オスプレイが150m上空を飛べるのはなぜ?

2012.9.20


 military.comによれば、日本政府はオスプレイを沖縄に配備することを承認しました。

 海兵隊は500フィート(約150m)以下の飛行を制限するように努めなければならず、コンバージョンモードは米軍基地上空のみで行い、学校と病院のような陸標と夜間飛行を避けなければなりません。


 記事は日米の合意事項だけに絞って紹介しました。

 この予防措置でオスプレイについてあげられている問題点をすべて回避することはできません。評価できるのはコンバージョンモードを米軍基地上空に限ったことですが、これでは固定翼機モードからヘリコプターモード、ヘリコプターモードから固定翼機モードのいずれかを米軍が選択できることになります。つまり、ヘリコプターモードで米軍基地の外にある市街地の上空を飛んでもよいことになります。

 当サイトで指摘したのは、米軍基地を離陸するときは固定機翼モードにして、市街地を離れたところでヘリコプターモードにすることでした。固定翼機モードで重大事故は起きておらず、固定翼機一般と安全性はほぼ同じだといえるからです。150mの距離的な余裕は失速という危機的状況にはまったく不十分です。航空法では都市部での最低安全高度を300mとし、その他の地域で150mとしています。ここでお分かりでしょうが、日本政府は「その他の地域での最低安全高度」でアメリカと調整したのです。しかし、普天間基地は空港周辺がすべて都市部です。なぜ300mにしなかったのか、なぜ米軍を優遇するのかについて、合理的な説明はありません。

 また、300mの高度があれば事故が回避できるかは不透明です。沖縄で米海兵隊のCH-53Dが墜落した事故では、機体は高度305mから急速に墜落し、オート・ローテーション機能を使って事故を回避しようとしたにも関わらず、機体は沖縄国際大学の建物に接触しました(日本政府の公式報告書はこちら)。これはローターをエンジンではなく、風圧で回して不時着するだけの揚力を得る機能です。オート・ローテーション機能のないオスプレイは固定翼の揚力を使って最悪の事態を回避するしかありません。そのためには、一旦、降下して、翼に揚力を得てから方向を変える必要があります。これが可能なら事故は回避できるかも知れませんが、無理な状況も考えられるのです。

 これではヘリコプターモードで普天間基地周辺の市街地上空をオスプレイが飛び回ることになります。言うまでもなく、これが日本政府が最初から望んでいた状況です。しかも、共産党を除くほとんどの政党がオスプレイの導入に賛成しています。

 先日、与党民主党の某国会議員が自分の政策について書いた文章を目にしました。その中にオスプレイの問題も触れられていました。そこではオスプレイは老朽化した現用機の後継機だという表現がありました。現用機も生産を続けようとすればできるのです。それを止めたのはオスプレイを米軍に採用させるための条件作りに過ぎません。競合相手がいないオスプレイは軍需産業にとって金のなる木なのです。入札は実施されず、随意契約という、いわば言い値で国に売れる上、数十年間はスペアパーツの供給が見込めます。

 米軍にとっては航空産業界に天下り先の確保が見込めますし、アメリカの政治家たちには地元工場が潤うという利益がもたらされます。こうなっては、大統領府もいまさら採用を中止しろとは言えないという社会状況がアメリカにはあります。オスプレイは「ドリーム・マシン」という別名がありますが、それは米航空産業界にとってのドリームに過ぎません。

 日本が独立国家なら、こうした状況を率直に踏まえた上でこの問題に対処するべきであるのに、「日米同盟の強化」という錦の御旗の前には反対する者がいなくなるというのが日本の政治環境であり、民主党だけの問題ではないのです。

 なにもかも、国民の軍事問題に対する意識の欠如、沖縄県に対する差別意識が根本にあります。軍事問題は分からないから、専門家が決めてくれればよいという環境が日本人全体の中にあるのです。日本人の大半の安全に関わることなら、沖縄県民には我慢を強いることが正しいという判断が沖縄県民を除いた日本人にはあるのです。あるいは、長いものには巻かれろという日本人の意識が、アメリカに反対意見を言わないという傾向につながっているのかも知れません。

 しかし、考えてほしいのです。オスプレイの採用を見送った米陸軍が空軍と海兵隊がオスプレイを導入することに反対しないのは、言う立場にないからです。沖縄県へのオスプレイ導入について、日本人は当事者であり、発言すべき立場にあります。それを何も言えないと決めつけ、最初から放棄する考え方は言うまでもなく、間違っているのです。


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