シリアの化学兵器撤去は成功するか?

2013.9.16


 BBCによれば、シリア政府は化学兵器に関する合意に満足しています。

 国連はシリアが10月14日から化学兵器禁止条約に参加すると言いました。

 シリアのアリ・ハイダル調停大臣(Reconciliation Minister Ali Haidar)はロシアの通信社に「我々は合意を歓迎します」と述べました。「それはシリアを危機から救うのを援助し、それをするための議論を始めたい人々をはばむ、シリアに対する戦争を避けるのを助けます。それはロシア人の友人のお陰で達成したシリアの勝利です」と言いました。

 中国、フランス、イギリス、国連、アラブ連盟、NATOはすべて合意に満足を表明しました。バラク・オバマ大統領は、外交が失敗すれば、アメリカは戦う用意ができていると言いました。国防総省は米軍が未だ軍事攻撃の配置についていると言いました。

 ケリー国務長官とラブロフ外務大臣は、シリアが合意を守れなければ、軍事力の使用を認める国連憲章第7章の下で国連決議が行われることになると言いました。ラブロフ大臣は、軍事力は最後の手段だと言いました。

 自由シリア軍の指導者は、アサド大統領に時間を稼がせるためのロシアの差略だとして、取り決めを拒絶しました。日曜日、シリア国家評議会は声明の中で、化学兵器の禁止を弾道ミサイルと空軍力を民間人の密集地域に使うことに対しても拡大して欲しいと要請しました。

 イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相(Prime Minister Benjamin Netanyahu)との会談の後の記者会見で、ケリー長官は、化学兵器の除去はシリアでの殺人を止めないという反政府派の主張を理解すると言いました。しかし、彼は取り決めはこれらの兵器をシリア政府の武器庫から取り除く前進だと示唆しました。ネタニヤフ首相は「過去数日間が示したものは、私が言い続けてきたこと、もし外交が機能するチャンスがあるのなら、それは確固たる軍事的脅威と結びついていなければならないということです」。


 記事は一部を紹介しました。

 何か調子が狂っているという感じです。かなりの国や機構がこの取り決めに賛同しています。アメリカ人は、シリアへの空爆を止めたことで、イラクやアフガニスタンへの罪の意識を少しは軽減できたのかも知れません。しかし、それで紛争が解決するほど、戦争という世界は簡単なものではありません。

 反政府派が言うとおり、これがロシアの策略だったら事態はさらに悪化します。シリアが化学兵器禁止条約に加盟した場合、これまでのように「空爆するぞ」といった強攻策は採りにくくなります。シリアは条約加盟国であり、それに応じた扱いをしなければなりません。さらに、問題が起きるとロシアが出てきてシリアの肩を持つという状況が考えられます。

 ロシアは湾岸戦争の時にも、イラクの味方をして調停に出てきました。この時は、サダム・フセインが妥協せず、ロシアの努力は無に終わり、ロシアからも失望の声が出ました。

 今回、ロシアが調停に出てきた動機は明確ではありません。単に、過去からの盟邦を失いたくないからなのか。化学兵器がイスラム過激派の手に渡ることが心配なのか。シリアに関するアメリカとの対応の中でアメリカと悶着があって対決姿勢に転じたのか。いずれなのかによって、今後のロシアの行動は違ってきます。

 気になるのは、化学兵器施設の数ですら合意に達しなかったということです。ロシアはシリアのために施設のいくつかを残しておきたいのかも知れません。シリアが施設の数を報告したとき、アメリカの見積もりよりも少なかったら、この可能性が浮上します。アメリカは申告されなかった施設への査察を主張し、シリアは拒否。そこへロシアが乗り出してきて、シリアの味方につくというシナリオが考えられます。

 ネタニヤフ首相が現実的なコメントをしています。軍事力の脅威がなければ、シリアは交渉に応じなかったはずです。

 この取り決めが有効なのかどうかは、これから明らかになります。そして、当面効果を出さないのですから、我々は反政府派に対する支援を強化しなければなりませんが、今のところ、それらしい話は聞こえてきません。どこにも安堵感しか見えないのです。誰もが、問題の核心が大量の難民とシリアに政治の真空地域が生まれる危険性だということを忘れています。

 ところで、最近報じられた記事に、同時多発テロと同じ年に行われたアフガニスタン侵攻に賛成したアメリカ人は82%、2003年のイラク侵攻では59%、今回のシリア空爆では36%だったと書いています。

 最初のアフガン侵攻は第2次世界大戦でいえば、ドーリットル爆撃隊の東京空襲みたいなものでした。初めて東京を空爆した、この作戦は軍事的には失敗でした。多くの爆撃機は撃墜され、成果もあがりませんでした。しかし、敵に一矢報いたことで米世論は高揚しました。後の大規模爆撃と違って、心理的な効果があったのです。アフガン侵攻も似たような面がありました。2001年のアフガン侵攻は、イラク撤退を決めた後でのアフガン侵攻とは意味が違いました。

 嘘で固めた証拠をかざしたイラク侵攻でも6割近くが賛成しました。

 ところが、200万近くの難民を生んだ内戦への介入には36%しか賛成しないというのです。どこまで先進国は現実からずれていて、自分本位なのだろうと考えざるを得ません。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.