太陽節に国民への特別配給なし

2013.4.17


 アジアプレスによると、北朝鮮で今月15日の国家最大の祝日である「太陽節(故金日成主席の誕生日)」に、住民への「特別配給」が実施されなかったことが分かりました。

 毎年、同記念日を前後する時期には米をはじめ、食用油、酒などの臨時配給がありましたが、今年は子どもたちへの菓子類の配給だけだったといいます。異例の事態を北朝鮮内部の消息筋が伝えました。

 北朝鮮東北部・咸鏡北道会寧市に住む消息筋は15日、デイリーNKとの通話で「北朝鮮当局は毎年、酒と油、菓子などを祝日の特別配給として供給してきたが、今年は子ども達の飴と菓子以外の配給はなかった。人民班長(住民組織の長)は『国の事情が悪く祝日配給は中止となった』と話していました。太陽節に配給がないのは今回が初めて」と言いました。

 この消息筋はまた、「住民は『祝日物資も配給できないほどに国が大変とは』との反応を見せています。『酒や餅を作る米があってこそ祝日の雰囲気が出るのに、今回はそれさえも出来ない』。14日午後からは金日成の誕生日を記念した祝賀報告大会のため、商人が商売を行なえないよう市場ゲートが閉鎖されました。祝日配給もないうえに商売もできず、今年の太陽節は祝日らしくない」と現地の様子を説明しました。

 別の消息筋はさらに、「当局は最近に入り両江道地域に2号米(軍糧米)を解禁し、教員や医師などの公務員と労働者にトウモロコシを配給しました。こうした通常の配給を行なったため、『特別配給』は省略されたようだ」と話しました。

 韓国に住む、高位幹部出身の脱北者はデイリーNKの取材に対し「『苦難の行軍』時代の1990年代にも、酒一本ではあったものの特別配給自体はあったと言いました。金正恩の世襲政権1年というわずかな間に、太陽節配給が中断するほど(北朝鮮)内部の状況が悪化したと思われます。北朝鮮は金日成民族だとして特別配給を通じ、住民に金日成を神的な存在として偶像化してきました。太陽節記念配給の中断は(今回予定していた)ミサイル発射や核実験を実施しなかったことよりも否定的な効果をもたらしかねない」と語りました。


 記事は一部だけを紹介しました。

 決定的な情報が出たという感じがしました。軍事パレードが行われなかったことから、こういう内政状況の悪化を連想しましたが、特別配給が行われなかったことは、それをさらに裏づけました。かつては、豊富な物資が配給されていたものですが、いまや恒例の特別配給も断たれたわけです。しかも、2号米を配給に使っているということは、民生用だけでなく、戦争用の物資も欠乏していることを窺わせます。

 ここから、北朝鮮に全面戦争などする力がないことが分かります。軍隊に配給する米を使い、長期戦に耐えるだけの備蓄がないのなら、核による恫喝も連鎖的に意味がなくなるということです。

 通常兵器による戦争なら、小規模な攻撃や局地戦に限定することが可能ですが、核攻撃をした場合、すぐに国家全体が戦争に巻き込まれていくことになります。そうでなくても、近年の戦争は総力戦という、国全体での戦いに発展しやすい形になっているのに、それを促進する核攻撃を行うことは、北朝鮮にとって、むしろ不利なのです。この矛盾は、現在北朝鮮が行っている核による恫喝が戦いの道理に合わないことを意味します。

 もはや、この見せかけの危機の結末は出たのかも知れません。開城工業団地は近いうちに再開するしかなく、弾道ミサイルによる恫喝も終了することになります。そして、冬に備えて、農作業に励まないと、この冬に北朝鮮で暴動が起きることになります。

 米韓がやるべき課題もはっきりしました。北朝鮮には核攻撃能力がないという態度を示し、金正恩が威光の中核としている核戦力を無力だと明言することです。最大の売り物を傷物にすることで、恫喝行為を止めさせることができるかも知れません。

 アジアプレスの報道は素晴らしい情報をもたらしたといえます。


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