元タリバン高官:目的達成は困難

2012.7.12


 military.comによれば、元タリバンの指導者だった男がアフガニスタンでの戦争に勝つことは、「聖なる神の調停」を必要とすると言いました。

 「タリバンがこの戦争に勝つには聖なる神の調停のようなものを必要とします。タリバンがカブールを占領することは非常に可能性が低いことです」と、水曜日に高官はイギリスの「New Statesman」とのインタビューで語りました。「どのタリバン指導者もカブールを占領できると予測することは大きな間違いであることを知っています」。しかし、タリバン指導者はタリバン要員の士気を蝕むために認められないことを知っています。タリバン高官は匿名を条件に話しましたが、同誌は高官は入念に調査され、説明はチェックされたと言います。

 かつてはキューバのグアンタナモベイ収容所にいた拘留者は、少なくともタリバンの70%の者はアルカイダに対して怒っていると言いました。「我々の仲間はアルカイダが天から我々に送られた大厄災と考えます」と彼は言い、一部の者はアルカイダがアメリカが送り込んだスパイダと考えているとつけ加えました。彼はオサマ・ビン・ラディンが死んでホッとしたと言いました。「政策によって、彼はアフガンを破壊しました」「彼が本当に聖戦を信じるのなら、我々の国を壊すのではなく、サウジアラビアに行き、そこで聖戦をやるべきです」。タリバンはアフガンから占領者を排除し、イスラム法、信仰、法を施行するために戦っていると彼は言いました。「国力を達成することに失敗するのなら、彼らは国内に組織化された一派としての機能に甘んじなければなりません」「タリバンが権力を取り戻せないのなら、彼らは多くの問題に直面します。しかし、彼らは権力の争奪に挑戦することからはかけ離れています」。

 タリバン運動は女性の扱い方、細かな規則を厳しく押しつけること、国際的関係において評判が悪化したと彼は言いました。「現在の優先事項は治安の回復でなければなりません」「しかし、他の問題に関しては、私は彼らが厳しい政策を和らげることを期待します」。


 「聖なる神の調停(divine intervention)」はキリスト教の概念ですが、アラビア語にも同じ表現があります。「神の介入」とか「神の手」などとも訳されます。日本風に言えば、神頼みということになります。

 この記事は、タリバンには戦略らしい戦略がないことを明らかにしています。合理性を追求する西欧型軍事論とはかけ離れており、まったく理屈に合わないことばかりです。アルカイダが国を破壊していると思いながら、なぜ匿い、それによってNATO軍との戦争を招いたのでしょう。アルカイダをアメリカのスパイダと考えるのなら、なぜ国内に入れたのでしょう。タリバンの目的はアフガン国内にイスラム法による統治を実現することです。余計な活動に手を出すことは戦略に合致しません。

 一方、米軍のような軍隊は合理性を追求し、問題点が見つかれば数百ページの報告書が書かれ、現実的な変更が実施されます。明らかに優れているのは米軍の方です。ところが、その米軍がタリバンを打倒できないのです。これが戦争の不思議なところです。

 戦略論として言えば、タリバンもアメリカも自らの目的に合わないことに戦力を投入し、互いに消耗し合っているのです。アメリカ人にとっては、タリバンがアフガンを支配しても、自国に危険が及ぶことはなく、目的を達成することに意義を感じていないのが実態です。タリバンが地元で戦っているのに対して、アメリカは長大な補給線を構築して、海外で戦っています。コストで割に合わないのはアメリカの方です。しかし、タリバンの損失も少ないものではないと考えられます。

 日本でアメリカの対テロ戦に協力するかどうかという議論が起きた時、積極的に協力すべきだという主張が大手を振りました。アメリカとタリバンの戦いが、彼らの戦略目的には合致しない無駄な戦いだという発想はほとんど認められませんでした。戦略眼の欠如は日本自身の問題でもあります。



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