バニ・ワリドの暫定政権軍が退却

2011.9.17


 BBCによれば、リビアの暫定政権軍はカダフィ軍の激しい抵抗に遭い、バニ・ワリド(Bani Walid)から撤退を余儀なくされました。

 戦闘員はバニ・ワリドに入った後で重砲撃と銃撃を受けました。シルトでは暫定政権軍が攻撃を開始しました。

 戦闘員はバニ・ワリドの郊外で再編成しようとしています。町に入った直後、彼らはカダフィ軍を街の中心部から追い出そうとして、狙撃兵、迫撃砲とロケットの攻撃に直面しました。街の北側の郊外は放棄され、家は弾痕だらけでした。バニ・ワリドの外にある検問所の兵士が、サイフ・アル・イスラム(Saif al-Islam)の運転手を拘束したとBBCのピーター・バイルズ記者(Peter Biles)に話しました。記者は煙が街から立ち上り、爆発音が聞こえ、負傷者を積んだ沢山の救急車がバニ・ワリドから来ました。

 一方、金曜日に機関銃を搭載したトラックと戦車4両がシルトに至る道路で見られました。暫定政権軍はシルト空港をカダフィ軍から奪取したと言いました。木曜日の夕方に戦闘員は街の中心部から約8kmにある南部と西部の防衛戦を突破したものの、激しい抵抗に遭いました。ミスラタから進撃した暫定政権軍は少なくとも4人が死亡、7人が負傷しましたが、ミスラタ軍事評議会は11人が死亡、34人が負傷としています。


 戦況に関する部分だけを紹介しました。

 シルト戦の方が進展があるように見えますが、シルト戦はまさにこれからです。南部の防衛線を突破したというのは、シルト空港を奪取したことを指していて、今後、北に向かって進撃して、シルト市街地へ達するわけです。シルト空港は巨大な空軍基地ですが、NATO軍が飛行禁止を強いているので、空軍力はすでにゼロです。しかし、ここは拠点として活用できます。シルト市街地の南には小高い高地があり、カダフィ軍はここを防衛拠点として活用しようとします。幹線道路沿いに北へ攻め上がった暫定政権軍は、ここで抵抗を受けます。そこで、西方から攻める部隊が力を発揮します。彼らは市街地へ攻め入ることで、高地に陣取るカダフィ軍の背後に進出し、挟撃すると見せるのです。NATO軍は高地の陣地へ空爆を行って、抵抗力を殺ぎます。こうした戦いが、これから始まるのです。

 バニ・ワリドの撤退は、敵の術策にはまったためだと思われます。住民に裏切られたという話が先に出ていますから、そこにヒントがあるように思われます。元河川の北側の住民はカダフィ軍を支持していましたが、暫定政権軍に味方すると嘘をつき、彼らを迎え入れました。住民は南半分に逃げ、道路は迫撃砲とロケット砲の照準下に置かれていました。こうして前進してきた暫定政権軍は攻撃にさらされ、当初の作戦は頓挫したのです。そこで、一端退却して、再編成し、偵察を行って作戦を練り直しているのです。

 兵数の差がどの程度なのかが気になります。暫定政権軍の兵数は数千人としか報じられておらず、実際の数は不明です。カダフィ軍は1,200人との見積もりが出ていますから、暫定政権軍が3,000人いても2倍程度にしかならず、防衛拠点を攻める兵数としては足りません。街を攻めるのなら兵力は5倍を維持したいところです。しかし、6,000人の兵士を集めるのは困難でしょう。そこで、少ない人数で街を陥落させる方法を考えることになります。

 そのためには偵察活動が重要です。暫定政権軍だけでなく、NATO軍は迫撃砲とロケット砲が届く範囲を空から偵察しているはずです。首尾よく砲兵隊が見つかれば、攻撃機がミサイルを撃ち込みます。こうして支援火力を減らせば、暫定政権軍はぐっと楽になります。

 撤退したのは、当初の作戦通りに攻めても陥落できないという判断が出たためで、これは相手の様子が分かってきたためでもあります。北半分は捨てましたが、南半分までは捨てられません。そこには守備隊が広範囲に展開しているはずです。北半分に少数の狙撃兵しかいないとすれば、いずれは奪取できるでしょう。NATO軍が暫定政権軍に赤外線スコープなどの夜間戦闘能力を与えれば、夜間に狙撃兵を殺害できます。空港に強行着陸を試みるように見せかけるため、視界を遮る発煙弾を撃ち込んだりして、揺さぶりをかけながら、南半分へ進撃するといったアイデアがありそうです。暫定政権軍が持つ武器の種類が完全に分からない点が困りものです。



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