開城工団を閉鎖も中国人観光客は誘致

2013.4.9


 朝鮮日報によれば、中国・吉林省の延吉にある北朝鮮専門旅行会社の関係者は7日「中国人観光客を羅先で船に乗せ、金剛山に向かわせる北朝鮮観光を今月末から実施する予定で、すでに北朝鮮政府と吉林省の許可を得ている」と話しました。

 北朝鮮から「戦争の可能性」に対する通知は受けていないといいます。

 一方、中国国営・新華社通信によると、中国の王毅外相は6日に国連の潘基文事務総長と電話協議し、緊迫する朝鮮半島情勢について「韓半島(朝鮮半島)でのいかなる挑発的言動にも反対する。中国の家の前でもめ事を起こすことは許さない」と述べました。

 香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは同日、北京大学国際関係学院の朱鋒教授の言葉を引用し「中国共産党と軍内部で北朝鮮問題への対処法をめぐる議論が進んでいる」と報じました。同教授は「核兵器を放棄しないという北朝鮮の宣言は、中国にとっては許容し難いものだ」と指摘した一方、中国は北朝鮮の挑発により朝鮮半島などで米軍の存在が大きくなることは許さないとも述べました。

 聯合ニュースによれば、北朝鮮の金養建(キム・ヤンゴン)朝鮮労働党書記は8日に談話を発表し、韓国と経済協力事業を行っている開城工業団地から北朝鮮労働者を全員撤収すると明らかにしました。


 記事は一部を紹介しました。

 開城工業団地は休業してみせたものの、中国人観光客の勧誘は促進では、北朝鮮に戦争をする気があるとは思えません。金剛山は38度線から20km程度の位置にあり、先日、北朝鮮が対上陸演習を行った元山よりも、遙かに韓国に近いのです。山岳地ですぐに占領することはできないものの、韓国軍が東海岸沿いに進撃すると、前線の後方に取り残されるような場所です。

 王毅外相の言葉はあてにならないでしょう。中国はこれまで、北朝鮮対策で大した影響力を発揮してきませんでした。

 しかし、朱鋒教授の言は参考になります。「北朝鮮の挑発により朝鮮半島で米軍の存在が大きくなることは許さない」。これこそ中国政府の本音です。王毅外相の発言は、この戦略の範囲内にあるものです。

 4月15日は金日成の生誕日です。北朝鮮はこの日までは派手な宣伝を続け、その後、将軍様の賢明な判断により、寸でのところで戦争を踏みとどまったなどと発表して、騒動を終わらせるつもりではないかと想像します。

 今回、北朝鮮は交渉を持ちかけたり、見返りを要求したりしていません。なので、本当に戦争をするのではないかという意見もありますが、むしろ核保有国として世界に認められるための宣伝活動と見るべきでしょう。つまり、北朝鮮の脅迫外交は新しい段階に入ったのです。二代目の金正日は「映画」を使って国民を洗脳しました。三代目の金正恩は「核兵器」で世界からの圧力をはねのける道を選んだのです。

 この核兵器による脅迫は、北朝鮮の首を絞めることになり、成功しないと、私は考えます。まず、本当に核爆弾の小型化に北朝鮮が成功したという証拠がないこと。核兵器の運搬手段である長距離弾道ミサイル(テポドン2号、ムスダン、KN-08)の完成度が疑問であること。次に、核兵器は実際には使えない兵器といわれており、通常戦力とは性質が違うことがあげられます。

 北朝鮮の地下核実験は最初以外の実験は通常爆弾による偽装の疑いがあること。テポドン2号は打ち上げ準備に時間がかかり、準備段階で破壊される運命にあります。打ち上げ実験しかしておらず、目標地点へ落下させる精度がどれだけかが分かりません。ムスダン、KN-08も、打ち上げと落下のテストが繰り返されたかどうか疑問です。核爆弾を大気圏突入時に保護する再突入体を完成させたとは思えないこと。これらの事実は核戦力が本当にあるかどうかに対する疑問を生じさせています。

 軍事学の分野では、大量破壊兵器(核・生物・化学)は、ならず者国家が手に入れようとするものであるものの、実際には使えない兵器であるというのが常識です。そこで、核保有国は核不拡散防止条約を各国と結び、核保有国は核攻撃をすると他国を脅迫しないかわりに、非核保有国は核兵器を保有する努力を放棄するという国際的枠組みを構築したのです。これにより、各国が勝手に戦争をはじめない仕組みを作り出しました。日本ではとかく「核の傘」議論ばかりが優先され、核不拡散防止条約は不平等だといった議論ばかりが横行しています。危険な核兵器に何とか肯定的な役割を担わせようとする努力を有効に活用することも考えるべきです。

