シールズ隊員ら38人が夜襲で死亡

2011.8.8


 アフガニスタンで起きた、38人が死亡した特殊部隊のヘリコプター墜落について、military.comが詳細を報じています。

 記事は2つありますが、主に2つ目の記事から要点を紹介します(記事

 ある米当局者によれば、30人の軍人、アフガン人の民間人通訳1人、アフガン軍の特殊部隊員7人が墜落したCH-47に乗っていました。現役、退役の当局者は、アメリカ人には海軍シールズ隊員22人、空軍戦闘管制官3人、軍用犬のハンドラー1人と犬1匹が含まれたと言いました。死亡したアフガン兵は7人でした。

  AP通信は一部のシールズ隊員が、3月2日にオサマ・ビン・ラディンを殺したのと同じ部隊「チーム6」のメンバーだと報じましたが、独自に確認されていません。
 
 アフガンの米当局者は詳細を提供しませんでしたが、ワシントンの国防総省高官はヘリコプターが撃墜されたことを確認しました。

 ヘリコプターが墜落した地域の村人はマクラッチー紙に、ロケット砲の音を聞いたと言いました。彼はあとでヘリコプターが自宅から半マイルにある果樹園で燃えているのを見ました。「煙がヘリコプターからあがっていました」とマンスール・マジャブ(Mansour Majab)は言いました。マジャブは米軍が主導する夜襲が頻繁に起こっていると言いました。「毎晩、ヘリコプターが私の家の上空を通過します」と、彼は電話で言いました。彼は木曜日に米軍が別の村で夜襲を実施し、タリバン兵3人を殺したと言いました。

 彼はタリバン軍は墜落したヘリコプターロケットを発射したと言いました。「私は家の中にいて、我が家の中にいた客と食事をしていました。私はロケット砲を撃つ音を聞きました」「その後、私たちはヘリコプターが1km先のリンゴと杏の果樹園に落ちるのを見ました。我が家とヘリコプターが落ちた果樹園の間には川があります。煙がヘリコプターから朝まであがっていました」。

 マジャブは「ほとんどの人々は夜襲のために夜に目をまします」、そして地域はタリバンに支配されていると言いました。「各家の少なくとも1人はタリバンにつながっています」と彼は言いました。

 タリバンは声明の中で攻撃を称賛しました。「昨夜、午後11時。タンギ・セイババッド地区(Tangi Saybabad district)のジョイ・ザリン(the Joye Zarin area)で、侵略軍は夜襲を実施し、イスラム首長国戦士の激しい抵抗に遭いました」とタリバン広報官、ザビウラ・ムジャヒッド(Zabiullah Mujahid)はグループのウェブサイトに掲載しました。

 州知事の広報官、シャヒドラ・シャヒッド(Shahidullah Shahid)は大筋でタリバンの声明を認め、墜落は8人の武装勢力を殺したISAF軍の作戦の後で起こったと言いました。「作戦の後、ISAFのヘリコプターは墜落し、犠牲者が出ました」「この地域は米主導のNATO軍で囲まれました」。

 現場はカブールの西25マイルにある不安定な州、マイダン・ワルダク(Maidan Wardak)にあります。それはもう1つの不安定な州、ローガル州(Logar)と州境を共有します。

 アフガン国防省はアフガン軍特殊部隊7人が墜落で死亡したと認めました。しかし、アフガン軍広報官、ザヒル・アズミ大将(Gen. Zahir Azimy)は、墜落がローガル州で起きたとしました。

 ワシントン・ポスト紙の記事を見てみます。

 匿名希望の米当局者によれば、夜襲の目的はカブール南部の幹線道路に沿った外国輸送隊への連続攻撃の容疑者でした。一部の記事は、大きな被害を被ったシールズの「チーム6」は、別の部隊の援護を要請された後の合同作戦で、武装勢力のRPG(携行型ロケット推進弾)で撃ち落とされました。

 土曜日の任務は、通常はNATO軍とアフガン軍で合同作戦を行う夜襲でした。アフガン軍は自身の特殊部隊を育成中で、急襲は初期の軍の能力を高める鍵とみられています。「土曜日の作戦は我々が連帯する通常の任務でした」とアズミ大将はいいました。彼はアフガン軍と米軍は先月だけで10回の類似した任務を共同で行ったと言チームいました。

