謎に包まれるシリア内戦の戦況

2012.7.31
追加2012.8.1 8:45

 BBCの記事から、シリアのアレッポでの戦闘に関する情報を抽出しました。

 シリア当局はアレッポのサラハディーン地区(Salah al-Din)を奪還したと言いましたが、反政府派は戦闘がまだ続いていると言います。

 国連監視団のババカール・ゲイ(Babacar Gaye)は街の中での暴力が急増し、個人的にホムス市内(Homs・kmzファイルはこちら)で重砲撃を目撃したと言いました。

 ゲイ中将(Lt-Gen Gaye)もラスタン(Rastan・kmzファイルはこちら)近くで砲撃と戦闘による深刻な被害を見たと言いました。潘基文国連事務総長(UN Secretary General Ban Ki-moon)は先週末にゲイ中将の車列が攻撃されたと言いました。

 アレッポの戦いは3日目に入り、国連監視団は迫撃砲、戦車、武装ヘリコプターからの攻撃を目撃しました。

 戦闘は反政府派が自ら配置についたアレッポ南西のサラハディーンに集中しました。シリア国営テレビは街からの映像と、日曜日遅くにサラハディーン地区を掌握したと言う兵士を報じました。月曜日に、ダマスカス当局はこの地域を一掃したと再び言いました。反政府派は反政府派がいまだに支配していると言い、地域が軍に蹂躙されたことを否定しました。アレッポの自由シリア軍指揮官、アブデル・ジャバール・アル・オクアィディ大佐(Col Abdel Jabbar al-Oqaidi)は、政府軍は1メートルも前進していないと言いました。

 重砲撃と戦闘は北東のサクアール地区(Sakhur)でも報告されました。

 AFPの記者は反政府派が政府の装甲車を乗っ取り、アレッポ北西5kmにあるアナダン(Anadan・kmzファイルはこちら)の検問所を確保したと言いました。検問所を支配したことは、反政府派がアレッポとトルコ国境の間の直通ルートを与えます。

 BBCのイアン・パンネル(Ian Pannell)は、アレッポでは住民が食料不足と停電に直面していると言いました。彼は反政府派は火力で政府軍に劣るものの、街角で効果的にゲリラ戦を戦っていると言いました。

 ゲイ中将の車列への攻撃について、潘事務総長は人員が車の装甲で守られていたために負傷者はいなかったと言いました。


 サラハディーン地区とサクアール地区で攻撃が確認されたという話がピンと来ません。BBCの記事を開いて、文末に掲載された地図を見てください。

 サラハディーン地区の西側には、ニュー・アレッポ(New Allepo )とハムダニヤ(Hamdaniya)という大きな地区が2つあり、サラハディーン地区を西方向からの攻撃から守っているはずです。

 サクアール地区も東側にハイダリヤ(Haidariya)とハナヌ(Hananu)という大きな地区があります。

 普通、市街戦で市内にこもる敵を掃討するには、外側から内側へと進みます。より内側にある地区を掃討しても奪還されるからです。なぜ、シリア軍がこうした不合理な戦いをしているかは疑問で、理由は様々に想像できます。しかし、その結果、戦況は闇の中に姿を消してしまいます。いくつか可能性を考えてみます。

 反政府派はすでにこれらの外郭の地域を失い、政府軍が前進したのかも知れません。これは反政府派が負けつつあることを意味します。

 反政府派が支配する地域は北東から南西にかけて細長い形なので、政府軍はそれを3つに分割するために2カ所で攻勢に出たのかも知れません。

 あるいは、反政府派の支配地域は完全につながっておらず、これらが連結されるのを防ぐためかも知れません。

 双方の戦力が分からないので、どの可能性が一番高いかは分かりません。しかし、地域を完全に包囲できるなら、外側から進撃する方法を使うでしょうから、そこまでの戦力はないと考えてよいでしょう。反政府派には徴兵経験がある男たちが沢山いるはずです。

 アナダンの検問所を反政府派が奪ったことがトルコからの直通ルートを実現したという部分は興味深いことです。

 アレッポから北に向けて幹線道路214号線が走っています。この道路はアナダンの東を通ってアザズ(A'zaz・kmzファイルはこちら)の手前で北東へ折れ、シリアとトルコの国境検問所につながります。トルコ政府はシリア反政府派への支援を否定していますが、ここから支援物資をシリアへ送り込めます。しかし、国境からアレッポ北端までは直線距離で約44kmもあり、道路沿いには空軍基地などの軍施設が確認できます。

 ということは、シリア北部の政府軍は反政府派に殺されたか、寝返ったということになります。あるいは、政府軍の空軍機が幹線道路を走る反政府派の車列を攻撃しようとしたら、寝返った空軍部隊に撃墜されるのかも知れません。

 しかし、リビアの場合と違い、政府軍が寝返った話はほとんどなく、聞こえるのは隣国への亡命ばかりです。いくら外国人記者が自由に動けないといっても、こうした情報は宣伝のためにも反政府派から流されるものです。それが一向に出てきません。さらに、アサド大統領の姿はテレビから消えました。率直に言って、情勢は分からない部分が多すぎ、明瞭な判断はできそうにありません。 政府軍が優勢という報道もありますが、その逆である可能性もあります。 リビア内戦と比べると、報道内容に大きな差がある点に注意が必要です。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.