オバマ政権が対テロ・ドクトリンを一新

2011.7.1


 military.comによれば、米政府が対テロリズム・ドクトリンを一新することになりました。標的を定めた無人攻撃機の攻撃、特殊作戦の急襲、イラクとアフガニスタンのように低コストの地上戦を増やすのが、その骨子です。

 このドクトリンはブッシュ政権の世界規模のテロとの戦いからの決別です。ホワイトハウスで対テロを担当するジョン・ブレナン(John Brennan)は、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(the Johns Hopkins School of Advanced International Studies)で言いました(大学院の記事と音声・ビデオデータはこちら《ビデオ映像はMicrosoft Silverlightが必要です》、pdfファイルはこちら)で、アルカイダが米国内で徴募を行い、攻撃を行うことを含め、米国内でのテロの脅威が増加していると認めました。ブレナンは水曜日にワシントンの聴衆に、より多くの資源が過激派と徴募官を見つける国内での戦いのために費やされ、金のかかる海外での侵攻に引っ張り出して経済的に痛めつけようとするアルカイダの企てに抵抗すると言いました。

 「我々の最高の攻撃は、常に大軍を海外に派遣するのではなく、我々を脅かすグループに狙い込んだ、外科手術的な圧力をかけることです」と、ブレナンは言いました。彼は指導者を排除し、彼らに隠れ家を与えず、イラクとアフガンの戦いのように、アルカイダにアメリカがイスラム世界を支配しようとしていると言わせる、金のかかる戦争を避けるために、戦略は特定グループに対する「外科手術的」な攻撃に依存すると言いました。現在、アフガンで権限を委譲しようとしているように、アメリカはアルカイダと戦う宿主となっている国を助ける可能性がある時は活動します。ブレナンが説明した作戦は、ほとんどか主に諜報と軍の特殊作戦部門、特にビン・ラディン急襲を実行したCIAと統合特殊作戦軍のものですが、特殊作戦の教官が宿主国の軍隊と共に活動することも含みます。

 元CIA職員のブレナンは、パキスタンの武装勢力を狙い、イエメンでは滅多に起こらない、秘密の無人攻撃機プログラムに特別な言及はしませんでした。しかし、彼は戦場への「唯一の能力」を急ぐための政権の作業について述べ、イエメンの武装勢力を探すのに無人機を使うために、ペルシャ湾地域でCIAの発進基地を建設するのを増やすような秘密の計画に遠回しに触れました。

 ブッシュ政権のファン・ザラート(Juan Zarate)は、アルカイダをアメリカの主敵に選ぶ見識を「彼らが下降している時に、戦略の焦点にすることで、不注意に立場を高めるもの」として疑いました。彼はまた、このグループを動かす暴力的なイスラム・イデオロギーを軽視し、「非常に強く機械的にアルカイダに集中した」決定にも疑問を示しました。アルカイダのような「世界規模のプラットフォームに発展…進化する運動を見逃すかもしれません」と元ホワイトハウスの国家安全保障副補佐官は言いました。ザラートは、オバマ政権はテロとの戦いから世界を引き下げているかもしれませんが、未だにほとんどすべての大陸でテロ細胞を狙っているらしいとも言いました。

 ブッシュ政権が先制攻撃ドクトリンを着想を与えるのを助けたとされるラス・ハワード大将(Gen. Russ Howard)は、この戦略が同盟国に送るメッセージは、アメリカはイラクやアフガンのようなあまりにも高額になるような戦いには関与したくないということだと言いました。「我々は新しい何かに関与したくないと、我々は(すでにいたところには)留まりたくないと言うだけで、同盟国はアメリカが信頼できる同盟国かを疑います」。

 ブッシュ政権への別の明確な打撃として、ブレナンはテロリストとの戦いでホワイトハウスがあらゆる「合法的なツールと活用できる権限」を用いると言い、水責めのようなブッシュ政権のテロ容疑者の尋問をオバマ大統領が拒否していることを述べました。「アメリカ合衆国は拷問をしません」「そしてそれは彼(オバマ)が機能しない拡張型尋問テクニックを禁止した理由です」。ブレナンは、テロ容疑者を米国や軍の権限で起訴するか、彼らの母国に釈放するかした後で、キューバのグアンタナモベイ収容所を「安全に」閉鎖することを望むという政権の主張を繰り返しました。


 オバマ政権になったことで、ブッシュ政権の誤った対テロ戦略が修正されることになりました。私はこの日が来るのをずっと待っていました。同時多発テロ直後、私はホワイトハウスに電子メールで、蛇の頭を正確に攻撃すべきで、全アラブに戦いを拡大すべきではないという意見を送りました。でも、ブッシュ政権は、まさにその道へ突っ込んでいったのです。ここまでひどい戦略をアメリカが採用するとは、私は予想もしませんでした。この問題については、過去に何度も触れてきましたし、拙著にも書きました。

 また、テロ対策として、CIAの諜報や特殊部隊による急襲が中心となるだろうとも主張しましたが、オバマ政権が発表した新ドクトリンは、まさにそういう内容です。大規模な侵攻作戦など、最初から必要はありませんでした。訳文では省略しましたが、ビン・ラディン急襲直後にこのドクトリンが発表されたと記事に書かれています。しかし、このドクトリンは時間をかけて練られており、ビン・ラディン急襲とは直接の関係はありません。私が2001年9月11日直後にそう確信していたくらいです。こんなことは、米軍関係者の多くが分かっていたはずです。しかし、国家指導者がそう認識しなければ、国民の常識とならず、機能もしないのです。

 私は今でも小泉純一郎首相とブッシュ大統領との蜜月の関係を苦々しく思い出します。いま説明したように、当時こそ、正しい方向へ戦略を転換すべき時でした。今では遅すぎるくらいです。ところが、小泉首相はアメリカとの太いパイプを築いたとして国民に大人気で、マスコミもそれに追随しました。一種の政治的どんちゃん騒ぎが繰り返され、小泉を真似して、過激で無意味な政治的メッセージを発信する政治家が増えました。その影響は今でも続いています。ブッシュ政権の間違った国家指導のおかげで、有効なテロ対策は取られず、アルカイダは拡散し、各地にテロの種を撒きました。ビン・ラディンが死に、アルカイダ自体は弱体化しても、その思想は受け継がれ、別グループがテロ活動を行う危険があります。最終的にはアルカイダに触発されながらも、組織に属しない「孤独なテロリスト」たちによる自発的なテロ攻撃にすら発展する可能性があるのです。皮肉にも、これは「究極的なボランティア活動」と言えます。私は以前から、これをテロリズムを駆逐する最後のチャンスが失われた可能性があると指摘してきました。もし、2001年以降の小泉政権に関するニュースを録画している人がいたら、見直してみるべきです。どれだけ現実から遊離した議論が展開されていたかが分かるはずです。

 記事にコメントを寄せた元ブッシュ政権閣僚の意見は聞くに値しません。彼らが意見を変えることなど期待していません。アメリカ社会はそういうところなのです。



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