シリアでの毒ガス攻撃は偽情報か?

2012.12.26


 ロイター通信が、イスラエルのヤアロン副首相の発言として、情報が正確でない可能性を指摘しました。

 ヤアロン副首相は、「シリアで(化学兵器が)既に使用されたとの確認情報や証拠はない」と指摘。反体制派が外国によるシリア軍事介入を狙っているとの考えを示しました。


 私もこの報道を疑問に思っていました。毎日新聞が報じたのと同じ内容の記事を探しても、どこにも見当たらないからです。真っ先に報じそうなBBCも何も言っていません。BBCがこの種の情報を報じない理由は何もなく、それだけにこの記事は本当なのかと疑っていました。

 さらに、ヨルダンに派遣されている米軍の化学戦部隊がこの件の情報収集をするはずなので、米政府からも発表があってしかるべきです。なぜなら、米政府はシリア政府が化学兵器を使用した場合は軍事介入を行う可能性があると警告しているからです。毒ガスを使ったのに米軍が動かないとなれば、シリア政府はやりたい放題ということになりますし、オバマ政権は激しい批判にさらされることになるでしょう。

 そこで、被害者の映像があると聞いたので、Youtubeを検索したところ、現場や病院で撮影されたと思われる映像が見つかりました。これを見ると、とても偽映像とは思えない内容です。問題はこれらの症状が毒ガスで引き起こされたのか、別の何かなのかということです。

 白煙が上がって、すぐに症状が出たのなら、マスタードガスのような遅効性の毒ガスではないことになります。即効性のサリンなど、多くの毒ガスは目に刺激があるはずですが、目の痛みを訴えている人はいないようです。縮瞳は映像からは判断できません。皮膚のただれを示す者がいないから、びらん性の毒ガスでもありません。

 現場の映像を見ると、歩道付近の地面にへこんだような場所があり、そこに壊れた物が落ち込んでいます。家屋もかなり壊れていて、くぼみに落ち込んでいる瓦礫は、その家の一部かも知れません。その周辺に人が倒れています。比較的爆発力の小さい爆弾が落ちたようにも見えます。化学兵器は少量の爆薬で爆弾を破壊して、内部の毒物を放出するので、そうだとしてもおかしくはない状況に見えます。

 死亡した人たちの死因が記事には書かれていません。爆弾の爆発で死んだのか、毒ガスなのかが分かりません。映像からは爆発で死者が出てもおかしくない状況に見えます。記事には空爆としか書かれておらず、戦闘機とヘリコプターのどちらか投下したのかも分かりません。

 白煙があがったということは、TNT火薬が詰まった通常爆弾ではないということですし、火傷をしている人がいないのは白リン弾でもないということです。

 そこで、浮かんでくる推論は二つです。第一は、政府軍が毒ガス弾を投下した。第二は、政府軍が投下した爆弾は通常兵器で、地上にあった劇物が爆撃によって毒性の物質を放出した。

 結論は出せませんが、両方の可能性で見ていくべきだと思っています。


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