 別のワシントン・ポスト紙の記事によると、米軍は1ヶ月の情報収集活動に引き続き、土曜日の午前2時頃にタンギ峡谷(the Tangi Valley)に飛来しました。ヘリコプターは武装勢力がRPGを発射した場所に近いところにいて、墜落し、乗員を殺しました。墜落の直後、2番目のヘリコプターが近くに安全に着陸し、武装勢力と銃撃戦になり、8人を殺害しました。それから、アメリカ人とアフガン人の遺体とヘリコプターの残骸を回収しようとしました。数時間後、彼らは現場を去りました。


 衝撃的な事件ということで、アメリカでは大きく取り上げられています。しかし、この事故自体はアフガン戦に大きな影響は及ぼしません。日本の軍事マニア向け雑誌は大きく取り上げることでしょうが、こういう事件はいつでも起こり得るものです。

 ビン・ラディンの襲撃にも軍用犬1匹が同行しましたが、今回の夜襲にも犬がいます。米特殊部隊が軍用犬を使うことはよく知られています。シールズ小隊は14〜16人で編成されます。

 アフガン軍との合同作戦は、スタンリー・マクリスタル大将が、現地に不慣れな米兵が間違いをしないように、夜襲にアフガン軍を同行させる命令を出しています(過去の記事はこちら)。その後、それが合同作戦へ進歩しているようです。

 残念ながら、これらの記事でも作戦の全容は分かりません。撃墜された部隊は、作戦中に何か問題が起きて、別の部隊から支援を要請され、現場に降りたところを、伏兵に攻撃されたということが分かるだけです。恐らく、2番目のヘリコプターはRPGが飛んできた場所へ、搭載機銃で攻撃しながら着陸し、暗視装置をつけた兵士が展開して、すばやく敵を無力化したのでしょう。支援に駆けつけるために、近くに伏兵が潜む場所があるのを無視して降下したのが原因と言えそうです。

 毎日新聞は「6日のアフガニスタン駐留米軍のヘリコプター撃墜を受け、オバマ米大統領は厳しい立場に置かれそうだ。大統領は年内1万人の駐留米軍撤収を公約としているが、旧支配勢力タリバンが勢いづき治安が悪化した場合、米軍内部で撤収強行に反対する声が高まるのは必至だ。一方で、米国社会には早期撤退論が広がっており、双方から大統領のアフガン政策批判が強まりそうだ。」と書いています。この事件で撤退スケジュールが変わることはありません。

 この事件は現場付近にいたタリバン兵がヘリコプターを攻撃し、命中させたことで起きました。兵力不足ではなく、米軍の作戦のやり方に問題があったと考えられます。先の原因の他に、月明かりでヘリコプターがはっきりと見える環境で作戦を実施したなど、何か問題があったはずです。米軍内部で早期撤退に反対する声は出るはずがありません。マイク・マレン統合参謀本部議長が、この事件で考えを変えるわけがありません。米軍内での議論はすでに終わっていますし、ホワイトハウスも撤退に関する議論は大統領以下のスタッフが消耗するほどやったと言われています。民主主義下の軍隊は、政治決断がなされた後は、それに従うものです。

 毎日新聞の解説は、単に定形文句で記事を飾っただけで、これまでの経緯を無視するものです。事件の説明は少なすぎ、解説も大きく間違っているのでは、記事として役に立ちません。日本国民がこうした記事しか利用できないのは問題です。国内マスコミに改善の意志がないので、一向に問題は解決しません。

 むしろ、米軍にとっては、養成に時間がかかる特殊部隊隊員を一度に大勢なくしたことは問題です。問題になるのは彼らの補充でしょう。

 私は空軍戦闘管制官(前線航空管制官とも言います)が3人もいた点も気になっています。彼らは地上部隊と共に行動し、戦闘地域への空爆を誘導します。しかし、航空支援を得るとしても、3人も管制官が必要でしょうか?。それも、テロ容疑者の逮捕・殺害の任務にです。何か理由があったのだと考えます。



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