カタールのタリバン事務所設置に米が合意

2012.1.5


 military.comによれば、アメリカはタリバンが和平会談事務所をカタールに開設させるため、グアンタナモベイ収容所のタリバン捕虜を釈放することに同意しました。

 捕虜には元タリバン内務大臣のケイルーラ・ケイクワ(Khairullah Khairkhwa)、上級軍指揮官のノルーラ・ノーリ(Noorullah Noori)を含むとガーディアン紙は言いました。アメリカは2002年1月11日以来、グアンタナモベイ収容所に拘束している、危険度の高い拘留者、国防副大臣のムハメッド・ファジル(Mohammed Fazl)を釈放するかも知れませんが、おそらくカタールに引き渡すかも知れません。ファジルは1998〜2001年に数千人のアフガニスタンの少数派、シーア派を殺害したとされます。他には、情報担当者のアブドル・ハク・ワジク(Abdul Haq Wasiq)と財務官のモハメッド・ナビ(Mohammed Nabi)の釈放が検討されています。ホワイトハウス広報官は、審議が進行中であることを理由に明言を避けました。タリバンが2009年6月に捕虜にした米陸軍のバウ・バグダール上等兵(Pfc. Bowe Bergdahl・25歳)を釈放するかは明らかではありません。

 「このステップを踏むためには、オバマ政権はタリバンが等価のもので報いるという十分な確信が必要です」と元オバマ政権のアフガン和平交渉顧問のヴァリ・ナスル(Vali Nasr)は言いました。「それは本当に危険なものになろうとしています」「グアンタナモは政治的に非常に敏感な問題です」。元欧州連合のアフガン特使、マイケル・センプル(Michael Semple)は、囚人の釈放は選挙の年であっても、オバマ大統領に政治的に妥当だと考えると言いました。「アフガンでの金がかかる戦争が終わるという見通しは、オバマ政権がそれと共に前進するために十分に魅力的です」とセンプルは言いました。「もし、5人全員が戦いに再び参加するために、まっすぐクェッタ(パキスタンのタリバン拠点)に戻ったとしても、大きな違いは生じないでしょう」。

 military.comによれば、カルザイ大統領はカタールにタリバンの事務所を設置することに同意しました。


 こんな結末でも誰も文句を言う気にならないところに、この戦争の問題があります。太平洋戦争後に日本人が「敗戦」という言葉を使わず「終戦」を言い換え、大きな台風が過ぎ去ったかのように感じたことに似ています。元々の目的はテロリズムの根絶であり、それはテロ組織の殲滅によってのみ解決されるというのがブッシュ政権の対テロ政策でした。しかし、巨大ハリケーンや経済危機は,そんな金のかかる戦争を続けることを不可能にしたため、オバマ政権が戦略を転換しました。そこで強化されたのが、タリバンとの和平です。

 もともと、タリバンはアメリカに対する脅威ではありませんでした。アルカイダを匿ったので一まとめにテロ組織とされたのです。タリバンにとって、アメリカとの対決は政治目的ではなく、アフガンやパキスタンで自分たちの政治目的を達成することに主眼を置いています。

 こうして見ても、アフガン戦の戦略は滅茶苦茶でした。そして、この和平交渉もうまく行くかどうかは分かりません。パキスタンとの関係も複雑で、未来を見通すことはできそうにありません。到底、正常な戦争の終わりではないのですが、そう見えるように舞台を作るのがオバマ政権の仕事なのです。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.