国連査察チームも正体不明の砲弾を把握

2013.9.2


 メールで教えて戴いた、現場に落下した化学兵器の残骸の写真が掲載されているサイトが分かりました。(記事はこちら

 この記事は詳細な分析を加えており、興味深いので、以下に気になる部分を抽出してからコメントします。

 このビデオ映像はメッツェ軍用空港(Mezzeh Military Airport)から化学兵器を積んだ兵器を発射するところを示すとされています。

 ロケット弾はダラヤ(Daraya)、カラデイャ(Khaladiya)、ヤボウド(Khaladiya)、アドラ(Adra)、東ゴウタ(Eastern Ghouta)、ザマルカ(Zamalka)で撮影された砲弾に酷似しています。

 さらに兵士が赤ベレーを着用しているのは、共和国防衛隊の制服と一致します。これは第4機甲師団第155旅団が化学兵器を積んだロケットを発射したというイスラエル筋の情報に一致します。この部隊は共和国防衛隊と提携します。どちらの部隊もアサド大統領の兄弟、マーハ・アル・アサド(Maher al-Assad)が指揮しています。第155旅団はメッツェ空港の近くにいるとされています。

 エリオット・ヒギンズ(Eliot Higgins)は正体不明の砲弾の一つの正確な落下位置を計算し、同じ発射位置かもしれないことを見いだしました。

 武器を装填、発射する人物が民間人の服装に見えるのは興味深いことです。

 この砲弾が化学兵器用ではなく、燃料気化爆弾や高性能爆薬を運ぶために作られた可能性があります。また、燃料気化爆弾や高性能爆薬用に作られたあとで、化学兵器用に作り替えられた可能性もあります。

 この砲弾の信管のタイプは不明です。東ゴウタでこれらの砲弾の近くで、ソ連製ATK-EB機械式時限が見つかりましたが、これがロケットのものか、その後の空爆に関係する別の爆弾のものかは不明です。MT信管はこのタイプのロケットにはあり得る選択肢ですが、理想的ではありません。

 国連化学兵器査察チームは、東ゴウタで正体不明の砲弾の一つを撮影しました。下のビデオ映像で、国連チームのメンバーがこの砲弾を調査しました。

 国連チームはメドマー・シャム(Medmah Sham)で第2の砲弾を調査しました。下のビデオに見られるのは、ソ連製BM-14とRPU-14から発射される140mmロケットです。

結論

  1. イランかシリアで製造された非標準の砲弾で、広範に使用、製造されていないものの、即席の砲弾ではないでしょう。
  2. チューブ発射式砲弾で、イラン製のファラクー2発射機か派生物、またはコピーから発射されました。
  3. 直径約333mm、または最も幅があるところで同じくらい(弾頭底部のプレートとテールフィンの部品)で、全長は少なくとも2800mm。
  4. 設計の性質は、それらが特に長射程でも正確でもないことを意味します。
  5. この砲弾はおそらく、少なくとも2つの異なるサイズが製造されました。(ここに書いたよりも直径と全長が大きいもの。

 私は、服装について、赤ベレーの兵士の近くにいる兵士が覆面のようなものを被っている点も指摘します。これはガスマスクかも知れません。彼らの服装は化学防護服のようにも見えます。しかし、映像が不鮮明なので断定はできません。

 化学兵器かどうかは分からないものの、発射に時間がかかる非効率的な砲弾なので、通常兵器ではないようにも思えます。ただし、弾薬不足に陥ったシリア軍が、簡単に造れる通常兵器を搭載した砲弾を開発した可能性はあります。

 発射した方向ですが、ワシントンポストに掲載された地図によると、メッツェ軍用空港近くの化学兵器攻撃の現場は、南西方向なので、私の推測が誤っていた可能性があります(地図はこちら)。北東方向にも現場はありますが、政府側支配地域の上を砲弾が通る上に、最も近い場所でも10km近くあるので、こちらには撃たないと考えられます。

 国連査察チームが、この砲弾に気が付いていることは幸いです。報告書にはこの砲弾に関する見解が含められるでしょう。弾頭部分についても、何らかの手がかりをつかんでいるかも知れません。

 反政府派は、せめて撮影場所と時刻をビデオ映像に添付して欲しいと思いますね。


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