韓国国防省の銀河3号解析の脆弱性

2012.12.24
修正 2012.12.25 3.25


 国内マスコミが韓国国防省によるテポドン2号の分析結果を報じています。

 この分析結果は誤りと断定できないものの、根拠が弱く、あてになりません。特に敵がいる場合、こういう反論が可能な主張をすべきではありません。この記事を読んで、遂にテポドン2号の正体が分かったと思うようでは、すでに北朝鮮に遅れをとっているのです。

 まず、追加で燃料タンクとエンジン連結装置などを回収したのに、それらと合わせた分析結果ではなく、酸化剤タンクだけの分析という点が問題です。全体重量の見積もりが軽ければ、ロケットは遠くまで飛ぶという結論になります。できるだけ多くの部品を回収し、分析する必要があります。私が2009年に日本がサルベージをしなかったことを批判するのは、このためです。

 酸化剤が「赤煙硝酸」であることは以前から指摘されていたことであり、何ら目新しいことではありません。2009年に日本が機体のサルベージを決断していれば、すでに解明済みだったことです。

 宇宙ロケットの酸化剤は液体酸素だから赤煙硝酸なら弾道ミサイルだとは言えません。初期のV2号ロケットの酸化剤は液体酸素でした。赤煙硝酸は推進剤と混ぜるだけで発火するので、点火系を作る必要がなく、開発が楽だという利点があります。ロシアの技術を導入する上で、これはむしろ必然だったことです。

 さらに、赤煙硝酸は中国の長征ロケット、ロシアのプロトンロケットなどの宇宙ロケットでも使われており、アメリカのスペースシャトルの後継ロケットにも使われる見込みです。なので、これを根拠にすると、北朝鮮に簡単にひっくり返されてしまうのです。実際のところ、宇宙ロケットと弾道ミサイルの違いは、ペイロードの種類しかありません。人工衛星や友人宇宙船を積んでいれば宇宙ロケットですし、軍用弾頭を積んでいれば弾道ミサイルです。

 韓国国防省の推定では、推力は約118トン。射程は1万km以上。軍用弾頭の重量は500~600kmで、チャールズ・ビック氏の推定では、(TD-2Bの)1段機体の推力は107トン。射程は6,700~11,250km。軍用弾頭の重量は500~650kgです。

 両者の推定は大体同じですが、ビック氏の推定はかなり前に出されていて、これも目新しくはありません。こうしたデータが確認できたのが、今回の成果です。それ以上ではありません。

 射程だけ見れば、アメリカ西海岸に届くようですが、他の条件も整わないと、実際には届かないのです。


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