しゃべれないテロ容疑者に黙秘権を認めない?

2013.4.22


 読売新聞によれば、ボストンマラソンを標的とした爆弾テロ事件で、捜査当局は、逮捕したジョハル・ツァルナエフ容疑者(19)と、死亡した兄のタメルラン容疑者(26)に関し、動機や共犯の有無などを追及していく方針です。

 米司法当局は当面、逮捕したジョハル容疑者に対し、合衆国憲法上の黙秘権を認めない方針です。兄のタメルラン容疑者以外にも共犯者がいる場合、米社会の安全を揺るがす恐れがあり、ジョハル容疑者から可能な限り多くの情報を引き出すためです。

 合衆国憲法修正5条は「何人も自己の不利益な証人となることを強要されない」と黙秘権を定めていますが、連邦最高裁は判例で、テロなど「公共の安全」上の懸念がある場合は例外と定めています。米政府は今回、この判例を基に判断したとみられます。

 ロイターによると、米ボストン・マラソンで発生した連続爆破事件で、検察当局は21日、ジョハル容疑者を訴追する準備に入りました。

 ただ、ジョハル容疑者は警察との銃撃戦で重傷を負っており、話ができる状態ではなく、捜査当局による取り調べは不可能です。ジョハル容疑者は現在、ボストン市内の病院で厳重な警備下に置かれています。

 FNNは、地元警察によると、19日未明の容疑者兄弟と警察との銃撃戦では、5分から10分の間で200発以上の銃弾が飛び交い、容疑者側は、ボストンマラソンで使われたものと同じタイプの「圧力鍋爆弾」を警察官に向けて投げつけたと報じました。その後、ジョハル容疑者は、近くの住宅のボートに潜んでいるところを発見されて、さらなる銃撃戦となり、警察は閃光弾などで応戦して容疑者を拘束しました。現在も入院中のジョハル容疑者は、のどにけがをしていて、会話ができず、まだ聴取は行われていません。

 AFPによれば、米CBSテレビが複数の捜査官の発言として伝えたところによると、ジョハル容疑者には深刻な傷が2つあり、大量に出血していました。傷の1つが首の後ろ側にあることから、捜査当局は同容疑者が自殺を図ったとみて調べを進めています。CBSは「同容疑者が銃口を口に入れ、発砲した際にできた傷とみられる」との捜査当局の見解を伝えるとともに、同容疑者は周囲の人々が話す内容を理解している可能性があると付け加えました。

 時事通信によれば、米マサチューセッツ州ボストンで起きた爆弾テロ事件で、ボストン警察のデービス本部長は21日、CBSテレビの番組に出演し、容疑者の兄弟が爆発物によるテロをほかにも計画していたとの見方を示しました。

 デービス本部長は、ジョハル容疑者の拘束後、兄弟が少なくとも四つの手製の爆発物を、逃走に使用した車の中などに持っていたのを発見したと説明。火力の強さなどから、別のテロ計画があったと確信していると語りました。


 またアメリカのみっともない醜態がはじまったという印象です。

 シリアでなら中規模程度の爆弾事件で大騒ぎをして、重要な憲法上の権利「黙秘権」も無視するという話です。それも、判例で認められているだけで、明文化されていない法慣習を適用するというのです。

 おまけに、自殺を図り、喉を負傷してしゃべれない容疑者に「黙るな」と、ブラックジョークのネタにしかならないことを強要しようというわけです。容疑者の意識が安定すれば、筆談での会話はできるでしょう。しかし、ジョハル容疑者が話そうとしなければ何の手がかりも得られません。すると、次なる段階はCIAの尋問官の登場でしょうか?。同時多発テロの容疑者みたいに、長期間劣悪な環境に置いて、拷問すれば、話す気になるかも知れません。もっとも、これは縄張り意識からFBIが承知しないでしょう。

 日本の報道では「黙秘権」と書いていますが、アメリカの報道では「ミランダ権利」を認めないと書いています。ミランダ権利は、逮捕の際に読み上げられる容疑者の権利のことで、その中には、弁護士をつけるという基本的な権利もあります。グアンタナモベイ収容所にテロ容疑者と誤認逮捕された無実の人たちを長期間拘束した誤りを繰り返すことになります。

 まるで同時多発テロ直後に巻き起こった復讐心の嵐が再燃した感じがします。

 軍事的に見れば、爆弾が手製で威力が弱く、死者が少なかったことを幸運に思うべきという側面もあるのです。軍事用の爆薬はもっと協力で、それを使ったテロ事件では死者数はさらに多いのが普通です。

 情報公開も今回に関しては極めて劣悪です。今朝のニュースを見ても、逮捕の経緯はほとんど分かりませんでした。

 200発の銃弾が飛び交ったと聞いて、犯人の凶暴さに腰を抜かす前に、どちらの側がどれだけの銃弾を撃ったのかを考えてみるべきです。人数が多い警察官が大量の銃弾を撃ったと考えるのが自然です。

 以前に、1匹狼型のテロリストは事前に把握しにくいと書きました。インターネット時代には、テロの手口を簡単に学習でき、簡単に実行できるのです。この事件は、「ユナボマー事件」と同種の可能性もあります。アメリカ社会の反応は過剰すぎます。


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