オスプレイ問題:ジャーナリズムも腰砕け

2012.7.25


 J-CASTニュースが「野田首相にオスプレイで自民が援軍 石破元防衛相『どれだけ地域の安全が保たれることか』」という記事で、オスプレイ配備に賛成する記事を報じました。

 記事から気になる部分を拾い出し、コメントします。

 オスプレイをめぐっては過去に事故が頻発しており、開発段階を含めると36人が死亡している。このことから、「ウィドウメーカー」(未亡人製造器)という有り難くない名称までついてしまった。

 「オスプレイが危ない」とされる根拠のひとつが、10万飛行時間当たりの「重大事故」の件数を表す「事故率」だ。海兵隊全体の事故率は2.45で、オスプレイの事故率は1.93、普天間飛行場に配備されているCH46ヘリコプターは1.11。一見、CH-46の方がオスプレイよりも安全に見える。

 ただし、老朽化したCH-46は続々と退役しており、普天間飛行場に配備されていた機体についても2012年6月下旬から解体作業が始まっている。このため、「そもそも稼働率が下がっているため、事故率も低く見える。ベトナム戦争の頃は、今よりもはるかに高かった」という指摘がある。

 誰がそう言っているのかも示さずに結論を提示する点がすでに疑問です。以前に紹介した記事によれば、過去10年間のCH-46の飛行時間は480,000時間で、オスプレイは2007年以降115,000時間とされています(関連記事はこちら)。CH-46の方が明らかに多く飛んでおり、記事の主張は誤りであることが分かります。海兵隊広報官、リチャード・アルシュ大尉は、統計上の数字は飛行時間が少ない航空機が重大事故を起こすと跳ね上がるとも言っています。飛行時間が少ない航空機の事故率の方が高くなるのです。J-CASTニュースの記事は事故発生率と事故発生数を混同しているようにも思えます。

 石破氏も、7月23日に出演したTBS系「ひるおび!」で、この指摘に賛同した上で、

 「オスプレイは今までのCH-46のスピード2倍、詰める量3倍、飛べる距離5〜6倍と言われている。そうすると、これが入ってくることによって、どれだけこの地域の安全が保たれることか。このあたり(沖縄)は尖閣の問題もあった。北朝鮮の情勢も、どうなるか分からない」
 「この地域の平和と安全を守るために、米国は命をかけてやっている。その点で、『今のCH-46の方が事故率が低いから、このまま使えばいい』という発想には、絶対にならない」

 オスプレイがCH-46よりも遙かに性能がよいということを示すために、速度、積載重量、航続距離の3つの数字が最近強調されています。多分、この数字は外務省か防衛省が用意したもので、各政党に宣伝用にばらまかれているようです。J-CASTニュースもそれに乗っかってしまったようです。こういう単純な数字が繰り返される時は用心すべき時です。これらの数字については、別の記事で詳しく検討してみようと思います。

 7月20日付けのブログには、さらに詳しく説明が載っている。

 「ここまで事態が複雑になってしまっては、これが解決策だ、という明快なものを私も持ち合わせていません」

 解決策がないとは思えません。タンデム型ヘリコプターの最新機種を導入する選択肢が考えられるはずです。米陸軍が使っているCH-47は最有力候補でしょう。もっとも、これでも沖縄県は納得しないでしょう。というのも、問題はオスプレイの安全性ではなく、半世紀以上続いている米軍の沖縄駐留にあるからです。オスプレイ反対運動は、配備が実現すると米軍駐留をさらに確定させるという観点から起きているのです。

としながらも、

 「何の努力もせず、何の犠牲も払わない国が、最終的にその恩恵を享受し、配備にあたっては反対運動を繰り返す様は米国にとってはとても理解しがたいものなのでしょう。ましてやそれが同盟国ともなれば尚更のことです」

 日本が防衛で何の努力もしていなかったとは、私は知りませんでした。さらに言えば、この発言には大きな問題があります。犠牲さえ払えば成果が得られるという考え方は戦争では無用だからです。「No Pain, No Gain(苦労しなければ成果はない)」というスローガンはスポーツの世界では有効ですが、軍事の世界では犠牲は損失に過ぎません。味方の損失を最低に、敵の損失を最大にすることが軍事の基本的な考え方です。こんな甘い発想の人物は簡単に味方から犠牲者を出すものです。これが同盟国間の交渉事であっても、言うべきことは主張しなければなりません。アメリカ国内にもオスプレイ反対運動があることを考えても、この主張には理由らしいものがないことが分かります。 こういう主張には気が弱い人しか引っかからないでしょう。

などと反対運動を批判。さらに、

 「オスプレイと原発の構図は実に酷似していて、『人間の作る技術である以上、絶対の安全はあり得ない。リスクは常に存在し、いかにそれを極小化し、万一事故が起こった時にどう被害を最小化するかに全力を尽くすべきだ』という考え方がなかなか理解されにくく、いつしか実はあり得ない『絶対神話』が作り出され、かえって悲惨で過酷な結果を招くのです」

とリスクを踏まえた上で、米国任せではなく日本政府として安全性を確認し、責任を負うことを表明するように求めている。

 要するに、事故は否定できないということです。万一、事故が起きた場合は、沖縄県が引き受けてくださいと言っているだけの話です。

 石破氏の発言から、米国任せにしないで日本政府が説明すべきだという主張を読み取ることは不可能です。ジャーナリズムの立場で、ここまで行間を補ってあげる必要がどこにあるのか疑問ですし、この記事は通常の取材によるものではなく、何らかの意図があって書かれているとしか思えません。日本のマスコミにはこういう動きが非常に多く、未だに改善が見られないのです。



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