中国軍がB-52を完全に識別と反論

2013.11.28


 中国国防部が、米軍機が防空識別圏内を飛行した件について、記者の質問に答えました。(質疑応答はこちら

 中国軍の主張は以下のような内容です。米軍の飛行機は北京時間26日11時〜13時22分、東シナ海防空識別圏の東部の縁、釣魚島(尖閣諸島)の東約200kmを南北の方向に往復飛行しました。。中国軍は全行程でタイムリーな識別を行って監視し、飛行機の分類を明らかにしました。中国は東シナ海防空識別圏の航空機の識別規則の公示によって、圏内のいかなる航空機の活動も識別します。中国はこの空域に対して有効な管理を実施する能力があります。

 military.comが、この件に関して、アナリストの見解を紹介しました。

 アメリカに拠点を置く「IHS Maritime」のアナリスト、ゲーリー・リー(Gary Li)は、B-52の飛行は、ワシントンが中国の防空識別圏に不快感を感じている徴候だろうと言いました。「しかし私は、少なくとも中国の見方からは、それが大きな侵入であるとは思いません」。

 防空識別圏は飛行禁止区域というよりは管理区域です。

 韓国のユン・ビュンセ外務大臣(Foreign Minister Yun Byung-se)は水曜日に、中国の防空識別圏はすでに、扱いがさらに難しい、扱いにくい地域的状況を作ったと言いました。

 北京の人民大学の国際関係専門家、成暁河(Cheng Xiaohe)は、米軍機の飛行は、防空識別圏の論争をわずかに格上げしたことを意味すると言いました。中国はアメリカの飛行機を追うために飛行機を派遣しなかったが、次回はそうすることができると、チェンは言いました。「そうした状況が頻繁に起きれば、それは確かに緊張状態を引き起こします」。中国をアメリカは、来週、ジョー・バイデン副大統領(Vice President Joe Biden)の訪中中に防空識別圏について議論するだろうと、チェンは言いました。

 アメリカに拠点を置く中国アナリスト、ゴードン・チャン(Gordon Chang)は、米政府が中国の怒りを日本から逸らそうとしているように見えると言いました。「明らかに中国は米軍機に干渉しようとしませんでしたし、事実、彼らはしなかったのです」「しかし、日本が中国の防空識別圏を挑発した最初の者であったら、中国は事件を引き起こしたかも知れません」「紛争のリスクは、少なくとも今のところは、減りました」。


 記事は一部を紹介しました。

 まず、中国国防部の発表は驚きました。何の意味もなしていないからです。防空識別圏を設定したら、そこを実力で管理していることを行動で示す必要があります。つまり、飛行計画を提出しないで防空識別圏内に入ったすべての航空機に中国軍の戦闘機を派遣して、正体を明らかにするということです。これは実際にやって見せないことには、実力を証明したことにはなりません。中国軍はレーダーでB-52を探知したのかも知れません。B-52の飛行時刻と場所を示しているので、レーダーで探知したらしいことは分かりますが、戦闘機パイロットが目視していないのに、機種を特定したと言い切るのは疑問です。速度や高度、飛行パターン、あるいは機体から発信される電波を探知して、総合的にB-52だろうと判断したのかも知れませんが、これはパイロットが目視して、機首を判別したのに比べると、信頼性のない情報です。中国軍には防空識別圏にスクランブル発進を行う能力がないと疑われても仕方がないことです。

 スクランブル発進には、防空識別圏内に入った航空機をレーダーで探知できて、管制官がスクランブル機を目標まで誘導でき、戦闘機パイロットが管制官から与えられた情報を元に、目標に接近できるという能力が必要です。

 中国報道官の言からすると、この防空識別圏では、直ちにスクランブル発進を行うのではなく、識別を行うだけなのかも知れません。分析して、記録するだけの防空識別圏かも知れません。B-52の巡航速度が時速818kmとすると、尖閣諸島上空に達するのは、わずか15分程度です。仮に、近くの柯城区衢州基地(kmzファイルはこちら)から戦闘機Su-30を発信させると、尖閣諸島までは575kmの距離です。Su-30の最高速度はマッハ2.3(2,817.5km)、巡航速度マッハ0.9(1,102.5km)といわれます。最高速度でなら約20分、巡航速度でなら52分以上かかります。つまり、大急ぎでSu-30を急行させないと、B-52は圏外へ立ち去ったかも知れないということになります。

 つまり、中国が言う防空識別圏内での識別とは、レーダーで航空機を監視することであり、スクランブル発進はしないという意味かも知れません。

 リー氏が言う、大した侵入ではないという意見は理解できません。防空識別圏は領空と違い、侵入うんぬんを言うのは妥当ではありません。B-52の飛行のような通常の訓練とか偵察活動は侵略の尖兵とはまったく違い、軍のレベルを維持するために行われるものであって、戦争で行われる空軍作戦とはまったく性質が違います。防空識別圏への侵入があれば、空軍は動きを見せて、監視していることを相手に知らせるものなのです。特に、今回は尖閣諸島の領有権が関係しているのですから、そこに外国軍の航空機が接近したら、動きを見せなければなりませんでした。

 ユン外務大臣の発言はその通りと思います。

 成氏の発言は基本的にはあたっていると思いますが、スクランブル発進をしたりしなかったりなんて、あり得ません。中国軍内には、どんな場合にスクランブル発進をするのかの要諦があるはずです。識別圏の縁では発進せず、領空に何kmまで近づいたら発進するといったルールです。また、バイデン副大統領の訪中は重要です。日本も直ちに誰かを派遣して話し合うべきですが、外務省が抗議しただけのようです。

 チャン氏の、日本の自衛隊機が尖閣諸島に接近したのなら、中国軍がスクランブルをかけたという見解には、直ちには賛成できないものの、中国軍の考えが分からない中ではあり得ることと考えなければなりません。しかし、自衛隊機ならスクランブル発進をするという規則はないようにも思えます。自衛隊機だろうが米軍機だろうが、スクランブル発進をして、不測の事態が起これば、結果は同じだからです。その場合、日米が結束して、事態にあたろうとするわけですから、日米どちらの航空機に対しても、同じ対応を決めていると見ることもできるのです。

 これを確認するには、自衛隊が尖閣諸島上空を飛んでみる必要があります。日本政府はそれをしようとはしないでしょうが、このまま中国の防空識別圏が既成事実化するのも避けたいところです。いまやるべきなのは、中国に特使を派遣し、相手の意向を十分に確認し、対策を検討することです。


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