リビア軍の大量破壊兵器の管理は?

2011.8.25
追加 2011.8.26 14:25


 ようやく国内メディアも取材班をリビアに派遣し、報道されることが増えてきましたが、まだ分量が足りない感じです。海外メディアの記事から、気になる部分を紹介します。

 military.comによると、リビア国営テレビが反政府派に占拠されたため、カダフィ大佐は、アル・オーロバ・テレビ(the Al-Ouroba TV)を使い、声明を発表しました。

 このテレビ局は、シリアに拠点を持つ衛星テレビ局で、イラク人の反体制派、ミシァーン・ジブリ(Mishaan Jibouri)が所有し、シリアのアサド大統領とカダフィ大佐を支持してきました。声明でカダフィ大佐は「なぜ奴らに大惨事を起こさせるのですか?」と言いました。抑制し、激しい言葉使いは使わず、カダフィ大佐は、勝利か死を得るまで、あらゆる力で侵略と戦うと言いました。このチャンネルは以前に、64回のNATO軍の空爆がバブ・アル・アジジヤ(Bab al-Aziziya)を瓦礫にした後で、リビア指導者が戦術的な行動でここを去ったと言ったのを示しました。

 政府広報官、ムーサ・イブラヒム(Moussa Ibrahim)は電話インタビューで「我々はトリポリを取り戻すために帰るでしょう」と言いました。

 NATO軍は、夜通しカダフィ軍への空爆を続けたと言いました。「私たちはカダフィ軍の残党が重装備を動かすのを見て行動を起こしました」「それは私たちがいつもリビア上空に存在し、必要な限り長くこれを維持することを示します」と匿名の当局者は言いました。

 サイフ・アル・イスラム(Seif al-Islam)が自由の身で現れたことについて、反体制派は数時間の後、彼を逮捕したという報道は、一部の反政府軍からの伝聞の報告で、未確認でジャーナリストにリークされたと言いました。しかし、彼が逮捕されたと発表したことは、政権を混乱させるのを狙った計略かも知れないことを示しました。国家暫定評議会の副議長、マフムード・ジブリール氏(Mahmoud Jibril)は、報道には一定の政治的、軍事的な便益があったと言いました。「ニュースを聞いた時、約30人の将兵が降伏し、それは私たちがバブ・アル・アジジヤを素早く獲得するのを助けました」「彼が逮捕されたニュースを受け取った後、11ヶ国が(反体制派の)国家暫定評議会を認証しました」。

 military.comがカダフィ政権が首都を放棄した軍事的証拠を報じています。

 カダフィ大佐も彼の軍も、トリポリで市街戦を行う兆候を示していませんでした。NATO軍は、彼らが塹壕を掘り、掩蔽壕やその他の拠点を建設するのを含め、断固とした防衛の準備を見ていません。

 最後はリビア軍の大量破壊兵器に関するmilitary.comの記事です。

 カダフィ打倒とその後に、当局者がテロリストの手に渡る恐れを感じるリビア政府の武器貯蔵(化学物質、核物質、約30,000発の携帯式ロケット砲)を誰が管理しているかを誰も知りません。

 間近の懸念として、米情報・軍当局者は、カダフィ大佐が最後の戦いに兵器を使うかも知れないと言います。しかし、当局者はアメリカが後援した軍縮条約でカダフィの手に残った資材を、反体制派が勝利した後でも、アルカイダやその他の武装組織が手に入れるという予測にも直面しています。

 マスタードガスとその他の化学物質の主要貯蔵所は、徐々に腐食するドラム缶に入れられ、トリポリの南東の基地にあります。マスタードガスはひどい水膨れと死をもたらします。数百トンの未加工のウラン鉱粗製物はトリポリ東部の小さな核施設に貯蔵されています。

 国務省が雇った武器解体チームは、反体制派が支配する地域に配置され、一部の対空ロケットシステムを破壊しました。

 米および同盟国は、反政府軍が首都に前進しても、化学・核貯蔵物はまだカダフィ政権の管理下にあると言います。これが安心できるかどうかは、次第に自暴自棄になったカダフィ支持者が物質を使わないことに合意した国際協定を守るかどうかにかかっています。

 国務省は、これらの同じ同盟を維持して、兵器が密輸出されるのを防ぐために国境警備を強化するために反政府派とリビアの隣国に専門家を派遣しています。

 半年の空爆の後で、30,000発と見積もられる対空ロケットと他の武器がどれだけ残っているかは「だれも分かっていないようです」とリビア内乱に詳しい米当局者は言いました。

 化学兵器について、イギリス大使館広報官、ヘティー・クリスト(Hetty Crist)は、当局は約11トンのマスタードガスを懸念していると言いました。クリス広報官は、リビアの備蓄物は現時点で「地下に安全で、隔絶した位置」にあり、兵器化されていないので、容易に戦争に使えないと言いました。

 リビアは2003年に大量破壊兵器計画を停止し、核計画のハードウェアを引き渡し、2009年に武器に使える11.5ポンドのウラニウムをアメリカに除去させました。しかし、まだ500〜900トンのウラン鉱粗製物がトリポリ東部の原子炉施設にドラム缶で保管されています。爆発物として使う前に純化し、濃縮する必要があるので、懸念は大きくありません。

