テポドン探知失敗:海自は恥を知るべき

2012.4.18


 時事通信によれば、北朝鮮のテポドン2号打ち上げに関し、杉本正彦海上幕僚長は17日の記者会見で「海自のイージス艦は探知できなかったのが事実」「破壊措置に適した位置に配置していたために、ミサイルの落下位置から遠く離れていた」と述べました。

 この会見で、杉本海幕長は東シナ海と日本海に展開した3隻のレーダーが捕捉できなかったことを認めました。


 この問題を単に配備位置の問題と考えて欲しくありません。政権と自衛隊の両方に、戦略・戦術の思想がないことこそ問題です。

 海上自衛隊は本気でテポドン2号を撃ち落とす気だったようです。政府が言うとおりなら、領海の外にある大気圏外で撃墜していたわけで、これが実際に行われていたら、「国際法違反だ」という格好の反論の口実を北朝鮮に与えていたでしょう。正直なところ、ここまで海上自衛隊が愚かだとは考えていませんでした。

 しかも、一隻は日本海にいました。これは東京に配備したPAC-3と連携して、テポドン2号が東京に飛来した場合に備え、東倉里と東京を結ぶ線上にいたのでしょう。そのために、完全に探知に失敗したのです。愚かにもほどがあります。軌道を逸れたロケットが、ここまで遠方まで届いた試しは史上皆無なのに、海上自衛隊は本気でそれを想定していたのです。

 敵がこちらの想定通りに動いてくれて、予定通りに撃ちやすいところにテポドン2号が飛んできてくれると思っているようでは、簡単に敵の陽動作戦に引っかかるのではないかとの疑念もあります。

 これにより、防衛省と政府は混乱して、自治体へテポドン2号が発射されたことを伝達するのが遅れました。一番肝心の「国民を守る」ことが疎かになったのです。本末転倒も甚だしいと言うべきです。

 そもそも、同じ危機に対処するのに、日本と韓国は同盟国であるアメリカを擁しながらも、何の連携もせず、それぞれが個別に対処していました。米軍には韓国軍の情報が入ってくるのに、自衛隊はそれを活用できないというわけです。前にも書きましたが、韓国軍がテポドン2号の残骸を捜索するのなら、日本は回収物の解析に参加するなどして、共同で動くべきでしたが、そういう動きは一切見られませんでした。

 テポドン2号打ち上げでやるべきことは、テポドン2号の性能を調査し、今後の北朝鮮への圧力とするために、できるだけ証拠を集めること。国際社会に打ち上げ非難の協調路線を作り上げることでした。言うまでもなく、軍事的な成果ではなく、政治的な成果に目的があるわけです。ほとんどあり得ない領域内への墜落に備えるとか、自衛隊が戦果をあげるために撃墜に備えることでは断じてありません。

 さらに、これは政局に利用され、防衛大臣の問責決議へと流れていきます。戦術上の誤りが、政策上の誤りにすり替えられ、国民を誤った認識へと誘導していくことになります。

 海上自衛隊に言いたいのは、真面目に仕事だけやればよいのではないということです。的確な軍事分析に基づいて、政府に優良な勧告をすることこそ任務です。言われたことだけやるのではなく、結果まで考えて、何をすべきかを提言すべきです。

 ところで、イージス艦のSPY-1レーダーは450km以上の範囲を探知できるのに、本当にテポドン2号を探知できなかったのかは疑問です。イージス艦がどこにいたのか、当初から私は疑問を持っていました。そこで、Google Earthを使って再現を試みました。

  1. イージス艦の位置の目安として、東倉里から南450kmと2倍にあたる900kmの位置にマーカー(赤い二重丸)をつけました。
  2. テポドン2号が2つに分裂した位置を東倉里南90kmと推定して、分裂高度70.5kmと同じさ高さのマーカー(ピンク色のバー)をつけました。
  3. テポドン2号が最高高度に達したとされる白翎島(ペクリョン島)上に、最高高度151.4kmと同じ高さのマーカーをつけました(黄色いバー)。
  4. イージス艦の位置とした場所から、高度0kmで東倉里の方向を見た時に、バーが見えるかどうかを調べました。バーが見えれば、テポドン2号は水平線の上にあり、イージス艦で探知できたと考えられます。
図は右クリックで拡大できます。

 赤線とグレーの円弧は、2009年の打ち上げデータを元にした、テポドン2号の予想軌道です。このデータは12日に紹介しています(記事はこちら)。

 結果は以下のとおりでした。テポドン2号が上昇した後に本土に向けて落下していることを確認するために、イージス艦2隻は900kmの点よりもさらに南の、石垣島や沖縄本島寄りに位置していたと想像されます(私に言わせると、これは最悪の配備位置です)。900kmの時点でこの状態ですから、それならば確かに探知はできなかったでしょう。ロケットは当たり前のように墜落するものです。特に実用段階前のロケットの墜落は珍しくありません。それなのに、それを想定していなかったとは笑止千万です。

 
最初の爆発
最大上昇点
450km
900km
図は右クリックで拡大できます。

 このように、イージス艦は国民に危険を知らせるためには役に立ちませんでした。これは米軍の早期警戒衛星が打ち上げを探知した時に即座に自治体に通告する手順にしておくべきだったことも意味します。早期警戒衛星に探知を任せてイージス艦は迎撃に専念するのか、イージス艦数隻で探知と迎撃の役割を分担するのかといった振り分けが必要です。しかし、そんなことは今回の事案では、事前に検討して対応を済ませておけたはずです。専門家が揃って,一体何をやっていたのでしょうか。



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