そもそも対テロ戦が分かっていない安倍総理

2013.1.23


 alarabiya.netによれば、アルジェリアの「Numidia News」が人質事件の映像を公開しました。

 アル・アラビヤが入手したビデオの1つは、包囲された石油会社の内部で人質が歩き回り、ヘリコプターが近くを飛び回る様子を示しました。

 別のビデオでは、人質犯とアルジェリア軍の会話を聞くことができます。テロリストは「我々は彼ら(人質)を一人ずつ殺す」と言いました。アルジェリア軍は落ち着いた声で解決を目指して答え、「我々は人質を解放する対話をしたい。そうすれば我々は不介入を選ぶ」。人質犯は「介入を望まないのなら、この地域の包囲を解け」と言いました。「人質を解放して欲しい」と軍将校は毅然と答えました。

 3番目の場面で、人質犯はアルジェリア軍が彼らの方へ向かってきているとお互いに言います。ハリウッド映画のシーンのように見える映像で、あるビデオはアルジェリア兵士がゆっくりと人質へ向けて這い、テロリストに動きを悟られないように用心深くしているところを示します。

 読売新聞は安倍総理がキャメロン首相から「アルジェリア軍はすぐに攻撃を開始するかもしれない。安倍首相からも説得してほしい」「米英で『暗視ゴーグルや無人偵察機など機材の支援は惜しまない』と言っているんだが、アルジェリアは受け入れない」と連絡を受け、「私からも人命優先をアルジェリアに求める」と答えたと書いています。その結果、説得の電話をかけたかどうかは、この記事には明確に書いていませんが、安倍総理は作戦開始を知るとセラル首相に電話をかけ、「人命優先を要請していたはずだ。攻撃するとは一体どういうことか。米英の支援を受けたらどうか」と声を荒げたとしています。


 記事は一部を紹介しました。

 ビデオ映像はその全体ではなさそうですが、元記事でも見ることができます。記事に明記されてはいませんが、このビデオ映像は人質のアルジェリア人が撮影したものと考えられます。

 貴重な情報がもたらされたと思います。アルジェリア軍は人質犯を説得して、人質を解放しようと試みていたのです。単純に強攻策に出たのではないことが、このビデオ映像で明らかになりました。人質を解放するのなら、犯人の逃走を許すところまで譲歩するつもりだったと考えてもよさそうです。これはアルジェリア政府として、最大限の譲歩です。もちろん人質犯には、人質を解放すると、政府軍が攻撃してくるという懸念があったでしょう。この場合、犯人たちが少数の人質を連れて逃げる可能性もありますが、多数を救出するためにはギリギリの選択だと言えます。

  しかし、人質犯はこの条件に乗らず、施設を爆破して、人質を連れて逃げようとしたと考えられます。この場合、人質が近くにいる状況で攻撃を行うため、人質に被害が出ることになります。それが今回の惨劇の原因です。

 安倍総理がセラル首相に詰め寄ったのは、この場合は大きな間違いです。アルジェリア軍も犠牲者を出して作戦を実行しています。日本人の人質の命運を握っている味方を批判すべきではありませんでした。安倍総理がアフリカの小国など大国日本の指示通りに動けばよいと考えたのか、突入作戦と聞いてストレスを受け、冷静さを失ったのかは分かりません。しかし、この場合は、舌を噛んででも言うべきでないことを、安倍総理は感情に任せて口走ったのです。友好関係は危機的状況下において、壊れやすいものです。どんなにストレスがかかる局面でも、冷静な態度を失わないことは重要です。安倍総理にはそれが分かっていないことが、この事件で露呈しました。

 これが憲法を改正して、自衛隊を海外に派遣しようと考える自民党の党首だから、私は憲法改正は不安だと言うのです。自民党が不適切な時に不適切な場所に自衛隊を派遣する危険は大いにあります。

  キャメロン首相の発言から、イギリス人も対テロ戦はしんどい思いをしてやっていることが明らかです。内心はやりたいことではない戦いを、やせ我慢しながらやっているのが実状だということを、我々は知る必要があります。憲法改正について、あまりにも勇ましい意見を聞くにつけ、私は強い違和感を覚えます。それは、私が戦争について知ることと、あまりにも違うからです。

 キャメロン首相はアルジェリア軍の動きについて、非常によく分かっていたようです。むしろ、日本の外務省の能力不足を言うべきなのでしょうが、法人保護のために自衛隊法を改正するよりは、外務省の無能さを改善する方が先でしょう。大したこともできないのに、安全保障分野を独占して放さない外務省こそ問題です。この無能ぶりは湾岸戦争時も露見していましたが、政治が何の改善も指示してこなかったのです。


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