ノルマンディ沖に風力発電所?

2011.5.23


 小ネタですが、military.comによれば、歴史的な戦跡の近くに風力発電所を作るかどうかで問題になっています。

 今年初め、フランスのニコラ・サルコジ大統領(President Nicolas Sarkozy)はフランス西海岸に5ヶ所の風力発電所を、1ヶ所はノルマンディのジュノー(Juno)とオマハ(Omaha)の両海岸に建設する予定だと発表しました。作業は2015年に始まり、525フィート(約160m)のタービンが海岸から約7マイル(約11km)に建てられることになっています。イギリスとフランスの環境保護団体と退役軍人団体は、風車の位置が不適切で、歴史的な土地を冒涜しているとして、この計画に批判的です。

 「我々はこの場所を商人たちから守らなければなりません」と「the European Platform Against Windfarm」と「French Federation Environment Durable」の理事、ジーン・ルイス・ビューター(Jean Louis Butre)は言いました。「彼らは記憶を破壊しようとしているのに、気にしていません」。ビューターは、彼は風力発電所が建設コストに見合う電力を供給しないために反対していると言います。5ヶ所の風力発電所を建設する見積額は100億ユーロです。

 発電所の支持者たちは、塔が海岸線からほとんど見えないと主張します。ノルマンディの米国国家墓地で働く匿名を希望するアメリカ人は、風力発電所は墓地の敷地内にはなく、存在したとしても「目の毒」になることを疑うと言いました。

 この計画に関する考えを問うた、第506空挺歩兵連隊の退役軍人に出した大量の電子メールには、未亡人から1通だけの返信がありました。レイチェル・ジョンソン(Rachel Johnson)は「私は、どんなに過去を復活させようとしても、二度と家へは行き着かないということに気がつきました」「地球をさらなる冒涜から守るために、私は風力発電所、大量の太陽発電パネル、ハイドロポニック・テントの菜園とまったく異なる人生観を支持します」。

 フランスとイギリスの退役軍人、環境保護団体は計画に声をあげて抗議しています。「夜間に沖で点滅している50から100基のこうした物体は、記念碑ではなくディスコのように見えそうです」「例外なく、我々の団体はこれを、多くの戦士が命を捧げた神聖な土地への侵入と考えます」とビューターは言いました。


 原発大国のフランスで風力発電所の問題とは意外です。

 最初にこの記事のタイトルを読んだときには、軍人墓地の近くに巨大な風車が立っているところを想像しましたが、11kmの沖合なら、景観を損なうようなことはないように思われました。Google Earthで位置関係と距離を確認しました。国立軍人墓地の北端の道路から、北11kmに高さ160mに相当する赤く棒状のポリゴンを建て、標高約50mの起点から眺めたところ、ポリゴンは水平線上に小さく見えはするものの、それほど気にはならないことが分かりました。これなら遠くで風車が回っているのが僅かに見えるくらいです。確かに連合軍が来援した沖を見るときには眼に入りますが、これくらいなら問題はないと思います。原子力発電所が見えるわけではないのですから。

図は右クリックで拡大できます。

 騒音についても、11kmも離れると問題にはなりません。環境省のホームページには風力発電所の騒音で苦情を言った人の事例が載っています(ページはこちら)。出力1500kWの風車から680mの位置の住人から苦情が出たものの、騒音・低周波音は測定されなかったということです。だから、ノルマンディ沖の風車が騒音問題を起こすことはありません。

 ビューター氏が言うように、風力発電には発電量が小さいという懸念があります。しかし、この種の反対意見には原子力発電推進が隠れているかも知れず、風力発電反対運動がどんな動機で行われているかを私は知りません。原発推進のために自然再生エネルギーに反対する意見があるとすれば、それは聞く価値がないと言うべきです。自然再生エネルギーでは原子力発電の代替にはならないという意見は、原子力発電の発電量を大きく見積もり、自然再生エネルギーの発電力を小さく見積もることで、原子力発電の効用を高くみせているものがあります。発電量の問題は技術革新で克服する可能性もあります。

 記事に退役軍人たちからの具体的な反対意見は書かれていない点は疑問です。誰が反対しているのかが分かりません。


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