元カダフィ政府職員を狙う連続殺人事件

2011.5.24


 military.comによれば、リビアのベンガジ郊外でカダフィ政権のメンバーだった人たちの死体が見つかりました。

 彼らの死体は脚と腕を縛られ、額に1発の弾痕がありました。

 ここ数週間にカダフィ政権の元尋問官の暗殺が起きており、反政府軍が復讐のために暗殺した可能性がいわれています。

 アムネスティ・インターナショナルと反政府派が新設した司法省によれば、最近数週間で少なくとも3人の殺害された元カダフィ政権の職員がいました。反政府派の保安当局者は犠牲者はもっと多いだろうと言いました。彼は今月初めの一週間だけでカダフィ政権職員の死体6体が見つかったと言いました。6人全員は綿密に防護された容疑者のリストにありました。反政府当局者は「我が名前をリストに載せるたび、彼らを逮捕するために誰かを送るたび、我々は彼らが殺されたばかりなのを見つけます」と匿名を希望する当局者は言いました。

 今のところ、反政府派の指導者は殺人者をほとんど捕まえようとしていません。反政府派の暫定政府は戦いが続く中、未熟な司法システムを組織しましたが、発展中の裁判所と刑務所は一般の犯罪で手一杯です。拷問と残虐行為により、多くの者たちは元カダフィ政権の治安当局者にほとんど共感していません。最近の殺害急増では誰も逮捕されていませんし、裁判所が調査する予定はありません。

 「革命以降、多くの殺人が行われ、一部は犯人は分かっていますが一部は分かりません」とジャマル・ベニュア判事(Judge Jamal Bennour)は言いました。「現時点で、警察が武器を持つ男を逮捕するのはとても難しいのです」。武器を持つ男のほとんどは、いま自由リビア解放軍(the Liberation Army of Free Libya)と呼ばれるものの中にいます。

 反政府派保安部隊の責任者、アブデル・バサト・エルシャヒビ(Abdel-Basat Elshaheibi)は、彼の部下による仕事ではなく、カダフィ政権職員が殺人の背後にいると疑いました。「彼ら、我々に対抗するための問題とプロパガンダを作るか、おそらくカダフィ政権期に行われた犯罪の目撃者を消そうとして殺したのかも知れません」

 ベニュア判事は、殺害はカダフィの治安組織に拘留されていた間に拷問を受けた元受刑者の復讐かも知れないと言いました。

 アムネスティ・インターナショナルの上級研究員、ドナテッラ・ロベラ(Donatella Rovera)は、反政府派の民間政権は、非合法の報復に反対を表明していますが、法廷によらない殺害を止める意志と能力かは疑問のままです。 

 国連人権高等弁務官はは反政府派が人権侵害をしなかったかを調査しています。

 ベニュア判事は3~4件の元カダフィ政権職員の殺害が彼の事件記録簿にあり、2月15日に反乱が始まってから、37件の殺人事件がありました。それらの他の事件の大半は、革命の恩恵を受けた人たちが個人的な恨みに報復したようだと言いました。

 たとえ容疑者を逮捕しても、刑務所が、一部は釈放された受刑者により、一部は抗議者により焼き払われたので、彼らを投獄するところはありません。

 ボランティアが一新したボ・デゼラ刑務所(Bo-Dezera prison)の小さい独居房だけは、82人の一般の犯罪者を収容していると、刑務所長、アリ・エル・ガイアニ(Ali el-Ghirani)は言いました。革命の初期にカダフィ政権が釈放して、逃走中の約3,000人を入れる場所はありません。

 街は多くが平和で、当局は革命の前よりも住居侵入や窃盗が減ったと報告しますが、カダフィ政権で働いていた人たちは不安の中で暮らしています。

 先週、反政府派の保安当局者がカダフィ政権期の刑務官、ヨウスウフ・エルタボリ(Youssouf Eltabouli)を拘束しに行った時、彼は彼らを暗殺団と誤解し、銃撃戦になりました。怪我をした者はおらず、反政府派はあとで引き返し、エルタボリは逮捕されました。

 また、カダフィの治安軍の将軍が、自分が次に暗殺のリストに載るのを恐れ、ここに来たとエルシャヒビは言いました。


 独裁政治が終わると、政権当事者に対する報復が始まるのは、よくあることです。もちろん、私的な制裁は不法です。特に、国際人権機関が整備されてからは、そうした行為は恥ずべきものと考えられるようになりました。かつて、国家や革命側が不法行為に手を染めた時代がありましたが、ようやく良識が国際社会で通る時代になったのです。

 しかし、アフリカで、報復を認めるイスラム教の国で、こういう考えが通るかは、世界の進歩を推し量る試金石となります。現に、イラクではサダム・フセイン元大統領の死刑執行では、彼を辱めながら処刑するという、望ましくないやり方が使われました。

 秘密の容疑者リストの人物ばかりが殺されているのなら、反政府派の中に殺人者がいる可能性が高いことになりますが、組織的なのか個人的なのかも含め、真相は不明です。しかし、長く続く裁判所を見たくないと考える人が、容疑者が司直の手に落ちる前に殺した可能性はありそうです。

 今後も民主化のための内乱は増えると予測されますが、革命側の行動も評価の対象となります。第三世界が世界に恥じない革命ができるどうか、我々は慎重に評価しなければなりません。

 それから、内乱後に犯罪が減ったのは不思議に思えるかも知れませんが、男たちが戦場に行き、潜在的な犯罪者が減ったためと考えておくべきでしょう。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.