S-300を外交交渉の道具としてきたロシア

2013.6.4


 alarabiya.netによれば、WikiLeaksが公開した情報は、ロシアが以前からS-300を外交手段として使っていることを示します。

 ロシア外務省のイスラエル・パレスチナ顧問、ビクトル・シマコフ(Viktor Simakov)が書いた、2008年9月のある外交公電では、ロシアはS-300を中東に提供することの不安定効果を承知していました。シマコフは、ロシアはシリアやイランがS-300ミサイルを手に入れるというイスラエルの懸念を承知していると繰り返し言いました。シリアは以前に提供された対戦車ミサイルをヒズボラの手に渡したことでロシアを憤慨させ、ロシアは今後は、より厳しくエンドユーザーを管理すると誓約しました。

 シリアは、シリア領内にロシアのミサイル防衛を設置させることで、2008年にミサイルを手に入れようとしました。ロシアは2010年に契約したものの、ロシアとグルジアの戦争の間、イスラエルがグルジアへ武器を売らないと約束したことが、シリアの提案よりも重いと見て、取りやめました。

 ロシアがイランにS-300を提供する2005年の契約を守るという推測が2008年後期にありました。しかし、ある公電によれば、ロシア当局は核問題の義務に対応するまでは移送を完了しないとアメリカに保証しました。しかし、2009年初期までに、この販売は行われようとしているように見えたので、ワシントンは中東諸国の同盟6ヶ国に、すぐにロシアに問題を持ちかけるよう依頼しました。当時のアメリカのジョン・バイアーリー駐露大使(John Beyrle)が、ロシアは財政的、政治的、外交政策的理由によって、この問題を推し進め続けるだろうと表明したにも関わらず、この動きは成果をあげそうでした。

 イランの商談は「凍結」したにすぎないと、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣(Deputy Foreign Minister Sergei Ryabkov)は、2009年にカール・レビン米上院議員(Senator Carl Levin)に言い、ロシアは再び説明を求められることを望まないとほのめかしました。2009年の4月の公電は、リャブコフが「これについてワシントンから連絡をもらわなければもらわないほどよい」と述べたとしています。ロシア当局者は、当時のイスラエル国防省、軍政局長だったエイモス・ギラード(Amos Gilad)に、イランへのミサイルは政治的な理由で送られないだろうと言いました。2009年7月30日付けの公電は、「しかし、ギラードは、アメリカがポーランドとチェコへのミサイル防衛計画を追求し続けるなら、ロシア人がこの政治的な計算を再考するだろうと言った」としています。

 結局、ロシアは2010年に、この商談を破棄し、その見返りと思われますが、イスラエルはグルジアとの軍事技術のギャップを埋めるためにロシアに無人偵察機を売ることに合意しました。「よかれあしかれ、S-300の提供は、我々の相互関係のバロメーターになった」と、バイアーリー大使は2009年に書いています。


 記事は一部を紹介しました。

 国内報道はS-300がシリアに提供されれば、シリア内紛が泥沼化するという論調で書いています。私は、そう判断するには早いと主張してきました。そこでこの記事です。決まり文句しか書かない国内の報道機関よりも、中東の報道機関の方が優れています。東京都知事がイスラム諸国を馬鹿にしても意味はなく、往々にして、日本の報道よりも、海外の報道の方が即時性、正確性で勝っているのが実状なのです。日本国民の多くは日本語で書かれたニュースだけを読み、それらに取り囲まれています。その結果、重大な情報に接する機会を失っているのです。

 今回、S-300をロシアがシリアに売るかどうかは、まだ分かりません。しかし、人間は過去の習慣に従いやすいものです。ロシア人が当時の取引のうま味を忘れていなければ、今回も似たような選択をする可能性は高いのです。

 私自身、この記事が書いていることは、今日はじめて知りました。しかし、この問題に関して、ロシアの利得行列を考えると、S-300をシリアに売ることで、シリア内紛が一層長期化すれば、ロシアは自由にシリアに物を売れず、下手をすると、S-300が反政府派の中のアルカイダとつながりがある者たちに奪取される危険もあり、売らないという選択肢が浮かんでくることが分かります。テロリストはすぐに最先端のミサイルシステムを使えないでしょうが、何が起きるかは分からないという不安はあります。

 こんな風に、理論的に考えることで、近い将来の見通しくらいは立つ場合があるのです。それが民間人が軍事問題に精通するべき理由です。企業人から政治家まで、そうした能力を持つ人たちがいることは、民主主義国が選択を間違えないために、とても重要なことなのです。


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