福島第1:電源車のコードは十分だった

2011.6.21


 東京電力が公表した福島第1原発の初期対応に関する報告書にざっと目を通しました。今後、色々な視点から読んでいくことになると思いますが、まずは気になっていた電源車の問題について書いてみます。

 事故直後に東京電力は移動できる電源車で途絶した電力を供給し、原子炉の冷却を再開しようとして失敗しています。それについて、週刊誌が電源車のコードが短くて原子炉に接続できなかったと書いていて、それが本当なのか疑問を感じていました。(過去の記事はこちら

 週刊文春3月31日号の22ページに、次のような記述があります。

「海水を注入するなど頭になかった。水素爆発も予想していませんでした。電力も非常用ディーゼル発電もダメになっていましたが、現場に電源車が向かっていたため間に合うだろう、間に合わなくても炉心溶融は起きないと考えたのです」
 まずは電源の復旧というシナリオは、信じられない理由で吹き飛ばされる。
「電源車のコードの長さが足りず、繋げなかった。災害用なのに災害時を想定した設定になっていなかったわけです」(社会部記者)

 どうにも理解しがたい内容だとは思いませんか。考えてみれば、電気会社なのだから電源車のコードを延長すればよいだけのことです。それができない理由というのが想像しにくいのです。

 報告書にはまったく違うことが書いてあります。

3ページ
・本店配電部門から全店に対して高・低圧電源車の確保と1Fへのルートの確認を指示。
・全店の高・低圧電源車が福島に向け出発するが、道路被害や渋滞により思うように進めず。また、自衛隊による高・低圧電源車の空輸を検討するも、重量オーバーにより自衛隊・米軍による空輸を断念。東北電力へ高圧電源車を1Fに派遣依頼。

 つまり、最初に電源車を現場に運べないという問題が起こりました。

23〜24ページ
【代替注水手段の電源復旧】
CRD及びSLCについては、電源盤及びポンプが海水の影響を受けておらず、さらに原子炉への高圧注水が可能であることから、電源車によるパワーセンターの電源復旧作業が進められた。

・15:30頃、使用可能な2号機P/C一次側へのケーブルつなぎ込み、並びに、高圧電源車の接続が完了したが、15:36、1号機で爆発が発生。爆発による飛散物により敷設したケーブルが損傷、高圧電源車は自動停止。作業を中断し全員免震重要棟へ退避した。
・翌日、2号機パワーセンターに接続中の電源車の再起動を試みるも過電流リレーが動作し、送電できず。

 さらに電源ケーブルを繋げるのが2号機だけと分かったので、接続を試みるのですが、1号機の水素爆発により不可能になったのです。

 東電の報告書の方が納得がいく内容です。電気コードが足りなかったなんておかしいと記者は気がつくべきでした。日本のマスコミの欠点は、こういう部分での正確さが不足するのが多いことです。それで読者が判断を間違えることがあるのです。

 上の週刊文春には、続けて次の記述があります。

 さらに「原発ムラの論理」が、ただでさえキレやすい菅直人首相を怒らせた。当初、東電と保安院は首相官邸に「問題はありません」と報告。しかし、
「官邸で原子力安全委員長が、『水素爆発の可能性はあるけど問題はありません』と説明したのです。菅首相は『爆発があったらまずいじゃないか!』と怒り出した。

 この部分は水素爆発で起きた瓦礫が作業を妨害していることが明らかな今、原子力安全委員長の発言がまったく無意味であると言えます。特に3号機の瓦礫には高い放射能を持つものがあります。その点で、この部分は興味深い事実を報じています。

 しかし、その次に東電がベントをするかどうかを迷い、放射線漏れと水素爆発を招き、作業を困難にしたと結論しています。しかし、報告書には12日の午前1時30分頃に、1号機と2号機のベント実施について、東京電力が総理大臣、経済産業大臣、原子力安全・保安院に申し入れをして、了解を得た旨が書かれています。最終的にベントが遅れたのは、作業が困難だったことが詳細に報告書に書かれています。



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