北朝鮮が日本の原発攻撃を計画?

2013.5.30

 産経新聞によれば、北朝鮮の朝鮮人民軍が対韓国開戦直前に日本全国にある原子力発電所施設に特殊工作員計約600人を送り込み、米軍施設と同時に自爆テロを起こす計画を策定していたことが28日、軍元幹部ら脱北した複数の関係者の証言で分かりました。

 計画実施に向け工作員を日本に侵入させ、施設の情報収集を重ね、日本近海でひそかに訓練も行っていたといいます。

 元幹部らによると、計画は、金日成主席の後継者だった金正日総書記が「唯一指導体系」として朝鮮労働党と軍双方の工作機関に対する指示系統を掌握した1970年代半ば以降、具体化に動き出し、90年代に入って本格化したといいます。

 計画には、大別して2つの特殊部隊が編成されました。「対南(韓国)」と「対日」部隊で、それぞれ2個大隊約600人ずつが充てられました。1個大隊には3、4人一組の80チームが組まれ、対南侵攻直前に日本と韓国に上陸。それぞれ連携して日韓各地の米軍基地や原発のほか、東京などの重要施設を自爆テロで同時爆破する作戦が策定されました。

 原発は福井や新潟など日本海側に加え、太平洋側の施設も自爆テロの対象とされました。

 作戦のため、現地の協力者らが施設周辺を撮影するなどし毎年、情報を更新。特殊工作員が潜水艇で日本に上陸、施設内に忍び込んで情報収集することもあったといいます。

 情報を基に施設を忠実に再現した模型が作られ、机上演習が重ねられました。

 脱北した別の朝鮮労働党工作機関関係者によると、特殊部隊が潜水艇で日本近海に繰り出し、実戦に向けた訓練も行われました。94年には、日本近海で行った自爆テロ訓練中の事故で死亡し、北朝鮮で最大の栄誉とされる「共和国英雄」の称号を得た工作員もいたといいます。

 北朝鮮による対南侵攻にとって最大の脅威は沖縄などに駐留する米軍です。元幹部によると、日本全体を米軍を支える「補給基地」とみなし、米軍に先制するため、開戦前の対南テロに加え、対日同時テロが策定されたといいます。

 原発が最重要ターゲットとされたのは、爆破すれば、「甚大な損害を与えられ、核兵器を使う必要がなくなる」(元幹部)との思惑からだといいます。さらには、広域に放射能が拡散することで「日韓両国民の間に戦争に反対する厭戦(えんせん)ムードが広がり、日米韓の戦意をそぐ政治的効果を狙った」と元幹部は説明しました。


 しばしば荒唐無稽な行動を見せる北朝鮮軍ですが、理にかなった作戦立案もできることが分かる記事です。

 当サイトでは、以前から、原発は防衛力を落とす材料になると指摘してきました。それは、こういうテロ攻撃があると考えられるからです。攻撃の優先度は在日米軍も同じです。敵の補給源を開戦と同時に叩くのは、最良の作戦です。在日米軍を抑止力としてしか説明しないのは間違いです。場合によっては、在日米軍が存在するために被害が生じると考えなければなりません。仮に戦果につながらなくても、日本に原発防衛という手間をかけさせることはできます。

 この作戦の危険度は慎重に検討しなければなりません。

 1個大隊に80チームなので、2個大隊で160チームです。この攻撃チームを運ぶのは、潜水艦ではなく、民間船にみせかけた工作船に隠した小型潜水艇だと思われます。ユーゴ型やサンオ型の潜水艦だと、水中航続距離が短すぎて、日本まで来られるかが疑問です。太平洋側はもちろん、日本海側の原子炉にも来られそうにありません。さらに、日韓米の潜水艦探知システムが待ち構えているのです。出撃したところで、大半は撃沈される運命です。

 そこで、漁船などに見せかけた工作船から小型の潜水艇を発進させる形をとるのだと思われます。演習中に起きた死亡事故は、この小型潜水艇が沈没したのかも知れません。小型潜水艇が何隻あるかは分からないので、ここから実際に侵入する攻撃チームの数は推定できません。

 さらに、攻撃チームは米軍基地と原発、その他の重要施設に別れるので、原発を攻撃しに行くチームは最大30チームくらいでしょう。この数は現実的とは思えませんが、一応の数として見積もらなければなりません。

 最後の部分で、北朝鮮の作戦計画には欠点があります。ひとりが30kgの爆薬を担ぎ、総量で90~120kgの爆薬を爆発させたとしても、原子炉は堅固に造られているから破壊できないのです。

 ですが、冷却ポンプやそれへの電気供給系統を破壊すれば、炉心溶融を引き起こすことはできるかも知れません。日本が冷却機能を復旧できず、炉心溶融がひどければ、溶けた原子炉が炉外に漏れ、地下水に触れて、水蒸気爆発を引き起こせます。これで放射線漏れが起きるかも知れません。これは、福島第一発電所の事故よりも被害が甚大です。

 しかし、軍事攻撃としては、その成功率は低すぎ、私なら犠牲の割に成果が少ないとして、採用したくない代物です。北朝鮮は特に人数が少ない国なので、特攻作戦は向いていないのです。

 ただし、日本人に与える心理的影響は少なくないでしょう。私が心配するのは、むしろこれです。軍事的な成果よりも心理的な成果が期待でき、日本に余計な手間をかけさせ、防衛用資源を分散できるところに意味を感じます。


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