中国政府が東シナ海に防空識別圏を設定

2013.11.24


 11月23日、中華人民共和国政府が、1997年3月14日の国防法、1995年10月30日の民間航空法、2001年7月27日の飛行基本法に基づいて、東シナ海の防空識別圏を宣言しました。

 その範囲は以下のとおりです。(国防部の発表はこちら


北緯33度11分 東経121度47分
北緯33度11分 東経125度00分
北緯31度00分 東経128度20分
北緯25度38分 東経125度00分
北緯24度45分 東経123度00分
北緯26度44分 東経120度58分


 下の図で、赤い部分が日本の、黄色が中国の防空識別圏です。中国の西部端は本来は領海に沿った領域なのですが、ソフトウェアの都合上、直線で示しています。

 日本の防空識別圏については、防衛庁訓令第36号をご覧下さい。(pdfファイルはこちら

図は右クリックで拡大できます。

 これは、尖閣諸島の領域紛争において、これまでで最も大きな出来事です。緊張のレベルが一段階上がったとみなければなりません。単に、尖閣諸島の問題だけとも言えないものがあります。

 また、アメリカにとっても、これまで行ってきた偵察飛行ができなくなるという点で問題であり、米国務省の反発は、そこに一因があると言えます。 ロシアのコメントは読んでいませんが、ロシアの偵察機の航路とも交錯します。

 今後、日本、アメリカ、台湾、ロシアの軍用機は、この中国の防空識別圏に注意しながら飛行する必要があります。民間機は届けを出しておけば問題ないので、民生に影響はありません。

 特に台湾は、かなり本土に近い場所に防空識別圏が設定されたことになり、かなり不愉快だと想像します。これは尖閣諸島の防衛のために防空識別圏を設定したため、台湾の領土から45kmもの近い場所を境界線が通ることになりました。日本の防空識別圏は狭い海峡部分を除いて、相手国領土と100kmは距離を置くようにしています。

 しかし、過度に問題視するのも誤りです。防空識別圏は領空ではないので、そこに入ることは違法ではありません。むしろ、対立を避けるために、スクランブルなどの対処を取る領域を予め宣言しておき、無用な対立を避けるために設定するものです。領空に国籍不明機が侵入してから戦闘機が発進したのでは間に合わないので、防空識別圏に入った時点で対処に着手する必要があります。その範囲を事前に外国に知らせておくためのものです。

 つまり、防空識別圏が尖閣諸島上を通っていても、即座に中国軍がその上空への飛行を認めないということはできません。尖閣諸島は日本の領土であり、その領海の上は日本の領空であり、そこは日米安保条約による防衛対象であるからです。多分、中国は防空識別圏を指定しながらも、尖閣諸島付近については、自分から侵入するような真似はしないと思います。変則的な運営をするだろうと考えます。

 よって、米国務省は中国に対して「一方的だ」と批判していますが、これは何の拘束力も持ちません。なぜなら、防空識別圏は国家が一方的に宣言するものだからです。日本も与那国島付近が一部、台湾の防空識別圏に入っていることを問題視して、2010年に防空識別圏を台湾側へ向けて拡大しました。この時、日本政府は台湾政府に事前に説明せず、台湾は受け入れられないと回答しています。

 今回の中国の宣言は尖閣諸島のためだけに設けられた感が強く、多分、中国はこの空域に戦闘機を出し、日本の対応を見ようとするはずです。それが直ちに偶発的な交戦に発展する危険は少ないと言えますが、過去には米軍の電子偵察機に中国軍機が接触し、中国軍のパイロットが死亡するという事故がありました。この時、中国軍機のパイロットが米軍機に近づきすぎて接触したのに、中国政府は米政府に執拗に謝罪を求め、米政府は仕方なく、謝罪してみせました。似たようなことは起きるかも知れません。

 今回の宣言は大きな出来事ですが、宣言自体が問題というよりは、今後、中国軍がどう動くかにより、結果はよくも悪くもなりそうです。たとえば、防空識別圏を設定したのに、そこを通過する各国の空軍機にうまく対処できないなら、中国軍は赤恥をかくことになるでしょう。通過する軍用機にうまくスクランブルが行えないとか、回数が少ないと指摘される危険性です。

 心配なのは、組織的というより、偶発的な交戦です。これを観点として、今後の動きを見ていきたいと考えます。


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