮系統への攻撃は前例がいくつもあり、効果が期待できるからです。

 また、貯蔵施設を攻撃するのなら、巡航ミサイルではなく、航空機の投入も必要になりそうです。防空システムへの攻撃も行われると想定できます。そうなると、固定レーダーの大半は破壊されることになり、シリアはイスラエルからの攻撃を防ぐ手段がなくなります。この時に、シリアがどれくらいの恐怖を感じるかは、シリア軍の士気に関係しそうです。イスラエル軍が地上戦を始めるかのような動きを、米軍の空爆と共に起こす可能性もあります。シリア軍が丸裸にされた気分を味わった時、反政府軍も攻勢をかけるかも知れません。この空爆には本来の目的とは別の、こういう可能性もあります。

 仮に、それでシリア政府が倒れても、オバマ政権の失点にはなりません。オバマ大統領が政権交代は狙わないと明言したのは当然ですが、人道的危機がそれで終わるのなら、世界は歓迎します。必要な措置を取ったら、シリア政府が勝手にひっくり返っただけの話ということになるわけです。

 シリア軍から離反者が出たことは空爆宣言の一つの効果です。内戦が長引き、戦うことに対する疑問を感じた兵士たちが脱走を試みるのです。それにしても、これだけ多数の将校が逃げれば、部隊運営に支障を来すはずですが、その中で、シリア軍が前進を見せたのは脅威的だということになります。この辺が戦況を読む上で、調子が狂うところです。それはともかく、こういう離反がシリア軍の内部崩壊につながることも期待したいところです。

 米議会はすでに攻撃承認に傾いています。国内報道では下院の説得が困難とされていますが、こういう場合、積極策をとるのが米社会の特徴なのです。いままで、何度も繰り返されてきたことなのに、国内メディアは、こういう場合、なぜか記憶喪失になる癖があります。


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