シリア北部の戦況の続報

2012.11.28
追加 同日 18:50


 military.comによれば、シリアの反政府派は月曜日にユーフラテス川の水力発電所、ティシェレンダムをはじめとする最近の戦況について報じました。

 月曜日に反政府派と政府派のクルド人が、今月初めに反政府軍が進入した、トルコ国境近くのラス・アル・アイン(Ras al-Ayn・kmzファイルはこちら)で、休戦を取り決めました。

 人権団体「The Syrian Observatory for Human Rights」は、反政府派戦士が、マンビジ(Manbij・kmzファイルはこちら)の近くにあるティシェレンダム(Tishreen dam・kmzファイルはこちら)を確保しました。このダムはいくつかの地域に電気を供給しています。アブデル・ラーマン(Abdul-Rahman)は「これは体制への大きな打撃です」と言い、ダムはトルコからシリアを経てイラクへ流れるユーフラテス川の戦略的位置にあると説明しました。

 インターネットに投稿されたビデオ映像は、5個のスクリーンの前に座る従業員が電話でダムの水位について話しているダムの管理室に銃を持った男いるところを示しました。別のビデオは、弾薬が詰まったと見られる緑色の木箱の前にいる銃を持った男を示しました。男が箱の一つを開けると、それには手榴弾が入っていました。「自由シリア軍はティシュレンダムを完全に開放しました」と反政府派の1人が言うのが聞こえます。これらのビデオは本物に見え、AP通信の報道と一致しました。シリアは記者の移動を制限しています。

 トルコ国営放送は、政府軍の空爆が国境の町アテマ(Atmeh・kmzファイルはこちら)を月曜日に空爆し、死傷者が出たと報じました。負傷者数名が治療のために国境を越えて運ばれ、数名が避難のために国境をわたりました。アトメはティシュレンダムから約130km西にあります。アトメは国境に近いため、イデリブ州とアレッポ州の反政府派に支援品や武器を運ぶ主要な密輸ルートとして、より南方で闘う多くの反政府戦士の基地となっていました。住民はトルコ国境に近接しているため、空爆されないと考えていました。「ジェット機がここで我々を攻撃したのは初めてです」とアテマ住民のムサブ・カダウラ(Musab Kadour)は言いました。

 トルコのレイハンル(Reyhanli・kmzファイルはこちら)の地元当局者は、トルコ軍のF-16戦闘機が国境を越えたと言いました。彼は記者に話す権限がないため、匿名を希望しました。

 人権団体「SHOR」は、空襲がマアッラト・アル・ヌーマン(Maaret al-Numan・kmzファイルはこちら)、カファ・ロウマ(Kfar Rouma)、ハレム(Harem・kmzファイルはこちら)を含めた他の地域にも行われたと報告しました。

 クルド人活動家のムスタファ・オッソ(Mustafa Osso)とアブデル・ラーマンは、ラス・アル・アインは、政府派のクルド民主連合党(the Kurdish Democratic Union Party: PYD)が反政府派(大半はアルカイダ系のジャバット・アル・ヌスラを含むイスラム過激派)と停戦に合意した土曜日から平静だと言いました。反政府派は今月初めに町に入り、ほとんど毎日、地域の支配を巡ってPYDと衝突しました。両者はシリア内乱に複雑さを加えています。ここ数日の戦闘で数十人の人びとが死傷し、数十人が両方の捕虜になりました。両者は捕虜交換に応じ、町から戦闘員を引き揚げました。ラーマンは競合する両派は日常生活を運営するために地域議会を作ることで合意しました。オッソは、アラブ系クルド人、チェチェン人、キリスト教とを含む数千人が町から逃げたと言います。町にいる記者はAP通信に、土曜日以降、町はおだやかで、PYDの戦闘員が停戦が成立後に住民に家に戻るように拡声器で訴えていたと言いました。7月にシリア北東部のクルド人地域から政府軍が撤退すると、彼らはPYDのクルド人戦闘員にすぐに置き換えられました。こうした軍は、その後、優勢なクルド人地域へ押し進んだ後で、反政府軍兵士と戦いました。このクルド人グループはPKK(クルド労働党)に属し、反政府派戦士は自ずと、トルコ南東部地域のクルド人主流はのために闘います。

 反政府派の側で闘うイスラム戦士は、ここ数ヶ月でより大きな役割をシリア内乱で演じており、多くの者がイスラム国家を建設したいと公言しています。一部のグループが過激派の関与に強く反対しており、反政府派は分裂しています。

 military.comによれば、NATO軍に要請しているペイトリオットミサイルの配備について、トルコ軍は月曜日に、すでに設置が行われて、トルコ軍の防空システムとのリンキングが進行中とのことです。


 記事は一部を省略しました。

 カファ・ロウマは「Kfar Houm」と同じ町かも知れませんが、確認が取れないので、kmzファイルは掲載していません。

 ティシュレンダムの奪取が確認されました。ユーフラテス川から北はほとんど反政府派が支配していると言ってよさそうです。

 ラス・アル・アインでの動きは興味深いですね。両者が住民の生活を回復させるために停戦したということです。しかも、共同で自治を行うつもりのようです。 すでに政府軍の影響力はないことになりますが、目的の違う両者がうまくやっているけるとも思えません。

 アテマに対する空爆は、いよいよシリア軍が焦っている徴候を示しています。トルコ軍も神経質にスクランブルを行い、F-16が越境する事態が起きています。こうなると、トルコにとっては、いよいよ反政府派を支持して、最終段階で地上軍を投入するという選択肢が現実味を帯びてきます。これは、いわゆる侵略ではありません。重火器を持たない反政府派を支援し、内乱を早期に終わらせるための工夫です。同時に、自国に対する安全保障上の懸念も払拭できます。新生シリアはトルコと友好関係を築いていくでしょうから、短期間で終わるような地上戦ならやる価値はあると、軍人は考えるものです。

 なお、昨日から盛んに報じられていますが、北朝鮮の長距離ミサイル発射の徴候は、情報を精査中です。衛星写真によると、基地周辺には雪がありません。しかし、12月中旬までには雪に覆われることになります。それでも発射するとは考えにくいものがあります。韓国では、韓国のロケット打ち上げに対抗する狙いがあるとの見方があるようですが、ロケットの打ち上げ実験はそういう政治的な目的だけで企画されるのではありません。

 また、打ち上げるとするなら、多分、テポドン3号と呼ぶべき、2号よりも大きなロケットになるはずです。最近確認されたように、発射台のタワーとクレーンを増築した狙いは、より大きなロケットを打ち上げることしか考えられません。現在のロケットでも弾道軌道に乗らないので、さらに大きなロケットを打ち上げたいのかも知れませんが、こういうやけくそ気味の計画がうまく行くとは思えません。



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