オスプレイでないと不可能な作戦?

2013.1.14


 military.comが、2011年3月22日にリビアのベンガジ近くで撃墜されたF-15パイロットを海兵隊が救出した際、MV-22B「オスプレイ」が不可欠だったと報じています。

 この記事は、救出作戦に参加した兵士が勲章を授与されたことを報じているのですが、その中で、V-22のパイロットが、ヘリコプターでは不可能だったと発言しているのが気になりました。その部分を紹介します。

 救出任務で航空機を飛ばしたエリック・コッレ大尉(Capt. Erik Kolle)は「私はこの任務は、特に、V-22なしには起こり得なかったと思います」と言いました。

 この日、米空軍のF-15Eがベンガジの近くで墜落しました(過去の記事はこちら)。コッレ大尉と他2人のクルーは航空機・人員戦術回収任務(tactical recovery of aircraft and personnel: TRAP)を命じられました。彼らは強襲揚陸艦キアサージ(USS Kearsarge)から発進し、夜間に約150マイル(241km)を飛んで、90分以内にパイロットを救出しました。「私はどのTRAPにもV-22が必要だというつもりはありませんが、この任務はそうでした」「この時点で、他のヘリコプターの資材が地中海上にありましたが、燃料が足りないか、数時間長くかかる距離にありました」。

 指揮官のクリス・ボニファチオ中佐(Lt. Col. Chris Boniface)はコッレ大尉に同意しました。「パイロットはこの時捕まらないように隠れ、我々は彼がいつ捕まるかも知れないと考えたことを忘れないでください」「MV-22Bが動ける速度は極めて重要でした。他の部隊のヘリは2倍かかったでしょうし、彼は多分捕まってしまったでしょう」。


 本当にオスプレイでないと実行不可能だったのかと思いましたが、単に最善の選択がオスプレイだったというだけでした。

 まず、正確にこの作戦を評価するには、キアサージと他のヘリコプターがいた正確な場所を知り、それらを比較検討する必要があります。それらは記事に書かれていないので、作戦の全体の評価はできません。本当にオスプレイが必要だったかどうかは分からないのです。

 boeing.comによると、救出任務の間、オスプレイは266海里(493km)の往復任務を90分以内に完了させました。旧機種のCH-47がこの任務に使われたと仮定しても、巡航速度で612 kmを飛べるので、現場を往復することは十分に可能でした。

 速度はオスプレイは平均で329km/hで飛んだ計算です。これはCH-47の最大速度315km/hを上回ります。しかし、ヘリコプターなら2倍かかったかというと、CH-47の巡航速度265km/hで飛んだとすると2時間弱で到着する計算です。2倍というのは、言い過ぎという感じがしますが、これは当時、ヘリコプターがあった位置からの所要時間を指しているのかも知れません。

 TRAP任務は、回収すべき人員と資産を敵に奪われてしまえば失敗です。そのため、速度は最大の要素となります。その点では、オスプレイは必要だったということになりますが、それ以上ではありません。CH-47でも速度を出せば315km/hまで出せるのです。もちろん、全行程をこの速度で飛べば燃料が心配ですが、それほどの違いはないと言えます。燃料の問題は空中給油機で解決することもできます。

 その点で、オスプレイがないと無理だったと言うのは妥当なのかという疑問が残ります。パイロットが敵に追われていたことを示す具体的な情報はありません。boeing.comによれば、兵装システム士官とパイロットは脱出後、パラシュート降下中にはぐれ、兵装システム士官は反政府勢力に保護され、パイロットはさらに離れた場所に降下して孤立しました。はぐれたにしても、反政府勢力からそう離れた場所に降下したとは思えません。近くに反政府勢力がいたかも知れない場所です。直ちに身の危険を感じる場所だったかどうかは疑問です。

 このように、考えなくても結論できそうな事実関係も、別の情報と合わせ、分析すると、まったく違った見解が出てくるものです。ここに紹介した記事は、日本の軍事雑誌などで紹介されそうな内容ですが、ひっくり返してみれば、この程度の話です。ヒーロー物語は簡単に作れ、流布できるものなのです。


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