アナリストが見るシリア空爆の効果

2013.8.30


 military.comによれば、シリア空爆は数日間だけ続き、シリア軍の指揮統制施設、防空力、航空機を滅茶苦茶にするだろうと、アナリストは言います。

 議会の一部のメンバーは、シリアへの軍事介入を後押しした共和党員ですら、攻撃を始める前に、オバマ大統領が議会承認を求めるように要求しました。下院軍事委員会議長のハワード・バック・マッキーオン下院議員(Rep. Howard "Buck" McKeon)は「私は最高司令官が数日中に、彼に許された選択肢を考慮して、議会に諮ることを期待します」と言いました。アメリカと同盟国は、イギリスのデビッド・キャメロン首相(Prime Minister David Cameron)が軍事対応を承認する採決をする緊急会議を招集する木曜日よりも前に攻撃を始めそうにありません。

 米英は地中海でシリアを攻撃できる距離に艦隊を集結させています。フーフォークを拠点とする4隻の駆逐艦、
ラメージ(USS Ramage)、マハン(USS Mahan)、バリー(USS Barry)、グレーヴリー(USS Gravely)はすでに配置につき、巡航ミサイル発射を準備中です。

 研究組織「the Center for Strategic and Budgetary Assessments」の上級研究員、マーク・ガンジンジャー(Mark Gunzinger)によれば、航空作戦がおそらくトマホークミサイルを指揮統制施設、防空施設、航空機のような目標に向けて発射するのに使われるだろうと言いました。「限定的な作戦が航空機への攻撃と同時に、航空戦力を指揮する指揮統制施設を狙うでしょう」「これらの攻撃の一部は、燃料貯蔵、武器庫など、補給施設も狙います。これらは航空機には致命的です」。この任務はF-15やF-22のような航空機からGPSやレーザーによる誘導爆弾を投下して行われますが、化学兵器の貯蔵庫は、追跡したり、民間人への被害を防ぐのが難しいので、多分、狙わないでしょう」。攻撃は「化学兵器は国際社会に許容されないという、極めて強い信号を送る」とガンジンジャーは言いました。「さらに、シリア軍が大きな効果をあげるのに使う航空機の一部を破壊もします」。

 「the Brookings Institution」のマイケル・オハラハン(Michael O'Hanlon)は、8月26日にウェブサイト「Politico」に掲載した論説で、シリア内戦は巡航ミサイルの攻撃があろうが激化すると言いました。交戦中の派閥間の政治的解決は交渉を行うために時間を要し、平和を維持することは、10,000人以上の米兵をシリアに派遣する必要があるかも知れないと、彼は書きました。「限定的な軍事行動はアメリカの信頼性と抑止力を再構築するかも知れませんが、紛争の行方に意味のある影響を与えそうにありません」。

 シリアへの航空作戦は、2011年のリビアへの攻撃よりも遙かに挑戦的です。シリアには人口密集地域があり、SA-2とSA-5地対空ミサイル隊のような、旧式ながらも航空機を撃ち落とせる洗練された防空力を持つと、アナリストたちは言いました。


 記事は一部を紹介しました。

 米政府は、化学兵器だけを無力化する作戦になると声明しており、アサド退陣を狙った攻撃はしないとしています。どうやら、大統領宮殿などへの攻撃は行われないようです。

 ガンジンジャー氏が言うのと違い、化学兵器貯蔵施設は攻撃対象になるはずです。地下貯蔵庫をバンカーバスターで破壊する場合、地上へはそれほど大きな影響はないでしょう。それよりも、空軍の施設は人口密集地域にもあり、それらを攻撃した際に起きる不可避的な誤爆が民間人に被害をもたらす危険があります。

 空爆の効果はオハラハン氏が言うとおり、限定的な影響に留まる恐れがあります。私は第4師団や大統領警護隊のような地上部隊の中枢へも攻撃を行う必要があると感じています。その為には航空戦力が必要になるので、損害も覚悟しなければなりません。

 私は、化学兵器が貯蔵庫から持ち出されるところを、西欧の軍隊が事前に察知できなかったことが気になっています。今回の攻撃に使われた化学剤がなんだったのかも含めて、まだ疑問が残ると思っています。国連査察団が何の証拠もつかんでいないと、この攻撃は中止することになります。その結果、シリア内戦はさらに長引くことになります。

 戦力も、空母が地中海上にいないことも気になります。ペルシャ湾がらだと、作戦が限定されます。

 コメントを書いている内に、イギリスが空爆を議会で否決しました。これで、空爆の成果は一層小さなものになりそうです。米英は同時多発テロ以降の戦略を誤ったA級戦犯です。アメリカはイラク侵攻時の偽情報流布という、ブッシュ政権の前科があり、オバマ政権は慎重になら去るを得ません。余計なイラク侵攻を推進し、肝心な中東の革命には軍事力を使えないというわけです。これが先進国の軍事思想の限界なのです。

 残念ながら日本も、第2次世界大戦に関しては米英を批判しながらも、現在は米英に追随するという矛盾した外交を展開しており、今回もシリア批判に同調する姿勢だけを見せています。これは日本の軍事思想の限界です。


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