 2003年以降、トリポリは化学兵器研究・製造所を閉鎖し、中身が充填されていない化学砲弾3,500発を破壊しました。

 しかし、計画されたマスタードガス23トンの破壊は昨年まで始まらず、破壊に使われるシステムが壊れた時、半分しか終わっていませんでした、と環境団体「Global Green」のポール・ウォーカー(Paul Walker)は言いました。

 マスタード剤の残りは、トリポリの南方数百マイルの場所で、ドーム状のコンクリート壕の中に貯蔵されていると、匿名の米当局者は言いました。

 最も緊急の問題は、マスタードガスが闇市場やテロリストの手に渡ることだと当局者は言いました。2006年に米当局者が訪問した時、腐食する兆候を示した容器に保存され、化学物質は簡単に移動できました。

 ウォーカーは、化学物質を流用しようとした証拠はないと言いました。「トラックの駐車や兵の移動のような大きな動きは、すぐに分かり、NATO軍の空爆のような行動が直ちに取られます」。

 リビアがサリン、ソマン、その他の散布できる神経ガスを持っているという証拠はありません。生物兵器計画は成功していないと、非営利団体「the Nuclear Threat Initiative」は言いました。


 時間がないので、記事はごく一部しか紹介しません。関心がある方は原文を読んでください。

 カダフィ大佐がまだメッセージを出していることは重要です。サイフ・アル・イスラムが逮捕されたら投降者が出たように、影響力を持つことです。

 サイフ・アル・イスラムの逮捕は単純な確認ミスとのことですが、反政府派も事実と思い込んでいたようです。これを打ち消すには本人が登場するのが一番であるため、バブ・アル・アジジヤから出てきたのでしょう。その後は、支持者に守られながら、そこへ戻って地下トンネルで市外へ脱出したのかも知れません。

 「戦術的な行動」で首都を放棄して勝った事例はありますが、リビア内乱に関しては、効果はなさそうです。ナポレオンがモスクワに侵攻した時、ロシアは首都を渡して、フランス軍の補給が尽きるのを待ちました。こういう効果はトリポリでは期待できません。政府軍は補給を十分に得られていないはずです。

 政府軍の市街戦の準備が行われていないことは、「戦術的撤退」のためか、こんなに早く反政府軍が首都に来ると思っていなかったのかの、いずれかでしょう。カダフィの息子たちが首都にいたことは後者を連想させます。

 反政府軍は、意図的に東部戦線で時間を使い、政府軍の関心を東部に集中させ、ナフサ山脈を占領したら、即座に首都に攻めあがる作戦だったのかも知れません。つまり、ブレガを占領しても、シルトのような重要拠点を蹂躙して、ミスラタの友軍と合流してトリポリに向かうよりも、南西部からザウィヤに攻め入った方が楽に首都を攻略できるというコンセプトです。主攻と見えた東部戦線は、実は助攻だったという欺瞞作戦です。ブレガのような小さな街を占領できず、ズリタンから前進できなかったのに、トリポリに海路で素早く援軍を送り込んだのが引っかかります。いかにも、西欧の軍が考えそうな作戦で、NATO軍の指導を連想させます。

 ミスラタが陥落し、ナフサ山脈の街を占領したあたりで、この首都攻略作戦が決まったのかも知れません。NATO軍の輸送機も使って、ナフサ山脈に車両と燃料、人員と武器を集め、タグボードでトリポリへ武器を搬入し、都内の反政府派と共に制圧し、同時にベンガジからの増援を到着させるのです。

 首都攻略の詳細はまだ分かっていません。いずれ詳しいレポートが出ることに期待します。

 大量破壊兵器の件は、条件付きの危険があります。ウラニウムは爆発させるには時間をかけた濃縮が必要です。しかし、単に散布する方法もあり、この場合は危険です。マスタードガスを効果的に散布するには、状況はよくありません。神経ガスは味方の近くでは散布できません。接近する反政府軍に向けて使うには、カダフィ軍には十分な情報収集の手段がなく、適切なタイミングで使えないと思われます。しかし、最悪の大量虐殺のチャンスはあります。

 貯蔵場所は分かっているのですから、早く反政府軍が行って確保し、それまではNATO軍が上空から環視し、移動させる徴候が見えたら攻撃することで危険は減らせます。

 ウラニウムが保管されている原子力研究所はトリポリ東部のテジュラにあります(kmzファイルはこちら)。

 化学兵器の貯蔵所らしいのは2ヶ所あります(kmzファイルはこちら )。以前に反政府派が確保したという巨大な武器庫から南に延びる道路に沿って、飛行場がある施設が2ヶ所あります。近くには何もないのに、2300m級の滑走路があり、近くには軍事施設らしいものがあって、滑走路と直線道路でつながっています。これは、化学兵器の保管基地としての条件を備えており、急いで移動できるように設計された武器貯蔵庫のように思われます。特に「化学兵器貯蔵所?2」には、記事に書かれているようなドーム状の建物が確認できます。



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