ビン・ラディン追跡が映画化に

2011.5.7


 「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が「Kill Bin Ladin」という映画を撮ると各メディアが報じています。脚本は、やはり「ハート・ロッカー」のマーク・ボールです。

 ただし、企画は数年前からあったもので、ビン・ラディン殺害をきっかけに立ち上がったのではありません。

 この2人が組んだ以上は、単なる勧善懲悪の作品にはなりません。作品の準備をしていた時期に起きたことを考えると、ブッシュ政権の対テロ政策の問題点を突く内容になるでしょう。CIAの拷問、グアンタナモベイ収容所、ヨーロッパの秘密収容所など、対テロ戦の暗部が描かれるはずです。ビン・ラディン襲撃は空回りし、テロ攻撃は防げない。そんなジレンマが描写の対象になりそうです。

 しかし、スポーツ報知の記事「誰が演じる?ビンラディン…ハリウッドで今夏クランクイン」はかなり理解が乏しい。特に問題だと感じるのは以下の部分です。

 当初の構想では、ビンラディンの捜索に奮闘しながらも行方のつかめない米軍兵士の葛藤を描くものだった。しかし、今回のニュースが飛び込んできたことで、ストーリーを大幅に書き直すことに。40分間の急襲作戦と、殺害に至る銃撃戦がクライマックスシーンになるものとみられる。

 スポーツ報知の記事は、典型的なハリウッド映画が制作されるように書いていますが、これはビグローの作風を無視しています。

 ビン・ラディンの住居を襲撃するシーンが含められるかは不明ですが、私はストーリー上は特に必要ないと考えます。

 まず、シナリオを書き直すには、襲撃の正確な詳細を知る必要がありますが、早急にどこまて判明するかが分かりません。正確に描写すれば、シールズ隊員が銃で女子供に手錠をかけ、1人を除くと丸腰の男たちを射殺していく内容になります。それはかなり陰惨な映像で、世間の人たちが想像するような爽快な結末にはなりません。

 パキスタン軍が現場に残された死体の写真を公開していますが、3体の死体はいずれも血まみれで、大量の鼻血を出していました。これは頭部への被弾があったことを連想させます。動く相手はまず胴体に弾を撃ち込んで行動不能にするのが先決です。さらに、倒れた相手の頭部に銃弾を撃ち込んで確実に殺害します。ビン・ラディンの死体も似たようなものでしょう。ビン・ラディンの写真を元に作られた、彼の死に顔という偽写真が出回っています(写真はこちら)が、下のビン・ラディンと共に殺された男たちの本物の写真は顔にボカシがあるものの、偽物とはかなり違うことが分かります。

 こういう状況を描くのは、作戦成功に水を差すことにもなりかねず、批判を招くことになります。ブッシュ政権の問題点を指摘しながらも、ビン・ラディン殺害も批判して、同時多発テロの被害者を傷つけるのは避けるというのが、あたりまえの映画制作者の考え方です。

 cnn.co.jpの記事「『ビンラディン追跡』映画の企画、容疑者殺害で結末は?」は、もっと妥当な理解をしています。

しかし結末が先に出てしまった今、同プロジェクトの先行きが不透明になってきたとTHR紙は伝えている。ビンラディン容疑者殺害作戦の失敗について描くはずだったストーリーが変更されるか、またはハリウッドがもっと大々的に宣伝できる大作を作るため、この企画自体が中止になる可能性もあるという。

 このように、映画制作者たちは現実的に物事を考えているはずです。

 作品が完成したら、日本の配給会社は字幕制作に注意を払って欲しいと思います。こういう作品は軍事的な内容をしっかり反映した字幕が必要です。


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