曖昧な北朝鮮軍の実力

2013.4.27

 military.comが北朝鮮軍の戦力全体に関するレポートを掲載しましたので、ほぼそのまま日本語化しました。

 81年前に創設された北朝鮮軍は、国そのものよりも歳月を経ています。抗日民兵としてはじまり、現在は国の先軍政策の中心です。故金正日は17年間の統治の間に、軍隊の役割を高めました。韓国は彼が兵力レベルを120万人へ押し上げたと見積もっています。軍の新しい最高指揮官、金正恩は今年、核装備軍を建設するよう命じることで、朝鮮人民軍に際立った焦点を与えました。しかし、軍隊は旧式の装備と補給不足で運営されていると考えられています。

 秘密主義の軍隊はその活動についてほとんど詳細を公表しませんが、実力と弱点について外国の専門家の評価をここに掲載します。

大砲

 2010年11月に北朝鮮が最前線の韓国の島に砲弾を振らせ、4人を殺した時、北朝鮮はその砲兵の能力について、凍りつくような記憶を与え、争点となっている洋上境界線で砲兵が示す脅威を強調しました。韓国は、北朝鮮が13,000門の大砲と、人口が1000万人以上で国境から50kmの首都ソウルを攻撃できる長射程の砲兵隊を持っていると言います。元米国務省職員で現在は国際戦略研究所にいるマーク・フィッツパトリック(Mark Fitzpatrick)は「北朝鮮はその大砲で最初に韓国の首都を重砲撃を加えられるという大きなアドバンテージを持ちます」と言いました。韓国国防部は、国境線上にある北朝鮮の大砲の70%は開戦後5日以内に無力化できると見積もります。しかし、ハンナン大学、国防戦略大学院のソン・ヤンウ教授(Sohn Yong-woo)は、それは数百万人の国民の犠牲を防ぎ、アジアで4番目の経済への打撃を避けるには遅すぎると言いました。

特殊部隊

 専門家たちは、従来の軍隊が古い装備と火力不足で悩んでいるため、ゲリラ戦は有事において北朝鮮の最も実行可能な戦略だと考えます。韓国政府は北朝鮮が約200,000人の特殊部隊を持っていると見積もり、北朝鮮政府は以前にそれを活用しています。1968年、31人の北朝鮮の遊撃隊が、不成功に終わった朴正煕大統領暗殺で、ソウルの青瓦台を襲撃しました。同じ年、120人以上の北朝鮮の遊撃隊が韓国東部に忍び込み、韓国人の民間人、兵士、警察官、約20人を殺害しました。1996年、潜水艦が壊れた後で、北朝鮮のエージェント26人が韓国北東部の山岳地帯に侵入し、韓国軍兵士と民間人13人と共に彼らの2名が死亡した山狩りを引き起こしました。「特殊部隊の目的は、戦争の初期段階において、核施設のような主要なインフラと国民を危険にさらすことで、アメリカと韓国の両方を思い止まらせることです」と、ソウルの韓国国防大学のキム・ヨンス教授(Kim Yeon-su)は言いました。「北朝鮮の特殊部隊は、核爆弾とミサイル、大砲と共に、その釣り合わない能力の主要な構成物です。彼らの仕事は敵を混乱させるために、できるだけ多くの戦線を作り出すことです」。

陸海空軍

 2010年3月、韓国軍水兵46人が、韓国政府が北朝鮮の潜水艦によるものとした黄海の戦闘艦への攻撃で死亡しました。北朝鮮政府は関与を否定しました。これとは別に1999年以降、北朝鮮と韓国の海軍は、論争となっている西方の洋上境界線付近で、3件の流血の衝突を戦いました。専門家たちは、これらの戦いは韓国が海軍の火力と技術で勝る一方で、北朝鮮は奇襲の要素に依存していると言います。

 韓国国防部によると、北朝鮮は70隻の潜水艦を持っていますが、韓国は10隻です。北朝鮮の海軍から迫る一番の脅威は、韓国沿岸に遊撃隊の侵入者を配置する小型潜水艦だと、シンクタンク「Globalsecurity.org」の代表ジョン・パイク(John Pike)は言いました。韓国政府はアメリカの空軍力に支援されていますが、北朝鮮は韓国よりも多い820隻の戦闘艦も持っています。韓国政府は北朝鮮の航空機の大半は旧式だと言います。北朝鮮は慢性的に、出撃を減らすことを余儀なくされる燃料不足に悩んでもいると専門家は言います。「北朝鮮はあまり長く本格的な戦争を遂行できません」と、フィッツパトリックは言いました。「最大の問題は、非常に優れた(韓国と)アメリカの空軍のために、北朝鮮がすぐに制空権を失うことです。大半は飛べず、北朝鮮のパイロットは空中でわずかな訓練士かしていないため、報告されている北朝鮮の航空機の数は意味がありません。アメリカは韓国に28,500人の兵士を配置しており、最近、核装備が可能なB-2爆撃機とF-22ジェット戦闘機を、演習中に北朝鮮を阻止することを意図した示威飛行で飛ばしました。ロジスティクスと補給品は別の問題です。海軍と空軍に配備された重装備は、朝鮮半島のような厳しい地形では、大がかりな修理を必要とします。韓国国防部は、大半が地下に貯蔵されている北朝鮮の戦時の資源は、2〜3ヶ月しか持たないと見積もります。「北朝鮮が戦争に勝つ唯一のチャンスは、戦争をどれだけ早く終わらせられるかに依存しています」とソンは言いました。北朝鮮は効果的な装備の不足を純粋な人的資源で補おうとすることができます。約2500万人の北朝鮮は770万人の予備役を持っています。

