米政府のシリア化学兵器報告書

2013.8.31
追加 2013.10.1 6:20


 ワシントンポスト紙に、米政府が公表した、シリアの化学兵器攻撃に関する4ページの報告書が掲載されました。

U.S. Government Assessment of the Syrian Government’s Use of Chemical Weapons

【全訳】

2013年8月21日のシリア政府による化学兵器使用の米政府の評価

米政府はシリア政府が、2013年8月21日にダマスカス郊外で化学兵器攻撃を行ったことに高い確証があると評価します。我々はさらに政権がこの攻撃で神経ガスを使ったことも評価します。これら全資源評価は、多数の公開情報報告と同様に、人間、通信、地理空間的情報に基づいています。我々の機密評価は米議会と主要な国際的パートナーと共有しています。情報源と手法を秘匿するため、我々は入手可能な情報をすべて公開できませんが、以下は何が起きたかに関する、米情報機関のアナリストの機密指定されていない要約です。

シリア政府は8月21日に化学兵器を用いた

多数の独立した情報源は8月21日にダマスカス郊外で化学兵器攻撃が行われたことを示します。さらに、米諜報機関の情報、国際社会とシリアの医療従事者、ビデオ映像、目撃者の説明、ダマスカス地域の少なくとも12ヶ所の場所からの多数の報道機関の報道、ジャーナリストの説明、信頼できる非政府組織からの説明があります。

米政府の予備的な評価は、少なくとも426人の子供を含む、1,429人が化学兵器攻撃で殺害されたと判断しました。しかしながら、この評価は我々がさらに情報を得ると増えるかも知れません。

我々はシリア政府が8月21日にダマスカス郊外の反政府部隊に対して化学兵器攻撃を行ったことに強い確証があると評価します。我々は反政府派が8月21日の攻撃を行ったという筋書きはほとんどあり得ないと評価します。この評価を作成するために使われた情報の多くは、政権がこの攻撃を準備するためにつきものの情報、送達手段、攻撃そのものと影響に関する複合的な情報の動き、攻撃後の観測、政権と反政府派の能力の違いを含んでいます。我々の高い確証を持つ評価は、米諜報機関が情報の不足を受け入れられる最も強い見解です。我々は何が起きたのかを理解する上で、ギャップを埋めるためにさらに情報を探し続けます。

背景となる事情

シリアの政権は、マスタード、サリン、VXを含む大量の化学物質の貯蔵物を維持しており、化学戦用の物質を送達するのに使える大量の弾薬を持っています。

シリアのバシャル・アル・アサド大統領は化学兵器計画の究極的決定をした者であり、計画のメンバーは保安と忠誠を確保するために慎重に選ばれました。シリア国防省に従属するシリア化学研究調査センター(SSRC)はシリアの化学兵器計画を管理します。

我々は、シリアの政権が化学兵器を昨年、複数回、ダマスカス郊外を含めて、反政府派に対して小規模に用いたと、高い確証を持って評価します。この評価は、化学兵器攻撃を計画し、実行したシリア当局者の報告、多くの個人から得られた生理学サンプルの研究室での分析、複合的な情報の動きに基づいており、それはサリンにさらされたことを明らかにしました。我々は反政府派は化学兵器を用いていないと評価します。

シリアの政権は8月21日の攻撃を行うのに使われたと我々が評価した種類の弾薬を持っており、複数の場所で同時に攻撃を行う能力を持っています。我々は、反政府派が8月21日に行われたような、大規模で、計画されたロケットと大砲の攻撃を行った兆しはないと評価します。

我々はシリアの政権が昨年にわたり、主に戦略的価値を持つ領域を占領し、維持するため戦われている地域をで優勢に立つか、行き詰まりを打開するために化学兵器を用いたと評価します。この観点から、我々はシリアの政権が、彼らが反政府派に対して無差別に用いた、航空戦力、弾道ミサイルを含めた武器庫の中の多数のツールの一つとして化学兵器をみなしていると評価し続けます。

シリアの政権は、通常兵器システムのほとんどを使ったにも関わらず、反政府派が首都の政権の目標を攻撃を準備する基地として使っているダマスカス郊外を解放する努力を開始しました。政権は8月21日に狙った地域を含めた、反政府派がいるダマスカスの地域多数を掃討するのに失敗しました。我々は、ダマスカスの広範な部分を確保できないという政権のフラストレーションが8月21日に化学兵器を使うという決定に寄与したかも知れないと評価します。

攻撃の準備

我々は、SSRCに関連すると評価した要員を含めた、シリアの化学兵器要員が攻撃の前に化学弾を準備したと評価するのに導いた情報を持っています。攻撃の3日前、我々は化学へ一行劇の準備に関連すると評価した政権の活動を明らかにした、人的、通信、 地理空間的情報の動きを収集しました。

シリアの化学兵器要員は、8月18日の日曜日からダマスカス郊外のアドラで、政権がサリンを含めた複合化学兵器を使った場所の近くで8月21日の水曜日の早朝まで活動しました。8月21日、シリアの政権の一派がダマスカス地域でガスマスクを使って、化学兵器攻撃を準備しました。ダマスカス地域の我々の情報源は攻撃の前の数日間、反政府派関係者が化学兵器を使う計画をしているという、いかなる徴候も探知しませんでした。

