国内メディアのリビア報道

2011.9.1


 昨日、日本のメディアが報じた2つの記事が気になりました。

 時事通信が8月31日に配信した「カダフィ大佐殺害も=国民評議会、決着へ焦りか-リビア」の記事は、AFP通信の記事として、反政府派幹部のダラド氏が「犯罪者が降伏しなければ、殺害するのは法の執行人としての権利だ」と述べたことを伝え、これを「生死を問わず大佐の問題に決着をつけることはカダフィ独裁体制の終幕を内外に示す『最重要課題』で、評議会内に焦りが生まれている恐れもある。」と論評しています。

 しかし、カダフィ大佐を殺害するという選択肢は最初から存在していたと考えるべきです。5月にカダフィ大佐の住居兼軍事基地であるバブ・アル・アジジヤをNATO軍が空爆し、大佐の息子のサイフ・アル・アラブ(Saif al-Arab)と孫3人が死亡しています。NATO軍は大佐個人を狙っていないと主張しますが、これは中国とロシアが「国連決議違反」と国連安保理で批判するのを避けるためと見るべきで、大佐を狙った攻撃と考えて差し支えありません。爆撃の現場を見たBBCの記者は「カダフィ大佐がそこにいたのなら、無傷で歩けたと想像するのは難しい」と述べ、ロシア外務省は、カダフィ大佐と彼の家族を目標にしなかったことに重大な疑いを表明しました。NATO軍と反政府派は、必要ならばカダフィ大佐を殺害することで合意していたと考えるべきです。いまさら、彼が見つからないから目標を「殺害」に切り替えたという見解は的外れであり、細かすぎる神経が生んだ代物と言うべきです。

 週刊新潮は8月31日付けの記事で「『カダフィ』御殿攻略のカゲに英国『特殊部隊』」という記事を配信しました。

 記事は特派員の話として、「特殊部隊にはMI6の諜報部員も含まれ、最新のレーダーがついた偵察機、携帯電話を盗聴できる機械を駆使して、反政府軍を援護してきた。今はアラブの衣装をまとい、反政府勢力と同じ銃のAK47を持ち、カダフィ追跡に乗り出しています」「キャメロン首相により送り込まれたと英紙は報じているが、軍は公式には認めていない。」と書いています。

 特殊部隊にMI6の諜報員が含まれるのはあり得ないこととは言えませんが、本当なのかという漠然とした疑問を感じます。「最新のレーダーがついた偵察機」もピンと来ません。プレデターなら特殊部隊ではなく、イギリス空軍が保有していますが、最近はレーダー(合成開口レーダー)は搭載していないと聞いています。特殊部隊が装備する「携帯電話を盗聴できる機械」というのも聞いたことがありません。この記事が言う英紙はデイリー・テレグラフ紙のことでしょうが、この新聞は8月下旬に「初めて、国防筋はSASが数週間リビアにおり、トリポリ陥落を手配する主要な役割を果たしたことを認めました」と報じており、「軍は公式には認めていない」というのは読み落としかと思われます。引用はしませんが、新潮の記事は他の部分も妥当とは言えない部分があるよう思われます。こんな興味本位で、軍事マニア向けの記事を書く必要がどこにあるのか、私には分かりません。これだけ情勢が変化しても、消極的対応しかしていない外務省や内閣を批判するなど、書くべきことはいくらでもあるはずです。日本は国連決議を支持し、リビア政府の暴力を批判し、7月15日には暫定政権を承認しましたが、型通りにやっているだけのように思われます。

 何より、この記事は特派員を派遣しなくても書ける内容しかない点が問題です。



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