カダフィの精鋭部隊はなぜ消えた?

2011.8.26


 リビア内乱に関して、BBCに興味深い論説が掲載されましたので、一部を紹介します。 昨日私が指摘したように、反政府派がリビアの首都、トリポリからカダフィ軍を簡単に追い出せたのはなぜなのか?。これについて、イギリスの王立統合防衛・安全保障研究所(Royal United Services Institute)の準研究員、シャシャンク・ジョシ氏(Shashank Joshi)が、現段階では推測に過ぎないとしながらも、三つの可能性を指摘しています。


分析 カダフィの精鋭部隊はなぜ消えた?

 第一に、敗走よりも撤退の要素がありました。トリポリは不規則に制圧され、緑の広場のお祭り騒ぎは、いくつかの郊外で継続する戦いを覆い隠しました。街の西部は次第に確保されていますが、揺るぎない狙撃手の発砲は、崩壊しかけている政権のために、支持者たちが命を危険にさらして未だに残存していることを示します。

 第二に、兵士が武器を置いた場合、厳しく中傷された国家暫定評議会(NTC)は一定の名声を受けるに値します。カダフィ大佐の警護隊は、ベンガジの指導部の影響下に入るより前に降伏しました。過去3ヶ月にわたり、NTCはトリポリの地下組織を武装させるためにNATO軍と活動したと伝えられます。輪縄がトリポリ周辺で締められた時、これらやその他の反政府派は街の治安部隊と対決する力を与えられたと感じました。それ故、週末の継ぎ接ぎの街の反乱は、それらのいくつかはモスクから送られたメッセージで合図が出されたかも知れません。目を見張るトリポリへの水陸両用の攻撃は、ここ数日における、トリポリ内外の両方で反政府派の作戦の下張りをした、計画の広さを提示しました。

 第三に、NATO軍のザウィヤ東部の装甲部隊と砲兵隊への執拗な攻撃は、そうしなければ反政府軍の進路を遅める抵抗のほとんどを破壊して、政府部隊を大きく軟化させました。戦争が首都の周辺を中心に展開し始めると、NATO軍は(無人機プレデターを含めて)その監視資源と戦力を、地上の反政府軍によって直接送信される情報を活用して、より小さな地域に集中できました。土曜日にNATO軍の全標的の4分の3は首都の中にありました。(空爆を誘導する)前進航空管制における西欧の特殊部隊の役割と反政府軍の訓練は未だに把握されていませんが、広範囲だったようです。これはNTCの本質的な特徴を損ないませんが、反政府軍の空軍として働くというNATO軍の決定の明白な影響を強調します。


 記事の前後は省略しています。

 私が指摘したのはジョシ氏の第二の仮説に近いと言えます。第一案はカダフィ軍が戦術的撤退を選択し、第三案はNATO軍の攻撃が効果的に機能したシナリオです。いずれもあり得る選択肢です。

 それらの中で、なぜ私が第二案に近い見解を支持するかを説明します。

 昨日も書きましたが、第一案は戦術的撤退は効果的とは言えないという判断です。シルトに撤退しても、反政府派が追いかけてきて包囲されるだけです。軍用空港とシルト市街は距離があり、別個に防衛する必要があります。どちらを優先すべきかと言えば、当然、シルト市街です。空港には防御に使えるものがほとんどありません。現在、トリポリ国際空港で反政府派が有利に戦闘が行われていますが、これと同じことが起こります。政府軍は市の中心部に武器庫から集められるだけの武器を集めて立て篭もるしかありません。反政府派は上手に政府軍を包囲して、徐々に支配地域を増やし、最終的にシルトの中心部に達するでしょう。これは悪あがきに過ぎません。おまけに身動きが取れない住民を巻き込んで、悲惨な市街戦が行われることになります。

 第三案は、空爆は地上戦に決定的な影響を及ぼすことは少なく、重要な支援火力となる場合が多いという問題があります。また、市街地への空爆は民間人の犠牲を伴うため、最小限に抑えられています。特殊部隊が地上戦に投入されたかどうかは不明です。これまで、民間軍事会社らしい男たちが反政府軍に参加していることは確認されています。NATO軍は正規兵は投入したくないので、元特殊部隊の民間軍事会社の社員を派遣した可能性はあります。また、彼らが実は私服の特殊部隊員という可能性もあります。市街地で精密爆撃をするとなれば、レーザー照準器で戦闘機に攻撃目標の位置を教えるくらいのことが必要です。こういう仕事を特殊部隊や民間軍事会社がやった可能性はあります。歩兵で交戦しつつ、迫撃砲で敵を殲滅するのなら、反政府軍にもできるでしょう。NATO軍が、それをよりうまくやる方法を反政府軍に教えたことはあるかも知れません。しかし、装甲車や戦車を攻撃するだけでは、こんなに早く市街戦が決着するとは考えにくいものがあります。

 以上のような理由で、私は第二案が最も現実的だと思うのです。もっとも、軍人は常に正しい判断をするわけではありません。間違った判断による戦闘が行われることもあります。あるいは、異常な幸運に見舞われて、普通なら成功しない攻撃や防御が成功するということもあります。今後出てくる戦闘レポートに注意を払う必要があります。



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