 北朝鮮がやろうとしている核による恫喝は、こうした洗練された国際的枠組みに比べると、到底機能しそうにはありません。どの国にとってもメリットがないので、受け入れられそうにないからです。北朝鮮が核による恫喝を行い、国際社会が要求を却下すれば、北朝鮮は実際に核攻撃を行ってみせるしか手段がなくなります。そうなれば、紛争は局地戦の段階を越えて、一気に全面戦争へと突入します。中間的紛争がないのが核戦争の特徴なのです。こうした強度の高い軍事的手段に、北朝鮮は到底耐えられません。遂に、北朝鮮は自分で自分を滅ぼすことになりかねないと、私は考えます。

 米韓は、ここで慌てず、万一の場合を想定しながら、冷静に対応しているのですが、いくら北朝鮮の武器が時代遅れとはいえ、軽視すべきではありません。実際に地上戦になれば、米韓軍の損害は少なくありません。そこで、両軍は指揮中枢への攻撃も考えているのです。

 北朝鮮軍は旧日本軍と共通点があり、上からの命令がなければ動かないところがあります。上から厳しく締め付けるやり方で統制しているので、上官からの命令が来ないとか、上官が戦死すると、下級兵士は行動を起こさなくなるのです。司令部や通信網を破壊すれば、前線部隊は動けなくなるはずです。

 さらに、重砲やロケット砲部隊を攻撃することで、支援手段を奪えば、ハイテク兵器を持たない歩兵部隊はほとんど何もできなくなります。そこを砲撃で叩く方が、米韓軍の損害を防げると考えるべきです。

 第2次世界大戦を思い出してください。日本は中国侵略を止めろという国際的世論に反発して、最終的に開戦に踏み切りました。結局敗北したものの、長期間、抗戦を続けられたのです。北朝鮮が開戦に踏み切った場合、ごく短期間で、軽微な損失で戦争が終わると楽観視すべきではありません。

 よって、ここは慎重に対応すべきなのですが、日本政府のやっていることは陳腐すぎます。菅官房長官が8日の会見で、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた破壊措置命令の発令公表を控えている理由に関し「自衛隊(運用)の具体的内容を明らかにすることは、わが方の手の内を明らかにすることだ」と説明したのには、吹き出しました。手の内を見せないと言っても、破壊措置命令が出されたのは明白です。人工衛星打ち上げ実験で展開したPAC3は、北朝鮮から戦争宣言が出た時には出さないのかと思っていたら、防衛庁内などに配備するとの発表がありました。誰のアイデアなのか知りませんが、後付けの対応で、賢明な戦略から導かれたものではないように感じました。

 安倍首相は9日朝、「日本政府としては、国民の生命と安全を守るために万全を尽くして参ります」と述べましたが、まるで分かっていないという気がしました。

 日本政府が今やるべきなのは、見せかけの弾道ミサイル対策ではありません。ムスダンらしいミサイルの移動が確認されたことばかりが強調されていますが、北朝鮮は自国領域内に航行禁止区域を設けたという情報もあるのです。それなら、短距離のミサイル実験が行われることを想定すべきです。ムスダンでやるのか、短距離ミサイルでやるのかは知りませんが、長距離ミサイルの打ち上げをやる気なら、公海上に航行禁止区域を設けるはずです。

 よって、これに関する情報を収集し、国民に提示できるものを提示するのが政府の仕事だろうと、私は考えます。それ以外にも、北朝鮮軍の動向に関する情報もできる範囲で公表すべきです。

 さらに、日本国内でのテロ活動を防止するための、警察活動の強化も必要となります。空港での手荷物検査、税関での検査の強化は当然必要です。要するに、包括的な対テロ政策を実施すべき時に来ているのです。それらが行われているという情報は今のところありません。 これで本当に万全なの?、と安倍総理に問い質したくなります。

 日本政府から発表される北朝鮮の情報に頼っていたら、手遅れになる可能性が高いと私は考えます。政府よりもインターネットの情報が頼りになるという事実は、日本の政治システムがまだ未熟である証拠だろうと思います。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.