自由シリア軍は国連査察チームを歓迎

2013.8.3


 alarabiya.netによれば、シリアの反政府派指導者は金曜日に、国連査察官が化学兵器の使用を調査するために、反政府派の支配地域に自由に出入りできると言いました。

 シリア国家評議会は声明の中で、査察官が最初に、3月19日に化学兵器による攻撃があったとされるカーン・アル・アサル(Khan al-Assal)へ行くように望むと言いました。この発表は、スゥエーデン人専門家、エイク・セルストーム(Ake Sellstrom)が率いる国連チームがアサド大統領とシリアに入国する合意に達した後になされました。反政府派は調査チームに全面的な協力を行い、特に解放地域への出入りを保証すると言いました。「自由シリア軍は現在、カーン・アル・アサルを解放しているので、国連チームが調査をこの地域で開始し、これ以上の遅滞なく彼らの到着を歓迎できるのを望んでいます」と付け加えました。

 国連査察官は早ければ来週にシリアに到着して、化学兵器の攻撃が報告された3ヶ所で調査を行うと見込まれます。カーン・アル・アサルの他の2ヶ所は、安全のために秘密にされています。


 記事は一部を紹介しました。

 カーン・アル・アサルで使われた化学兵器はサリンとされています。サリンは水で分解するので、現在はサリンそのものは現場に残っていないでしょう。分解後の物質を検知して、サリンが存在したことを推定するしかありません。使用から時間が経ちすぎているので、どこまで証明できるかは不明のままです。たとえ、証明に成功しても、シリア政府は反政府派がサリンをシリア軍の備蓄庫から持ち出して使ったと言うかも知れません。政府軍の支配地域で明確な証拠が発見されない限り、立証は難しいでしょう。

 証拠が出ても、安全保障理事会で中国とロシアが異を唱えるので、この証拠に基づいて武力行使に踏み切れるわけでもありません。

 そうすると、当サイトで現在水面下で行われていると推定している米ロの交渉の行方が紛争解決の鍵になるかもしれません。オバマ政権がどれだけ本気でこの問題に取り組むのかは、この政権が本物かどうかを見極めるためにも重要です。イギリスとフランスは紛争から一定の距離を置くようです。有力な二ヶ国が手を引きかけており、ドイツはアメリカが過去にイラクでインチキな主張を行ったことから、シリアにおいても懐疑的です。つまり、主要国の中で動く可能性があるのは、すでにアメリカしかないのです。

 アメリカが有効な介入手段を見出せないのなら、この革命は失敗に終わり、アサド政権が権力に復活するでしょう。反政府派は隣国へ脱出し、残った者は殺されるか拷問されます。そして、隣国の援助の下で、アサド政権の打倒を目指すでしょう。それにはトルコが主役となります。治安が不安定になるため、トルコのオリンピック招致は困難になりかねません。

 結局、いま決断した方が、長期的にかかるコストを考えるとよいということになります。しかし、新しく国外で戦争を始めるとなれば、国内での理解が得られるかどうかという問題があります。米国民が遠いシリアでの戦争に関心を持つかどうかが問題です。イラクとアフガニスタンでの傷はまだ癒えていません。短期間の集中的な攻撃でアサド政権を打倒できない限り、米国民の理解は得られないでしょう。

 イラクとアフガンで余計な戦争をしたために、肝心な時に武力を行使できないという問題が起きていることに気がつかなくてはなりません。このことは、当サイトで以前から主張してきました。常に余力を有し、全力で戦わないことは、国家にとって重要なのです。


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