ミサイルと核兵器

 北朝鮮はアメリカの攻撃を抑止するために、核兵器を開発する必要があると言います。北朝鮮は2006年以降、3回の地下核実験を行い、最近のは2月でした。スタンフォード大学の国際的な安全保障と協力センターの核専門家、ジークフリート・ヘッカー(Siegfried Hecker)によれば、北朝鮮は4〜8回の核攻撃を行うに足るプルトニウムを武器化したと考えられています。しかし、彼は北朝鮮が核弾頭をミサイルに取り付ける方法を会得したことを疑っています。「私は北朝鮮がミサイルに取り付けた核兵器でアメリカを攻撃する能力を持っているとは考えませんし、何年もそうならないでしょう」と、彼は今月、スタンフォード大学の国際研究のためのフリーマン・スポグリ機関のウェブサイトで言いました。ランド社の専門家、ブルース・ベネット(Bruce Bennett)は今月早く、北朝鮮がアメリカを攻撃する核ミサイルの能力を得たことは考えにくいと言いましたが、彼は北朝鮮が短距離核ミサイル能力を得る合理的な理由があると言いました。

化学・生物兵器

 北朝鮮は化学・生物兵器計画を実行することを否定します。韓国は北朝鮮が最高5000トンの化学兵器を持っていると主張します。国際戦略研究所は、数字はかなり推測だとしながらも、北朝鮮は化学・生物兵器の武装計画を持っているらしいと言います。「北朝鮮の化学・生物兵器の能力の実際の状態に関係なく、それを持っているとか、持っているらしいという認識で、化学・生物兵器はアメリカ、韓国、日本の政府に不確実性を作り出すことで北朝鮮の利益に貢献し、潜在的な敵を抑止するのか脅迫するのかで掛金をあげます」と同研究所はウェブサイトで言いました。北朝鮮は化学兵器禁止条約の調印国でありませんが、拘束力のない生物・毒素兵器禁止条約に応じています。


 結局、北朝鮮の強みは何なのかという疑問を感じた人がいるかも知れません。北朝鮮軍の実力ははっきりしていない上に、推測も多いのです。

 自民党の石破茂氏がテレビ番組で、北朝鮮が核攻撃をしたら、北朝鮮はあっという間に敗北すると言ったことがありました。この認識は極端すぎます。北朝鮮が敗北することは可能ですが、さほど短期間ではないと考えられる上に、中国が介入した場合は敗北させられない可能性もあるからです。

 いくら旧式とはいえ、北朝鮮はそれなりの戦力を持っています。起伏が多い地形で丘陵を占領しながら前進することを考えると、数ヶ月間の戦闘は見込んでいる必要があり、その周辺の民間人が戦闘に巻き込まれる危険もあります。朝鮮戦争は民間人にかつてないほどの被害をもたらしました。そこまでは行かなくとも、被害は小さく見積もることはできません。

 北朝鮮が制空権を失い、地上部隊を支援できなくなっても、しぶとく生き残る歩兵は、進軍してくる米韓軍へ一定の打撃を与えられます。最終的には掃討されるとはいえ、それには損失を余儀なくされ、時間もかかるのです。

 多分、北朝鮮にとって現実的な兵器は長距離砲でしょう。これらが撃破されるまで韓国内を砲撃を続ければ、かなりの損害が出ます。航空機か前進した地上部隊が砲兵隊を撃破すれば、これらは効力を失います。しかし、それまでの時間は、ほぼ無差別に都市部を狙って撃てるのです。それ以降は、北朝鮮軍は自らの血で米韓軍の北進を阻止することになります。

 潜水艦は一斉に出撃して、一定の効果を上げるでしょうが、国を救うほどの戦力にはなりません。

 生物・化学兵器の効力は私は疑問だと考えています。これらは貯蔵が難しいし、生物兵器がどれだけの効果を発揮するかは常に予測不能で、あてにならないからです。

 弾道ミサイルや核兵器がどれだけ使えるかは疑問です。もし、核ミサイルが使えるのなら、日本と韓国にある米軍基地の破壊に使うのが効果的でしょう。しかし、それで北朝鮮が戦争に勝てるかと言えば、そうではありません。4〜8ヶ所の攻撃に成功しても、米韓の反撃は続くでしょう。

 北朝鮮にしろ、韓国、アメリカ、そして日本にとって、こういう中期的な戦闘が続けば、かなりのダメージがあります。北朝鮮は中国の支援なしに、敗北を防ぐことはできないでしょう。勝っても、損害が大きすぎれば引き合わない勝利ということになります。内心、どの国も、こういう戦争はしたくないのです。

 強いわけではないけども、そう弱くもないのが北朝鮮軍の実態です。常に最悪の事態を想定し、対策を考えていかなければならないのは、北朝鮮対策でも同じなのです。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.