不親切すぎる海外事件の国内報道

2011.8.1


 リビアのユネス将軍暗殺と米軍基地でのテロ未遂事件の続報が特にないので、これらの事件の国内報道から、海外の事件の報道について考えます。

 まず、以下のニュースを読んでください。いずれも、Yahoo!ニュースに掲載されたものです。

リビア反体制派司令官殺害、内紛との見方強まる
読売新聞 8月1日(月)1時46分配信
 【カイロ=田尾茂樹】リビアの反体制派軍事部門を率いるアブドルファタハ・ユニス最高司令官が7月28日に射殺体で発見された事件は、反体制派の内紛との見方が強まっている。

 カダフィ政権の元幹部や、政権に弾圧されたイスラム主義者も加わる寄せ集め集団のもろさが浮き彫りとなっている。

 ユニス氏の射殺体は反体制派の拠点ベンガジ郊外で見つかった。反体制派軍事部門の幹部はAP通信に、ユニス氏に同行していた反体制派民兵2人が「裏切り者」と叫びながら発砲した、と証言した。別の反体制派幹部はロイター通信に対し、殺害に関与したのは、カダフィ政権によって投獄され、現在は反体制派に加わるイスラム主義者との見方を示した。

米陸軍基地で「テロ計画」狙う、兵士を爆弾材料所持で逮捕
ロイター 7月29日(金)13時46分配信

 [キリーン(米テキサス州) 28日 ロイター] 米テキサス州キリーンの警察当局は28日、2009年11月に13人が死亡する乱射事件が起きた同州フォートフッド陸軍基地近くで、爆弾を製造するために材料を所持していた疑いなどで米兵を逮捕したと発表した。

 逮捕されたのはケンタッキー州内の基地に所属するナセル・ジェイソン・アブド容疑者(21)で、27日に容疑者が宿泊していたキリーンのモーテルから、爆弾の材料が発見されたという。陸軍によると、同容疑者はイラクやアフガニスタンへの派兵命令を受けたが、良心的兵役拒否者として認められ、今月4日から許可なく任務を離れていたという。

 警察は会見で「軍職員が標的だった」と明らかにし、同容疑者が基地への攻撃を狙った「テロ計画」を企てていたと語った。

 キリーンにある銃販売店の店員はロイターの取材に、アブド容疑者が今週、弾丸などを購入しに来た際、様子が不審だったために警察に通報したと説明。警察はその後、連邦捜査局(FBI)などと共同で調べを進め、同容疑者を拘束したという。


 まず、リビアの事件から見てみます。

 事件が「反体制派の内紛との見方が強まっている」という見解は、事件当初から疑いのない形で現れており、時期が遅すぎるというものです。

 「寄せ集め集団のもろさ」も常套句で、頭で考えた形跡が感じられません。どこの世界に直参ばかりの一枚岩のグループがあるでしょうか。寄せ集めだから駄目という発想に、私はむしろ新聞社自体が純血主義に囚われているようにすら思われます。

 記事には犯行に及んだグループの名称も、父親の敵討ちだったという動機すら書かれていません。ユネスが裏切った証拠があるという主張も書かれていません。BBCの報道と比べても内容が乏しすぎて、事件の全容はつかめません。この事件により、反政府派が分裂するかという最も重要な疑問に関しても、まったく見当をつけられない内容です。

 米軍のテロ未遂事件についても、説明不足が目立ちます。

 「同容疑者はイラクやアフガニスタンへの派兵命令を受けたが、良心的兵役拒否者として認められ、今月4日から許可なく任務を離れていたという。」の部分は、読者が誤解する材料が含まれています。この文は、良心的兵役拒否者となったので、合法的に無許可離隊をしていたかのようにも読めます。多くの読者は、米軍の無許可離隊や脱走に関する知識を持ちませんから、無許可離隊が軍法で犯罪とされていることに気がつかないかも知れません。さらに、事件の引き金となったと思われる児童ポルノ写真の所持については、まったく書かれていません。この件で彼の除隊が遅れ、それがテロ事件の動機となったとすれば、説明を欠くことはできないはずです。彼がイスラム教徒だったために感じた不満も無視されています。まして、彼の爆弾で大規模なテロ攻撃が難しいことは、まったく触れられていません。

 「イラクやアフガニスタンへの派兵命令」の部分は、そもそもが変です。現在の対テロ戦の戦地派遣では、普通2ヶ国に派遣されることはありません。海外の記事では「アフガンへの派遣」だったと書かれています。

 両方の記事も、海外での報道に比べると内容が乏しすぎます。字数が少なすぎることもありますが、その中でできるだけ多くを伝えたいという努力もされていません。なぜこうなるかと言えば、海外の事件の国内報道は、読者の関心が低いために使える字数が限られ、その結果中途半端な記事になるためです。

 その結果、読者が海外の事件に関して間違った認識を持ち、それが政治的な判断に誤りをもたらしていると、私は日々感じます。政治家も官僚も海外の動きに興味を持たず、ごく簡単な考察だけですべて検討したと勘違いし、判断を誤ることに気がつかないのです。

 根本的な原因は、日本国民の世界に対する関心の低さです。それが構造的な報道の問題を起こしています。国民全体の関心をかきたてるのは難しいので、国内メディアが率先して報道改革を行う必要があると、私は考えています。



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