反イスラム映画抗議への各国の対処

2012.9.24


 military.comによれば、パキスタンの反イスラム映画に対するデモで、少なくとも17人が死亡しました。

 この事件は日本でも報じられているので、報じられていない部分だけを紹介します。

 パキスタン政府は金曜日に、祝日「予言者への愛の日」を宣言し、平和的な抗議を奨励しました。

 米大使館は、オバマ大統領とクリントン国務長官がビデオを避難するテレビ広告をパキスタンで報じるために、70,000ドルを使いました。二人のコメントはワシントンでの過去の公開行事から取られ、英語にパキスタンの主要な言語、ウルドゥー語の字幕がつけられました。 YouTubeがビデオを削除することを拒否したので、パキスタンはYouTubeへのアクセスを禁止しました。

 パキスタンのラジャ・ペルベズ・アシュラフ首相(Prime Minister Raja Pervaiz Ashraf)は、国際社会に予言者を侮辱することを防ぐ法律を可決するよう主張しました。「ホロコーストを否定することが犯罪なら、イスラム教徒がイスラムの神聖な人物を中傷し、卑しめることは犯罪であると求めることは、公平で合法的ではありませんか」とアシュラフ首相はイスラマバードで宗教学者と国際的な外交官への演説で言いました。ホロコーストを否定することは、アメリカでは許されていますが、ドイツでは犯罪です。

 米当局者はイスラム社会に反イスラム映画にはまったく同意しないものの、表現の自由を保証するためにそれを妨げる能力がないと説明しようとしました。

 ドイツでは、内務省がビデオ映像が引き起こした緊張のため、若者の間にある急進的イスラム信者に対抗することを狙ったポスターキャンペーンを延期していると言いました。そのポスターはドイツ語、トルコ語、アラビア語で書かれ、移民が多いドイツの都市に金曜日に掲示されることになっていましたが、治安状況が変化したために延期されました。ドイツには約400万人のイスラム教徒がいます。


 記事は各地で起きたデモによる悲惨な被害を伝えていますが、あえて、各国の対処だけを抽出しました。

 パキスタン政府も沈静化を狙い、米政府も資金を投じてテレビCMを流しました。それでも、激しいデモは起きました。この問題はこれくらいでは解決できないレベルにあるのです。オバマ大統領は、こういうテレビCMのために、過去の映像ではなく、特別な演説を用意して、彼らに語りかける必要もあるでしょう。

 しかし、米国務省のように、直ちにテレビCMを流すような迅速な対応は日本の外務省が見習うべきものです。「国益」のためだけにしか動かないような外務省の政策は、結局は、日本の国益を損ねるものなのです。

 別の報道で、ブラジルで行われた平和的なデモ行進は、イスラム教徒だけでなくキリスト教などの他の宗教の信者も参加したと聞きました。

 イスラム教徒の若者がアメリカを憎むのは、実は自分たちの社会の中にある腐敗や汚職への怒りが原因です。縁故主義が強いイスラム世界では、自由な経済活動が阻害されます。若者たちはそれを知って絶望感を持ち、さらに富裕層とアメリカの経済的な結びつきを知ると、真の悪魔はアメリカであると信じるようになります。こういうことについて、イスラムの若者たちは客観的に考える必要があります。ブラジルも決して経済状況はよくありません。それでも、自分たちを客観的に見つめる能力は持っています。これはやはり民主的な活動のやり方を知っているかどうかの違いだと言えます。こうした平和的な抗議の方法をイスラム世界に広めていく必要があります。

 ドイツがナチス時代にやったユダヤ人の虐殺を犯罪行為として刑罰化したのは必然的な成り行きでした。しかし、宗教を侮辱したからと言って映画の公開を禁じるのは、特別に法律がないと難しいという問題があります。また、かつては教会を揶揄すること自体が許されず、そうしたことに対する反発が現在の民主主義のエネルギーになっているという背景もあります。たとえば、有名な映画「評決」は、教会が運営する病院が医療事故を起こし、その訴訟を請け負った弁護士が教会の卑怯なやり方と闘う話です。これをキリスト教を侮辱しているという理由で公開禁止にすべきとは思えません。ミュージカルの「ジーザス・クライスト・スーパースター」はキリストを人間臭く描いていますが、これを神聖さを傷つけたと言うべきとは思えません。そのほか、コメディ映画にはキリスト教をネタにしたジョークがよく登場します。

 しかし、こうした歴史的事実がイスラム国で理解してもらえるとは思えません。表現の自由を根拠に説明することは、逆に、問題をこじらせるかも知れません。この問題は世界がまったく意識していなかった場所「盲点」で起きたと言えるのです。


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