アフガン撤退は本当に順調なのか?

2012.3.29


 military.comがアフガニスタンへの権力委譲の現状を報じました。

 アフガン軍はまもなく2800万人の国民の4分の3の治安を担います。ジェームズ・スタヴィリディス海軍大将(Adm. James Stavridis)もアフガン軍・警察の訓練が順調だと言いました。

 NATO軍最高指揮官、スタヴィリディス大将は今年の夏に、計画よりも数ヶ月早く、350,000人以上の隊員が達成されると言いました。「戦略は健全で、結果を出しています」「私は(2014年以降)アフガン国軍によい能力を期待しており……彼らはとても誇れる軍隊で、経験ある戦闘指揮官に率いられています」。アフガンの権限委譲プロセスは昨年速度を速めました。6段階のプロセスの代わりに、計画は現在5段階のステップを達成するように変更され、早ければ2014年ではなく、2013年中期に開始されます。年間40億ドル以上と推定される長期間の軍の資金を、同盟国やその他の提供者でどう分割するかは未解決のままです。


 スタヴィリディス大将はアフガン撤退を円滑に終わらせるために述べているのであり、実態はまるで違います。military.comが報じているように、イラクから本土へ送るために集めた車両がクウェートに山積みになっています。フットボール競技場100個分の敷地に15,000台の車両があり、9,000台はクウェートの米軍で使われ、6,000台が本土へ送られることになっています。車両は本土へ送り返す前に洗浄され、土を綺麗に洗い流すことになっており、作業には時間がかかるというわけです。気軽に外国への侵攻を考えても、最後にはこういう莫大なお掃除が待っている訳です。これは戦争の後始末の一部に過ぎません。

 共和党の大統領候補の1人、ミット・ロムニーはタリバンとの全面対決を主張しますが、このようにイラク戦の撤退準備が進められていて、アフガンへの権限委譲後の国際的な調整が行われている間、国民との公約を理由に戦闘の激化を行うことなど、誰にもできません。各国がアフガンから手を引き始めているのですから、我を張れば、最後にはアメリカが単独でアフガンに残ることになります。

 military.comは米軍のジェームズ・マティス大将(Gen. James Mattis)がパキスタン軍首脳と会うために出発すると報じています。議題はもちろん、補給路の再開です。アフガン撤退のための費用を節約するためにも、パキスタンの陸路再開は重要です。いつ終わるとも思えないタリバンとの戦いを、このように補給が不安な中で継続することはできません。戦争ではこうした様々な問題を常に総合的に考えていかなければなりません。

 翻って、日本の国会を見ると、田中直紀防衛大臣の問責決議案だと野党は叫んでいます。しかし、これは北朝鮮を喜ばせるだけで、利益はありません。大臣が無能に見えても、北朝鮮がロケットを打ち上げようとしている、この段階での交替は悪影響しかありません。ロケット迎撃の根拠の条文を答えさせて大臣の無知を暴露するやり方は、「防衛」ではなく「政局」のために過ぎません。どうせ批判する野党議員も、来月のロケット打ち上げが日本の防衛上の危機とは本気で考えてはいません。単にマスコミが調査する野田政権の支持率を下げ、それをマスコミに報道させ、総理の辞職を引き出そうとしているだけです。あまり細かいことを突くと、自分たちがやって来た間違いがさらけ出されることもあるので、適当に分かりやすいところでお茶を濁しているだけです。

 早い話、国民に国会のことを伝えるのはマスコミですから、彼らに受ける話題を提供すればよいのです。マスコミが喜ぶのは議員がいかに無能かという話で、これは記事としてはとても見栄えがよいのです。日本人は自虐的な傾向があって、身内の恥に関心が高く、こういう記事をよく読むのです。その結果、犠牲になるのは防衛です。

 マスコミに本当にやる気があるのなら、韓米がやると言っている北朝鮮のロケットの一段機体の引き揚げを2009年当時になぜやらなかったのか、防衛大臣だった浜田靖一氏に問いただす記事をいま掲載すべきです。大気圏外、つまり領空外でロケットを撃墜すると書いた読売新聞の記事は誰のどんな発言を根拠にしているのかも明らかにして欲しいところです。それから、東倉里発射基地への取材を朝鮮総連などを通じて北朝鮮側に打診したのかも私は知りたいと思っています。どうせ迎撃自体は自衛隊がやるのですから、問題は大臣ではなく、自衛隊がどういう態勢で北朝鮮のロケットを待ち受けるかです。国民が知るべきなのは、その一点です。

 上の比較でお分かりでしょうが、危機の負荷は日本は数段軽いのです。 しかし、意味なく大騒ぎするのが常態となっており、これこそ防衛の危機だと私は考えます。

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