攻撃

複合的な情報の動きは、8月21日早朝、政権がダマスカス郊外にロケットと大砲の攻撃を実行したことを示します。偵察衛星の探知は、政権が支配する地域からの攻撃が、カファ・バトナ、ジャウバ、アイン・タルマ、ダラヤ、ムアダミヤを含めた、化学攻撃が起きたとされる地域を襲ったことを裏づけます。これは、早朝の政権支配地域からのロケット発射の探知が、化学兵器の攻撃がマスコミに最初に報告された約90分前だったことを含みます。 飛行機の活動がなかったこととミサイルの発射も、政権が攻撃でロケットを使ったという結論へ我々を導きます。

地元メディアは、化学兵器の攻撃が8月21日現地時間午前2時30分にダマスカス郊外ではじまったと報じます。続く4時間以内に、多くのマスコミがダマスカス地域の少なくとも12ヶ所の異なる地域から、この攻撃を報じました。複数の説明は化学兵器を搭載したロケットが反政府派の支配地域へ着弾したと説明しました。

信頼性の強い国際的人道支援団体によると、ダマスカス地域の3つの病院は、8月21日朝、3時間以内に神経剤被曝に合致する症状を示す約3,600人の患者を引き受けました。 報告された症状は、短時間に多量の患者が到着したこと、患者の出所、マスコミと応急処置員の汚染が神経剤への被曝に特徴づけられる事象の疫学的パターンに合致していました。我々は現場の国際およびシリア国内の医療要員からも報告を受け取りました。

我々はこの攻撃の百本のビデオ映像を特定しました。その多くは神経剤被曝だけではないものの、それに合致する身体的徴候を示す身体を示します。犠牲者の報告された症状は、意識不明、鼻と口からの泡ふき、縮瞳、頻脈、呼吸困難を含みました。いくつかのビデオ映像は、多数の目に見える傷を持たない死者がいることを示し、それは化学兵器による死者と一致し、小火器、高性能爆弾、びらん剤による死者には合致しません。少なくとも12ヶ所は公に入手できるビデオ映像で描かれており、これらのビデオ映像の抽出サンプルは、いくつかは映像の中で説明される大まかな時間と場所で撮影されていることを確認しました。

我々はシリアの反政府派が、医療従事者、NGO、その他の情報が化学攻撃と関連づけた身体症状、ビデオ映像すべてを捏造する能力がないと評価します。

我々は、政権当局が8月21日の攻撃を立案しており、命じたという、シリアの過去の慣習を含めて、多くの情報を持っています。我々は、8月21日に化学兵器が使われたことを確認し、国連査察官が証拠を手に入れることを心配する、攻勢に緊密な高官の通信を傍受しました。8月21日の午後、我々はシリアの化学兵器要員が作戦終了を命じられた情報を得ました。同時に、政権は化学兵器の攻撃が起きた地域の多くを狙った砲撃を増やしました。攻撃後24時間で、我々は大砲とロケットの砲撃が過去10日間の約4倍の割合で発射される兆しを探知しました。我々は8月26日朝までに地域への継続的な砲撃の兆しを確認し続けました。

結論として、8月21日に行われた化学兵器攻撃をシリア政府が行ったことを暗示する極めて多数の情報があります。示したとおり、情報源と手法の懸念のために、議会と国際的パートナーに提供した、機密のままの追加情報があります。


 重要な文書なので全訳を紹介しました。

 この報告書を読むと、主たる根拠は、現場の医療関係者の証言、ビデオ映像、早期警戒衛星によるロケット発射の探知、シリア政府高官の通話にまとめられそうです。

 これらは証拠の種類からいうと「状況証拠」です。「直接的証拠」は、国連査察官が持ち帰った土壌サンプルなどから見つかるはずの、化学剤の痕跡です。

 状況証拠の評価を間違えると、結論を間違えることになりかねません。しかし、証拠の内容を見る限りは、確度の高い証拠といえます。大砲の発射は早期警戒衛星で探知ができませんが、ロケットが放つ熱は探知できるのです。発射地点が政府支配地域であり、反政府派はロケット砲を大量には保持していません。これまでダマスカス周辺では、反政府派が少数の迫撃砲を使ったことしか報じられていません。シリア軍が撃ったロケットが通常弾頭で、反政府軍が偽装のために化学剤を散布したという、軍事ミステリーにありそうな筋書きは現実的ではありません。

 国連査察団の報告は最も尊重されるべきものですが、これらの証拠でシリア政府の関与はすでに立証されたも同然です。

 オバマ大統領は議会の承認を得るといいますが、承認は多分得られるでしょう。国連査察団の報告前である点は問題として指摘されるかも知れません。オバマ政権がこの問題に慎重なのは、ロケットの発射が探知された時点で、何も発表しなかったことで理解されます。ロケット発表の後で病院に大量の患者が運ばれた時点で、化学兵器使用の根拠としていたことでしょう。

 軍事行動はその正当性の考察だけでなく、攻撃・防御の成功に関しても議論が必要です。先に述べたように、数日間のロケット攻撃でアサド政権に打撃は与えられません。オバマ政権は、アサド打倒は反政府派の軍事活動によって成し遂げ、今回のミサイル攻撃はアサド政権への警告とするつもりかも知れません。つまり、化学兵器を用いれば、また指揮統制系統に打撃を与えるという警告です。これなら、その目的は果たせそうです。国際社会に支持が広がらなくても、それはそれで問題がないということになります。

 ブッシュ政権がやったイラク侵攻の余波の大きさにより、国際社会に支持がまったく広がらないことを、米社会はよく考えてみるべきです。


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