映像から考えるシリア内戦

2012.10.22


 最近、シリア内乱について注目すべき記事がないため、military.comに掲載されているビデオ映像から、シリア内乱の様子を考えてみようと思い立ちました。

 こうしたビデオ映像はYoutubeなどの動画投稿サイトにも多数投稿されていますが、military.comだけの一点観測とします。映像の中には死体など、気分を害する恐れがあるものが含まれています。それらを見たくない方は再生しないでください。手持ちカメラで動きが激しく、ズームも使いすぎで、見にくい映像が多く、それで気分が悪くなる可能性もあります。また、兵士が使ってる武器が何かなど、軍事マニア向けの情報は期待しないでください。


 この映像は市街戦の模様を撮影したものです。興味深いのは、どちらの側もあまり高度な戦闘訓練を受けていないように見えることです。自由シリア軍の兵士はほとんど狙っているようには見えませんし、「アッラー・アクバル!(神は偉大なり)」と叫びながら発砲を繰り返すだけです。グループであることの優位性を利用する戦術を用いているようにも見えません。政府軍側も開墾地を前進して撃たれているようです。被弾した自由シリア軍の兵士は重傷に見えないのに、地面に倒れます。彼は肩から出血していますが、弾が肩をかすめただけのようです。ビックリしたので、ひっくり返ったのでしょう。技術不足を気合いで補いながら戦っているという感じです。この映像は、相手がたとえ技術が未熟でも、士気を失わない限りは手強いということを教えています。自由シリア軍の兵士は明らかに技術不足ですが、退こうとしません。米軍がいくら高度な訓練を兵士に施しても、こういう兵士が相手だと、損害を免れないということです。ハイパワーの兵器が当たり前にある戦場では、敵を蹴散らすという光景はほとんどなくなるのです。


 政府軍の車を自由シリア軍の兵士が待ち伏せするのですが、うまく行かなくて逃げ出す映像です。目標の車を別の車を使って完全に足止めすることに失敗した点も問題ですが、近寄りながら発砲しているので、致命的な弾を撃ち込めず、さらに危険を感じると、奇襲側の優位な立場を忘れて逃げています。近くには別の敵はおらず、そのまま発砲を続ければ、敵を火力で圧倒できたはずです。これでは何のために待ち伏せしたのかが分かりません。最初からこういう計画だったのでしょうか。


 若い自由シリア軍の兵士が狙撃兵に撃たれ、重傷か死亡した模様を記録した映像です。やはり、兵士が遮蔽物に隠れる姿は見られず、狙撃されるのは当然のように思えます。隠れるのはシリアの男のプライドに関わる問題なのでしょうか。


 自由シリア軍に参加しているアルカイダのメンバーが政府軍兵士を処刑する映像です。説明では、ラップトップコンピュータに表示したコーランを読み上げ、その後に、射殺したとされています。やっている面々は、コーランを読み上げて処刑するのだから、人道的だと思っているのかも知れませんが、国際法的にはまったく認められない行為です。さらに、兵士が地面に倒れた後も、何度も発砲している点はまったく感心しません。こうしたことは違法行為だということを、中東が理解するのにはさらに一世紀は必要かも知れません。


 自由シリア軍の兵士が、トラックに取り付けた巨大なパチンコで爆弾を飛ばすという珍しい映像です。飛ばすのに失敗すると、近くで爆弾が爆発する危険がありそうです。市街戦では身近にある道具を使って武器が作られるものですが、この不確実な「迫撃砲」が効果を上げているのかが知りたいところです。


 説明では、学校から自宅に戻る学生をシリア軍の狙撃兵が撃ったことになっています。被害者は学生らしくは見えますが、本当にそうなのかは、映像だけでは分かりません。真実なら、シリア軍が民間人も殺している証拠の一つとなります。この映像でも、シリア人に銃弾を避けようとする意識が希薄なことが分かります。


 シリア軍兵士が戦闘中に撃たれる場面です。撮影場所は不明です。この映像でも、シリア人は物陰に隠れて発砲する意識を持たないことが分かります。この兵士は家を遮蔽物に利用しているように見えますが、体の大半は隠れていません。姿勢を低くしようとすらしません。撮影している場所に銃を持った人がいたら、彼は簡単に狙撃されていたことでしょう。なお、不思議なのは、他の兵士が近くにいず、相互支援する様子がまったく見られないことです。まさかと思いますが、兵士にノルマを与えて、何人殺してこいといった指示が出ているのでしょうか。これでは掃討の効果は上がらないでしょう。


 政府側のバンをIEDで攻撃する映像です。無線機を使って連絡を取り合い、組織的に待ち伏せ攻撃をしていることが分かる点で貴重です。他にも戦車を待ち伏せする映像はたくさん投稿されています。


 自由シリア軍が東ゴウタ(East Ghouta)にあるSAMミサイル基地を占領した映像です。10月1日に投稿されており、最近、政府軍の基地が徐々に失われていることが分かります。


 自由シリア軍がアレッポ国際空港を攻撃している映像だとされますが、空港と特定できるものが映っていないため、確認はできません。アレッポ国際空港が自由シリア軍の手に落ちたかどうかは、当初から、私の関心の的だったのですが、未だにはっきりとしていません。そもそも、自由シリア軍がアレッポで総攻撃をはじめたのは、しばらく前になるのに、完全占領したという話は聞いていません。この映像は10月初旬に投稿されています。


 今年10月15日にアラスタン(Arrastan)で撮影された映像です。ジェット機による大規模な爆撃の様子が分かります。明らかに市街地に爆弾を投下しており、これもシリア軍が民間人も無差別に殺害している明白な証拠です。


 撃墜されて、墜落中の政府軍ヘリコプターが空中爆発する映像です。他にもヘリコプターが空中爆発する映像がありました。シリア軍が使っているヘリコプターは攻撃されると、すぐに燃料漏れを起こし、爆発しやすいことを示す映像と言えます。多分、ロシア製なのでしょうが、機種を特定できると、よい参考情報となります。そのヘリコプターは墜落をはじめたら、追加弾を撃つ必要はないということになります。こうした映像が繰り返し世に出ると、ロシアの航空業界は軍用ヘリの再設計を迫られることになります。湾岸戦争の後、イラクに多数の兵器を売っていた中国が、あまりにも多くの自国兵器が米軍によって破壊されたことに反応し、武器の近代化を急いだことが思い出されます。


 ミグ戦闘機が撃墜され、地上に落ちて爆発する映像です。こうした映像が割とよく投稿されていることから、自由シリア軍が対空兵器をかなり持っていることが分かります。つまり、中東諸国からの支援と、トルコの協力が功を奏しているということです。シリア軍は航空機を補充できない状況なので、徐々に航空戦力が低下していくだけです。



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