ビソネットへの米政府の訴追は未決定

2012.9.3


 military.comによれば、オサマ・ビン・ラディン急襲について書いた本「No Easy Day」は国防総省の警告に関わらず来週発売されます。

 金曜日、出版元のダットン社は「現時点で計画を変える予定ばっかりありません」と声明しました。国防総省が警告する前、出版社は「No Easy Day」を発売し、本自体に語らせることが重要だとして、発売日を9月11日から9月4日に繰り上げました。

 予約注文はAmazonのベストセラー1位を獲得し、初版の200,000部は575,000部へ増刷されました。

 新刊見本が公知となっており、暴動が本のあらましを報じていることを考慮して、米政府は出版差し止めを試みそうにありません。

 国防総省広報官のジョージ・リトル(George Little)は、著者のマット・ビソネット(Matt Bissonnette)は出版前に公式の保安評価を受けなかったことで、2007年に署名した機密保持契約2件に違反したと言いました。リトル広報官はどんな法的手段を検討し、いつ行うかを言いませんでした。

 木曜日、国防総省の主任弁護人ジェー・ジョンソン(Jeh Johnson)は、ビソネットが機密保持2件と、2012年4月の退役時に署名した関連書類に重大な違反と侵害をしたと警告しました。

 出版社を通じてビソネットにファックス送信された書簡でジョンソンは、本のさらなる宣伝は違反と侵害を重ねると忠告しました。「国防総省は、この状況を踏まえて、あなたとあなたと協力するすべての行動を追求し、我々に可能なあらゆる賠償を検討しています」。

 これに応えて、パットン・ボグス法律事務所のロバート・D・ラスキン弁護士(Robert D. Luskin)は金曜日にジョンソンに返信し、彼の法律事務所がビソネットの代理を務め、彼は機密保持契約に違反していないと断言しました。

 ブッシュ政権でCIAエージェント(Valerie Plame)の身元を暴露した件で、ホワイトハウス側近のカール・ローブ(Karl Rove)の代理人を務めたラスキン弁護士は「著者は出版に合意する前に彼の責任について法律相談を受け、合意に違反したり、かつての同僚を危険にさらさないように著書を綿密に評価したと言いました。彼は忠実に責任を果たしたと確信しています」。

 司法省は民事的手続きで賠償を求められますが、同省広報官は金曜日にコメントを拒否しました。

 1970年代末、元CIAエージェントのフランク・ソネップ(Frank Snepp)は当局に提出することなく南ベトナムでのCIA活動に関する本を出版しました。政府はすべての利益を受け取るために訴訟を起こし、法廷はそれを認めました。政府はソネップの本が少しでも機密情報を含んでいるとは主張しませんでした。1980年の6対3の評決で、最高裁は「この裁判の明白な証拠は、CIAエージェントが出版前の評価のために当局に著作を提出する義務に違反したことはCIAが法律上の義務を遂行する能力を損ねたことを示している」と言いました。

 リトル広報官は、この本の国防総省の評価について述べることを拒否しましたが、あとで秘密が明かされたかどうかに関して、いかなる最終結論にも至っていないと言いました。ビソネットへの手紙で、ジョンソンは機密保持の合意は機密情報を決して開かさないことを義務づけていると言いました。「この義務はあなたが海軍の現役を終えた後も有効のままです」「機密情報の開示は連邦法への違反です」とジョンソンは書きました。彼は著者が原稿を保安評価のために政府に提出することは義務であるとも書きました。


 記事は一部を紹介しました。

 これまでの経緯は予想の範囲内ですが、過去の事例が載っている点が興味深く感じました。ソネップの努力は報われず、利益のすべてが政府に持って行かれたのです。ビソネットの場合がどうなるかは、契約の内容も見ないと何とも言えません。ビソネットが機密漏洩にならないと思えたことも、他の人が読めば漏洩に見えるかもしれません。この契約書のコピーは公開されていないと記事に書かれています。今後の展開は国防総省と司法省次第です。

 なお、ラスキン弁護士が仕事をしたカール・ローブの事件は、CIAエージェントの身元を共和党政権が暴露したというとんでもない話でした。元米外交官ジョゼフ・ウィルソンは、イラクが大量破壊兵器を持っているというブッシュ政権の宣伝を嘘だと批判していました。彼の妻、ヴァレリー・ウィルソンはCIAの秘密エージェントだったのですが、ブッシュ政権からのリークで身元を暴露されました。国のために働いたスパイの身元を暴露するという常識外れの手法で、政権はジョゼフに報復したのです。CIAエージェントの身元を暴露することも法律に触れるのに、共和党はそれをやりました。よく共和党は勝つためには何でもやると言われますが、まさにそれです。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.